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サインで銀行口座をつくってみよう

1998年04月03日(金)
萬晩報主宰 伴 武澄

 ●東銀は20年前からサインでOK
 数年前、東京・赤坂にあるさくら銀行支店でサインだけで銀行口座を開設した。支店がある赤坂ツインタワービルには外資系企業が多く入っており、外国人向けサービスとして始めたが、日本人社員が「なんで日本人だけサインではいけないんだ」と迫ったことから日本人でもOKになった。

 本当かどうか確かめたくて支店に赴き窓口で申し込んだ。

 「口座を開設したいんですが。サインだけでできると聞いたのですが」
 「あれは外国人向けでして」
 「日本人だってサインで口座をつくったと聞いていますが」
 「ご存じでしたか。でも当支店だけでのご利用になりますがよろしいですか」
 「はい。けっこうです」

 実際の会話は、こんなものではなかった。支店長代理なる人物が出てきてなんとか印鑑を使わせようとした。OKまで30分もかかった。当支店だけの使用に限定するといったが、カードが発行されてどこの支店でも利用が可能だった。

 東京銀行(当時)の知り合いにこの話をしたら、東銀ではサインだけの口座開設は20年前から始まっていた。印鑑ってなんなんだろうという疑問はその時から持ち続けている

 ●生きていたはんこ社会を規定した100年前の法律
 最近になって、おもしろい本と出会った。大巧社の「日本を知る」シリーズの『はんこと日本人』(門田誠一著)である。日本がはんこ社会になったのは、明治時代になってからだという。1871年、太政官布告で、あらかじめ庄屋や年寄りなどに印鑑を届け出て「印鑑帳」を作成して、いつでも印鑑を照合、確認できるようにしなければならなくなった。

 サインよりもはんこを重視するようになったのは、1873年の太政官布告で「証書の類に爪印・花押などを用いる事を禁じ、実印のない証書は法律上、証拠にならない」と定めた。それ以降、土地取引や商業取引のはんこが必要な文化になった。ただ77年の布告では「証書に中に本人が自著し、かつ実印を押すことが必要」となった。サインも併用されたと考えればいい。実印は偽造や盗用の弊害があり、サインに切り替えた方がいいが、庶民はまだサインに慣れていないのではんこを併用するのがいいという方向に考え方が微調整された。

 その後、条約改正や商法典の改正などに際してサインに切り替えようという動きもあったが、1899年の「商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律」の「自書することの能ワザル場合ニハ、記名捺印ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得」という法律がはんこ社会を決定付けた。たった2行の法律はいまでも生きている。六法全書にも記載されている。法案は衆院議員、木村格之輔による議員立法で当時の明治政府はこの法案にまっこうから反対したという。

 なぜはんこにこだわるようになったかといえば、外国人が増えて不都合なことが増えるだろうことに加え、コンピューター文書にははんこは押せないという疑問が湧いたからだ。1980年代前半まで香港ははんこ社会だったが、全面的にサインに切り替えた。香港が変えたのは後になって知ったが、さて日本ははんこ社会をどう変えようとしているのだろうか。法務省とかどこかで考えている人がいれば日本は救われる。

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