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続編・100年前のアメリカを想起させる巨大企業合同

1999年10月09日(土)
萬晩報主宰 伴 武澄



 牧野純二さんから1999年09月04日付萬晩報「100年前のアメリカを想起させる巨大企業合同」の対して3つの視点から「ミスリーディングだ」というメールをもらった。コラムでは少々説明が足らなかったかもしれない。牧野さんのメールを掲載し、あらためてコラムを補足したい。
 ■牧野さんからのメール

 「萬晩報」を、いつも愛読させていただいております。990904号「100年前のアメリカを想起させる巨大企業合同」において、「アメリカでも日本でも独禁法というものがもう機能しなくなっているんだ。これってけっこう恐いんだぜ」という記述がありましたが、これは、少し違うのではないかと思いましたので、お便り申し上げました。

 (1)7つの大型銀行が5つになっても競争は阻害されない
 ご承知のとおり、独禁法は、競争を保護する法律です。そして、競争によってえられる価格競争の結果、消費者の利益を図ることを目的としています。競争を保護するということは、独占を禁止するわけですが、日本というマーケットの中で、7社もの大型銀行がひしめき合い、その内の3社が合併して、5社になったからといって、競争が阻害されるとは、独禁法は考えないと思います。まして、銀行・信託・生保・損保・証券の垣根が取っ払われつつあり、競争単位が増えつつある中では、ますます独禁法の適用の余地は無くなります。

 (2)3行の合併には競争促進効果がある
 今回の3社は、それぞれ単独では生き残れないという状況下での合併であることです。この3社の合併を認めなければ、各社は、死に絶えるか、非常に弱い競争単位として生き延びるしかありません。3社の合併を認めれば、合併会社は、東京三菱、住友と互角に競争できる会社として生き残る可能性が有るわけです。

 市場で競争力のある会社が2社しか残らない状況と3社残る状況とでどちらが独禁政策上好ましいかと言えば、もちろん後者です。つまり、今回の合併は競争促進効果(procompetitive effect)があると判断でき、独禁法は、これを禁止するどころか、好ましいことと考えると思います。

 ところで、これまでの護送船団方式そのものが、独禁法違反であったわけです。それが、バブル崩壊と、ビッグバンにより初めてまともな競争に直面して、競争力というキーワードで再編が行われようとしているわけです。これこそ、独禁法が理想する状況ではないでしょうか。

 (3)1国の企業間の競争から1国の市場での競争へ
 アメリカで、巨大な企業統合が行われていますが、これは独禁法が、自国の会社間の競争を問題とするのではなく、自国の市場の競争を問題としているからです。極端に言えば、米国籍企業が1社しかのこらない状況でも、海外からの米国市場への参入があれば、競争は維持されるわけです。たとえば、世界最大の自動車市場で、3社しか自国の自動車会社がなくても、米国自動車市場が常に熾烈な競争市場であるのは、常に、日本・西欧からの参入があるからです。

 現在、日本の金融業界も、外国資本の新規参入で、ますます競争が激しくなっています。(もっともクライスラーは、単独では強力な競争単位として生き残れなくなった為、ベンツと合併しましたが、ベンツは高級車では強いですが小型車では駄目で、合併により強力な総合自動車メーカーが、出来上がったわけで、procompetitive effectのある合併であり、独禁法がこれを禁ずることは間違いであるわけです)

 公取による審査はこれからだと思いますが、公取は、以上3つの理由から、公開の合併を問題とする可能性は全くないと思います。また米国の独禁当局が、独禁法の運用を誤っているということもないと思いますがいかがでしょうか。以上のこと、十分お分かりのこととは思いましたが、記事の内容が多少ミスリーディングのような気がしましたので。(junji.makino@nifty.ne.jp


 【萬晩報のコラム補足】

 ●上場企業の3分の1を支配下に納める3行統合
 まず日本の金融機関の産業支配は、想像以上だということを知る必要があろう。独禁法で銀行は企業の株式の5%以上を持つことを禁じられているが、メインバンクは直接、間接の株式の持ち合いシステムや資金供給、つまり借金を通じて首根っこを抑えているといって間違いない。

 事業拡大や設備投資などお金のかかる話は必ずメインバンクに話を通しておかなければ、その後の事業展開はおぼつかない。場合によっては社内の人事さえ牛耳っていることさえある。一部の無借金経営の企業を除いて一番恐いのが「資金供給のストップ」である。

 日産自動車がルノーに株式を売却して大規模な提携の乗り出したときも、両者のやりとりは逐一、メインの富士銀行や日本興業銀行に報告されていたはずである。なにを隠そう、産業界を取材する際の経済記者の最大の取材源は銀行であり、通産省なのだ。

 日本の場合、企業内のあらゆる情報がメインバンクに集まるシステムがいつの間にか構築されているのだ。恐ろしいことに、これはだれの意志でもなく自然発生的に生まれたシステムなのだ。たった5%の株式所有で、銀行以外にこのような権限を持っているところはない。

 興銀、第一勧銀、富士銀はすでに産業界に相当な支配力を保持しているが、その3行が統合されると、2000を超える上場企業の3分の1がこの巨大銀行の支配下に入ることになる。やはり"資本の集中"と言わざるを得ない。日本の銀行の合併の場合は、自動車業界や流通業界の大型合併と一線を画して議論する必要があるのだ。

 ●「超低金利」「公的資金」「原価法」に支えられた合併
 牧野さんの2番目の観点からいえば、今回の合併の場合、護送船団を引きずりながら自由競争を目指しているところに問題があると言わざるを得ない。

 まず第1に、超低金利はだれのために続いているのかということである。極論すれば、銀行救済のために国民が貯めてきた将来の生活資金である「年金制度」が瓦解しつつあるのだ。とんでもない救済を受けておきながら世界一の資金量の銀行をつくる必要があるのだろうか。

 興銀、第一勧銀、富士銀のこの3つの銀行のうち、ただの1行でも春の資本増強で公的資金を拒否したところはあっただろうか。実質的に日本という国家に筆頭株主となってもらっておきながら、競争政策もなにもないだろうというのが萬晩報の第2の憤慨である。

 巨額の公的資金の導入により、一時的にBIS基準である自己資本比率は改善した。しかし、この公的資金は当然ながら無利子ではない。莫大な金利がかかる。低金利とはいえ、企業経営的にいえば、年間の当期利益がふっとぶほどの金額である。自己資本比率は改善しても不良債権を処理する原資が逆になくなるのである。

 はっきりしているのは国も銀行も株価や地価の回復に期待しているだけのことである。その意味ではその場しのぎの公的資金導入としか思えないのである。

 しかもほとんどの銀行は去年4月から、重大なルール違反を行っている。バランスシート上の資産の評価に関して、「簿価法」から「原価法」に転換して含み損が出ない会計手法を導入した。国際的にみて企業会計の流れは「簿価法」から「時価法」への転換が常識である。2年後には、資産の時価評価による国際会計基準の導入を控えているのだからなおさらである。

 そんな時期の「原価法」への切り替えは、国が認めたとはいえ「粉飾決算」に近い行為であることを指摘せざるをえない。

 ニューヨーク取引所に上場している東京三菱銀行は当然ながら「原価法」は取り入れていないし、公的資金の導入も拒否した。

 まさに片手で「競争」の旗を振りかざして、もう一方で「護送船団」にしがみつく日本の金融機関に今回のような合併は似つかわしくないのだと思っている。

 ●まだ大競争時代を語る資格がない日本
 牧野さんが挙げた3つの理由のなかで、3つ目に上げたアメリカの独禁政策が「国内企業による競争から国内市場での競争」に転換しているという観点はまさにそうだろうと思う。だが果たして、日本という国はどれほど外資に市場を開放しているのだろうか。

 旧山一証券を継承したメリルリンチは地方都市でも支店を持つようになったが、証券取引所の取引以外で外資がそれほどシェアを持っているとはいえない。アメリカでは国内の自動車市場の4割近くを外資に明け渡しているが、日本ではまだ数%だ。2割の市場を外国勢に明け渡しているのはタバコとか高級化粧品といった嗜好品ぐらいではないかと思う。

 だから日本という市場は本質的にはまだ「自国企業による競争」しか存在しない。確かに日本に眠る巨額の個人資産を狙って外資系銀行が虎視眈々と参入しようとしているが、株価収益力からみて日本の金融機関をまともに買収しようとするところは皆無だ。長銀のようにせいぜい破たん処理を終了した銀行を格安で手に入れるぐらいが関の山だと考えている。

 だから世界的に大競争時代に入ったという認識は正しくても、日本という市場においてはまだ正しくない。

 しかも興銀、第一勧銀、富士銀が欧米市場やアジア市場で欧米勢とまっこうから競争しているのならともかく、経営立て直しのため次々と撤退しているいるような状況で「世界の5指に入る」などという目標は絵空事にすぎない。

 厳しいようだが、国内市場の20%以上を明け渡した業界だけが国際的な競争政策を語る資格があるのだ。

 日本の公取委がどういう判断を示すか分からない。だが3行統合について萬晩報は独禁政策上、問題があると言わざるを得ない。

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