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日大ゴルフ部を駆逐した東北福祉大から学ぶこと

1998年11月21日(土)
ジャーナリスト 宮本 天


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 日本のゴルフ界の一角で「異変」が起こっている。大学ゴルフ界で「常勝軍団」だった日本大学ゴルフ部が今年に入ってから、ある地方の新興大学に大きな試合で立て続けに破れている。その大学とは仙台にある東北福祉大学という大学だ。

 日大ゴルフ部といえば倉本昌宏や湯原信光、丸山茂樹など、日本のプロゴルフ界を代表するメジャー選手を数多く輩出してきた文字通りゴルフ界の「登竜門」。そのガリバー・日大を一度ならず連続して打ち負かしているのだから、東北福祉大の快挙はもはや「奇跡」ではない。そしてそこからは「無名の新設大学」が有名大学にも負けない強力な存在になり得る方法が見て取れる。

 「われわれは自分の意志で入ってきた学生たちにそれなりの環境を揃えてあげて、あとは本人たちのやる気に任せてるだけです」−東北福祉大ゴルフ部の阿部靖彦監督はあるゴルフ専門誌のインタビューでこう答えている。阿部氏のいう「それなりの環境」が実は圧倒的な程すごいのである。

 阿部氏によればキャンパスのすぐ近くの校有地に練習用のグリーンやバンカーが整備され、地元には300円で打ち放題をさせてくれる練習場や、ラウンド練習をさせてくれるコースが複数あって、選手たちはこれらの施設を存分に使い練習漬けの毎日を送っているという。これは他の大学のゴルフ部の学生にはうらやましさを通り過ぎて考えられないくらいの充実ぶりらしい。

 大学時代ゴルフ部に在籍し選手として活躍していた経験を持つ友人がいっていた。彼の大学は東京の私立大学だったが、練習費やラウンド費、遠征費や交通費などで月々10万円近い出費だったという。部員の大部分は練習場の球拾いやゴルフ場のキャディ、プロのトーナメント運営の手伝いなどゴルフ関係のアルバイトをして賄うのだという。ちなみにキャディのアルバイトは日給1万円程度というから、きつい仕事だが割はいいようである。

 東北福祉大ゴルフ部が常勝日大を倒すまで強くなった秘密はどこにあるのか。結論からいえば、それは「経営戦略」の成功に他ならない。この場所の強みは何であり、それを生かして何ができるか(あるいは、こういうことをするためにはどこの場所が適当か)、そしてそれを実現するためには何にどれだけの投資が必要か。まさに「マーケティング」「事業投資」の視点である。

 東北福祉大は大学の運動部にありがちな「セレクション」、つまり有力選手のスカウトは一切行っていないという。「有名私大」ではないこの大学に全日本学生選手権に優勝するような有力選手が集まり始めているのである。大学の目論みは見事に成功している。
 
 エースの3年生、星野英正君がいう。「これだけの環境が整っている大学が他にありますか。いろいろな大学の話を聞いているけれど、こんなところはまずない。大学にそれだけ歴史があっても、結局やるのは自分ですから。そういうのは関係ないです」。

 そして彼はこうもいっている。「完成されたチームでやるより、自分たちで一から作り上げていくという方が楽しいじゃないですか。僕は高校生の時から、大学に行ったら自分が率先してチームのレベルを上げて、団体戦で日本一になりたいと思っていました」−したたかではないか、たくましいではないか。

 最近の「優秀な」若者は、自己実現のために最適な場所を探すことになかなかどん欲であり、彼らは出来合いの先入観に影響されることはほとんどなどない。自分の目で確かめ自分の頭で判断する。大人のアチチュードである。星野君は高校生時代から「未完の大器」として全国的に注目されていた逸材。

 ゴルフ界には「十年に一人の才能」という専門家もいるほどで、当然有力大学からセレクションの誘いがいくつもあったことは想像に難くない。その星野君が東北福祉大を選んだのはそこが「ゴルフをするために最適な場所」だったからに他ならない。

 バブル当時、専門学校が大学経営に進出するなどして全国で相当数の新設大学がお目見えした。だが、少子化時代に入りただでさえ学校経営が難しくなりつつある環境下、大学間の学生獲得競争は熾烈を極め、有名大学ですら試験科目を減らすなど「ハードル」を下げてきているなかで、知名度の低い新設大学がただ「入試がやさしい」というだけで生き残ることは不可能である。すでに一部では破綻する学校法人が出始めているが、それらは魅力的な特徴を創出する自助努力をしてこなかったところといえるだろう。
 
 新設大学は存在をアピールするための「作戦」を練らなければならない。何かひとつでいい、経営者が自分たちはこれで有名大学を駆逐するというターゲットを決め、その目標を達成するために必要な投資を集中的に断行する。大学である以上その素材は「学問」に求めるのが本来は好ましいが、「経営」の観点から当座はそれにこだわらなくてもいいだろう。

 東北福祉大や駅伝マラソンですっかり全国区になった山梨学院大学が実証しているように「スポーツ」も有効な切り札になり得る。学問のように学会の権威的序列や学閥のしがらみに翻弄されることがなく純水に結果勝負である分、スポーツの方が材料として扱いやすいかもしれない。

 東北福祉大や山梨学院大はすでに「目指される大学」として「権威ある一流のポジション」を確立した。永遠に序列変化が起きることなどないであろうと思われていたマンネリそのものだった日本の大学界で、ほんの一角ではあれ、確実に新陳代謝が起こり、猛烈な勢いで進んでいる。「体制」を破壊するのは常に「ベンチャー」であり、それは大学界も例外ではなさそうだ。

 そういえば今年のプロ野球日本シリーズの覇者である「横浜ベイスターズ」の佐々木投手も、東北福祉大の出身だそうである。(MIYAMOYO Ten)


 宮本天氏は、通信社勤務の傍ら、8月にホームページ「視点」を立ち上げ、経済を中心とした視点から日本を見直すコラムを書き始めている。

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