よさこいが終わり、過去の新聞を整理していたら、8月10日の日経地域面に「富士通、地域課題の挑む 高知・土佐山の振興支援」という大きな記事を発見。 高知支局長の古宇田氏が書いてくれていた。古宇田氏はたった一人で高知県全域をカバー、その中で土佐山アカデミーの活動に注目してくれている。地元紙の高 知新聞が取材すらしない分野を精力的に執筆してくれる有難い応援団である。アカデミーが小さいながらも発進力を持てるのはこうしたメディアの応援があって のこと。感謝、感謝。
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 人口減や高齢化が全国平均より10年以上先行する高知県。中でも過疎化が進む土佐山地域で、富士通と地元NPO法人が組み、地域課題を解決する取り組みが始まった。ICT(情報通信技術)の活用に限らず様々なアイデアを示し、地域ぐるみで全国に通用する活性化のモデルを作る。課題先進県ともいわれる高知は過疎化を逆手に、外部との連携に活路を見いだす。

 「とさやまストアで働くきょうちゃんは元気で地元でも評判の人物だ」「その人を紹介できれば、全国への情報発信のコンテンツになりそ う」。7月、富士通の社員10人が高知市の土佐山地域(旧土佐山村)を訪問。NPO法人土佐山アカデミーの吉冨慎作事務局長の説明に社員が反応した。

選抜社員が提案

 場所は典型的な中山間地。1950年に2600人いた人口が2010年には1千人を割り込んだ。高齢化率も高知市全体では23%だが、土佐山では37%に跳ね上がる。

 事業に関わるのは富士通の地域新ビジネス推進統括部だ。14年に設立され、「獺祭」で知られる旭酒造(山口県岩国市)と酒米の安定調達の仕組み作りなどに取り組んできたが、「真っ正面から地域課題に取り組むのは初めて」(渡辺豪千統括部長)という。

  既存の事業だけでは大きな成長が見込めない中、「地域課題を解決するソリューションの提供」(同)を目標に設定。自社の人材やネットワークを活用して地域 の活性化に挑む。今回、土佐山というフィールドを使い無償で取り組むが、今後は人材育成を進めて、成功モデルを他地域に広げビジネス化する考えだ。

  参加する社員は全国で公募し、6月に土佐山で開いた2泊3日の研修に選ばれて参加した20人からさらに10人を選抜した。日常業務をこなしながらテレビ会 議と現地調査で解決策を練る。交通費などは会社が負担するが、事業資金は行政に補助金を申請するなど自ら調達する必要がある。

 解決策を 求められているのは地域唯一の食品スーパー「とさやまストア」の再建だ。小さな店だが生鮮食品や雑貨も扱う。市の出先機関や介護施設などが集まるコミュニ ティーの中心部にあり、同地区の永野富昭区長は「井戸端会議の場にもなる、地元には欠かせない存在だ」と強調する。

 農協系のスーパー だったが09年に撤退して個人経営に。それも14年11月に閉店し、有機農業などに取り組む地元の夢産地とさやま開発公社が3月から営業を引き継いだ。た だ、店長を兼務する公社の山本優作代表理事は「ストアの経営は全くの素人で、今の形では厳しいのは事実」と明かす。

 富士通も門外漢だ が、店だけでなく周辺を1つのコミュニティーとして捉えた再建策を検討している。高齢者の見守りなど生活支援サービスにICTを活用したり、耕作放棄地へ の出資を募ったりと、様々な事業の中核に店を位置づけて再生の道を探る。9月に案を示して来年3月までに事業化に取り組む。

 富士通は 14年に高知県と地域振興に関する協定を結んでいたが、最初の案件を選択する際に土佐山アカデミーの存在が大きかった。移住した若手職員らが地域資源を生 かした起業や移住支援などを手掛ける先進的なNPO。富士通にとっては「自分たちだけでは地元に入っていくのに時間がかかる。地域との仲介役を担う組織が ないと事業は難しい」(渡辺統括部長)との思いがあった。

 地域振興に実績

 旧土佐山村時代から様々な地域おこしに取り組んできた実績もある。

  村が建設した「オーベルジュ土佐山」は週末は半年前から予約で埋まる人気ホテルだ。メーンで使う野菜はほぼ土佐山産を使用。料理長と農家が必要な野菜など について情報交換し、敷地内にある棚田も地域住民が管理する。運営を受託するオリエントホテル高知(高知市)の阿久津初夫専務は「ここまで地域と深い関係 を持っている施設は全国的にも少ないはず」と話す。

 その農業では1990年代に夢産地とさやま開発公社を設立して地域をあげて有機農業 を始めた。土佐山アカデミーも母体は公社だ。ただ、観光や農業で実績をあげても簡単に解決できないのが人口減と高齢化。公社の大崎裕一業務執行理事は「地 域からは出てこないアイデアを期待したい」と話している。