HAB Research & Brothers


M&Aで変わる日本の会社組織

2000年05月05日(金)
萬晩報通信員 園田義明



 ★会社分割制度の概要

2000年3月10日に、会社分割を盛り込んだ「商法等の一部改正案」が国会に提出された。4月21日より国会で本格的な審議に入っており、今国会で成立する見通しである。会社分割制度は、企業の事業部門を切り離して新会社を設立する「新設分割」と、分割した事業部門と既存の別会社を合併させる「吸収分割」の二つのタイプが規定されている。

第一勧業、富士、日本興業の三行統合による「みずほファイナンシャルグループ」は、導入を見込んで今年10月の持株会社設立後の事業部門分割統合を発表しており法的基盤が実質遅れて整うかたちとなった。

会社分割制度の創設は経済界にとって、合併手続きの簡素化や株式交換制度導入に続く企業再編法制3点セットの「総仕上げ」ともいえる法整備となる。政府は早ければ今秋からの施行を予定しており、分離独立や不採算部門の切り離しがこれまで以上に簡素化されることから日本でのM&A&Dによる企業再編成が今後一気に加速するはずだ。

またこの会社分割制度は、一部にリストラ関連制度とも呼ばれることから、一般にとっても身近な問題として話題を集めそうだ。

 ★リストラクチャリングの誤った認識

M&A&Dとは合併(マージャー=merger)、買収(アクイジション=acquisition)、事業分割(ダイベスティチャー=divestiture)の頭文字を組み合わせたもので、一般的にはM&Aと呼ばれている。今回の会社分割制度はまさしくこの事業分割=Dを法的に規定したものだ。

そして失われた10年を象徴するリストラ(=リストラクチャリング)と事業分割=Dは切ってもきれない関係にある。

本来リストラクチャリングとは再構築、再編、編成がえを意味しオペレーショナル・リストラクチャリング(事業再構築)とファイナンシャル・リストラクチャリング(財務再構築)に大別される。ファイナンシャル・リストラクチャリングは企業や金融機関が、自社株の買い戻しや債券償還、スワップ、資産売却を通じて財務構成や収益率改善をはかるものである。

一方オペレーショナル・リストラクチャリングは企業や金融機関が事業部門別、製品種類別構成をグランド・ストラテジーに対応して再編成することである。そしてその重要な手段がM&A&Dである。どうも日本国内では経営者も含めてリストラといえば人員削減の意味と思い込んでいるようであるが誤った認識である。

オリックス・イチロー選手の「かわらなきゃ も かわらなきゃ」が最後に選んだ方法がM&A&Dである。その日産自動車の事例を取り上げたい。

 ★どう変わったか日産自動車

一般的にM&Aにおいては結果として期待どうりの成果が得られない場合に部分的なものも含め転売(=事業分割=D)したり、負債返済のために一部を売却(=事業分割=D)する。従って常にM&Aと事業分割=Dは堅く結びついているのである。

仏ルノー傘下の日産自動車は昨年10月に策定した「日産リバイバル・プラン」で、ノン・コア事業の分離による資源の活用を方策のひとつとして掲げており、本業である自動車事業への経営資源の集中を目的とした分割を実施している。


* 富士重株の売却益70億円(2000.4.13)

* 宇宙航空事業を石川島播磨重工に営業譲渡(2000.4.10)

* 携帯・自動車電話事業会社の株式を譲渡(1999.8.2)

* 焼結部門を日立粉末冶金へ譲渡(1999.7.29)

* NACCO、NMHG産業機械事業の譲渡について(1999.5.17)

この中で航空宇宙・防衛部門の石川島播磨重工への売却額は400億円強と予測され同部門の約860人の従業員も引継ぐ見通しである。この営業譲受は、両社航空宇宙および防衛事業内容において、重複する部門が無く、極めて「効率的な補完関係」にあることから両社のメリットが一致した。

こうした分割に対してカルロス・ゴーン当時最高執行責任者(COO)は4月18日のニューヨーク市内での講演で、日産自動車が進めているリバイバルプランに基づき、現在所有している1394社の株式の売却を進め、3年後には最大で4社に減らす考えを明らかにした。また同時に次の注目すべき発言をしている。

「富士重工業の株式をゼネラル・モーターズ(GM)に、日産の宇宙・防衛部門を石川島播磨重工業に売却したが、ベストの価格で売ることができた」と述べた上で「1394社のうち、300社について現在売却交渉を行っている」ことも明らかにした。

古くは1989年にソニーが米映画会社コロンビア・ピクチャーズ・エンターテイメントを買収したが、この買収は当時コロンビアの株式の49%を保有していたコカ・コーラが業績の低迷と多発するトラブルから映画事業への興味を失い、ソニーに対して売却する交渉を始めたことがきっかけである。異業種の組み合わせがシナジー効果をもたらし成功につながるのである。

日産とルノーは、昨年3月27日に提携合意に至った時点で、国際的に高い見識を備えた委員によって構成されるアライアンスのためのインターナショナル・アドバイザリー・ボードの設置を決定しており、2000年3月30日にその概要を発表した。このボードのミッションは、日産とルノーのアライアンスに関するグローバル戦略の指針となるべき考え方や視点、意見、知見を供することであり、塙義一 日産自動車(株)会長兼社長兼CEOおよびルイ・シュヴァイツァー・ルノー会長兼CEOが共同議長を務める。10人の委員にポール・アレア・ゼロックス会長(米国)、フランク・N・ニューマン・バンカーズ・トラスト名誉会長(米国、ドイツ銀行傘下)、橋本徹(株)富士銀行会長などと並んでソニーの社外取締役を務める中谷巌/多摩大学教授が選任されたことに注目すべきであろう。

 ★日本における単純すぎるM&A議論

日本ではM&A=非友好的なものと解釈し特に海外企業が対象になった場合感情的な議論に陥ることが多い。「乗っ取り」や「買い占め」のイメージが先行しているからであろうが、M&Aの母国アメリカでも敵対的買収はさほど多くなく、友好的なM&Aが大半を占めている。

見落としている方が多いので1985年1月19日に発表されたアメリカ経済白(正式名;経済諮問委員会年次報告「THE ANNUAL REPORT OF THE COUNCIL OF ECONOMIC ADVISERS」)を振り返りたい。 当時アメリカ国内でもM&Aの功罪について議論されており以下がその要約である。

「アメリカ経済の成否の鍵は、熾烈な経済競争の手の中にある。競争に打ち勝つために、経営者は、日進月歩で進歩する技術、たえず変化する需要、不安定な資本市場に対応することを迫られる。競争のため、手にいれた地位はつねに脅かされ、経営者は現状に安住することを許されず、つねに組織改革を行い、新しい資金調達手段を考案していかなければならない。要するに、競争の結果、効率的な生産形態が発展し、寿命のつきた製造方法や組織が消滅することにより、経済は成長していくのである。」とし「企業買収にたいする連邦規制を強化することは、時期尚早かつ不必要であり、また、賢明ともいえない。」と結論付けている。

 ★再編の裏側

東京三菱銀行と三菱信託銀行の統合により金融再編の第一幕は収束した。今後収益性向上を狙った国内外証券、生損保などとの垣根を超えた第二幕が始まることとなるだろう。 この再編の裏側に各企業グループが公表した驚くべき数字がある。


 みずほグループ        6,000         

 三井住友銀行         6,300

 三和・東海・あさひグループ  4,504

 三菱グループ        現時点未公開

三菱グループを除くと合計16,804となる数字の単位は『人』である。それは各グループが公表した人員削減数である。

日産自動車も「日産リバイバル・プラン」にて、連結ベースで21,000人の人員削減を発表しており、すでに日本経済は待ったなしの状況に追い込まれているのである。

 ★歴史的転換期を迎える日本的伝統経営

日本銀行のまとめによると1999年の外国企業による対日直接投資は前年比3.4倍の1兆4千億円となり、過去最高を更新した。仏ルノーによる日産自動車への資本参加に代表される国際的なM&A&Dが活発化している点が注目される。今年に入っても独米ダイムラー・クライスラーと三菱自動車などの大形案件が発表されており、その勢いは止まりそうにない。金融再編による系列解体によりますます拍車がかかるものと思われる。

現在まさに金融や自動車に象徴されるマーケットの成熟化や消費者ニーズの多様化、国際化、そしてIT分野を含めた情報通信革命によりますますスピードアップする産業構造変化に対応するにはM&A&Dは避けては通れない効果的な手段である。

確かに「寿命のつきた製造方法や組織」を分割する際に多くの場合人員削減につながるが、場合によってはソニー・コロンビアのように新たな組織のもとで再生・存続させることも可能となる。

本来ここに経営陣の能力が試されるべきである。

この失われた10年を謙虚にみつめれば、日本の政治経済システム自体の問題に起因していることがわかる。『政治家や経営者が創造的破壊や組織改革や新たな資金調達手段などを無視して、どうすれば安住できるかしか考えなかったこと』が原因である。そしてまたもやその責任を曖昧にする日本的伝統思想も見隠れしている。

M&A&Dを大小問わずいかに日本的にアレンジしながら企業戦略に活用できるかがこれからのテーマとなろう。ベンチャー育成と同時に、事業分割を重視した高度な金融技術を有したM&A&D斡旋再生機関の出現も現在の日本にとって必要不可欠である。

ただしリストラに揺れる不健全な組織にしがみつくより、「自ら飛び出して見事に再生させて見返してやる」ぐらいの気概がこれからの日本を変えていくに違いない。


参考・引用

■ 日本経済新聞/毎日新聞/朝日新聞
■ 各企業ホームページ
 ・「M&A−20世紀の錬金術」 松井和夫 講談社現代新書
 ・1999年11月1日毎日新聞社 週刊エコノミスト臨時増刊「会計革命U」


 園田さんは東京在住のサラリーマン。国際戦略コラムでもコラムを執筆中
 園田さんにメールは yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp
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