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カーター元大統領のノーベル平和賞受賞とNGI

2002年06月16日(水)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有


 昨年のノーベル平和賞は国連が受賞し、今年はジミー・カーター氏に決まった。冷戦後特に機能している国連はNGO(非政府団体)の活動を重視している。大統領時代のカーター氏の評価は必ずしも高いものでなかったが、引退後のカーター氏は「平和の使者」としていくつかの紛争を未然に防ぐ活動を、国家、外交、安全保障等の制約を受けず個人の資格で行ってきた。まさにNGI(Non-Governmental Individual. 非政府個人)の活動が世界に認められたのである。

 今回のカーター氏の受賞には大きな意味がこめられている。約8年前の北朝鮮の核開発の疑惑問題で朝鮮半島は一発触発の状況におかれているとき、カーター氏は北朝鮮に乗り込み金日成総書記と会談し紛争の回避を成功させた。ブッシュ政権のイラクに対する先制攻撃の容認が米国議会を通過し、米国はテロや「ならず者国家」に対し戦争を辞さぬ姿勢を明確にした。カーター氏の信念である紛争を未然に防ぐ「予防外交」とブッシュ政権の先制攻撃を容認する「国家安全保障戦略」とは大きな格差がある。

 米国で戦争の論議が高まっている時期に、カーター氏の活動を世界が評価したことは、「悪の枢軸」であるイラクや北朝鮮の問題解決に平和やソフトランディングという選択を増やしたことになると考えられる。

 筆者はカーター夫妻が中心となり活動をしている「カーターセンター」の活動に7年前より興味を持ってきた。カーターセンターは、南アフリカ、イラク、北朝鮮、リベリア、キューバ等の問題を平和活動を通じ関わってきたのみならず、米国の国内問題に対しても細やかな配慮を行い、カーター氏自身が汗をかき行動で示すと同時に結果を出してきた。

 特にカーター氏の活動に感銘を受けたのが西アフリカのリベリアにカーター氏が紛争の調停に入ったことを知ってからである。筆者はリベリアの首都モンロビアから250km内陸に入った奥地で80年代後半に2年間生活した。リベリアを出てから数ヶ月で大規模な紛争が発生し生活した地が反政府側の拠点となった。この地の状況を知っている者にとっては、命を覚悟で入らなければいけないのであるが、いとも簡単にカーター氏は平和の使者としてリベリアの奥地に入ったことを知ったときには本当に驚いた。

 また、キューバのカストロ大統領もカーター氏のスペイン語での演説に耳を傾け、カーター氏のキューバへの人権問題への批判を受け入れキューバ国民にカーター氏の主張を伝えた。このようにカーター氏の行動は、哲学者、教育者、宗教家のどれをとっても当てはまる幅広いものであり、加えて人類愛や地球益の活動に根ざしている。

 カーター大統領とブッシュ大統領、典型的な民主党と共和党である2つの主張には大きな差が存在しているが、一つ明らかなことは、米国には一人一人が国家を考え、個人を主張する自由がはびこっているとことである。ケネディー大統領の「国民が国のために何ができるかを考えなければいけない」との名言の如く、イラクへの攻撃の論議を聞き、アメリカの若者を戦場に追いやるという行為に関し、国民の一人一人が国の舵取りに関わっていると感じた。

 イラク攻撃に対し、ワシントンポストやニューヨークタイムズは連日、ブッシュ政権や議会での重要なスピーチを全文掲載している。また、CSPANのようなテレビでは、解説や評論をいれず忠実に重要な発言や講演をすべて流している。日本ではやたらに解説が多く、主張者の信念が伝わりにくい。しかし、アメリカでは個人の主張をバイアスを通さず個人が判断できる環境を一部のマスコミではあるが作り出している。カーター氏のノーベル平和賞により、個人が国、世界をも動かすことができるというNGI(非政府個人)の活動が注目されるきっかけになることを期待したい。

 中野さんにメールは mailto:TNAKANO@BROOKINGS.EDU

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