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権力と実権を握った韓国大統領

2008年03月13日(木)
韓国ウオッチャー 引地達也
 2年前の秋。ソウル市長の任期を終え、大統領選への出馬を事実上表明していた李氏について、複数の韓国捜査関係者や政府筋は「李明博は必ずつぶれる」と何度も明言していた。ソウル中心を流れる小川を復元工事した「清渓川事業」に絡む汚職、そして株価操作。捜査機関が動き、大手マスコミも独自の調査を続けていた。やがて株価操作に検察の捜査が入ったが、結局、大統領選挙直前に「李明博氏に関与はない」との検察の異例ともいえる発表を行い、検察も李明博という勝ち馬に乗った政治的な判断を下すこととなった。

 そして、この瞬間、李氏が大統領の実権を握ったのである。検察権力が韓国社会の病巣だとして、検察改革を断行しようとしてぶつかり合った盧政権は就任早々から対検察にエネルギーを消耗し、結局は挫折したことを考えると、李氏は早々と検察を味方につけたことになる。そして、古今東西、疑惑に打ち勝った政治家は強くなるのが定説。事件をくぐり抜けて、李氏がますます意気軒昂と感じるのは私だけではないだろう。

 その各政策に目を向ければ実権を持つ李大統領なりの「強さ」がふんだんに織り込まれているのだが、紙幅の関係上、外交だけに焦点をあてる。まずは北朝鮮政策を外交の一環とたらえる「外交政策の一体化」を目指した人事。盧政権は「アマチュア政権」と揶揄される原因となった市民運動出身のスタッフなどを徴用した大統領府(青瓦台)と、南北統一を目標とする「理念」先行型の統一省、そして実際に外交現場を担わされている外交通商省が、それぞれの目線で政策を考え、実行し、それぞれの立場は乖離したまま、国家の外交としてのダイナミズムが失われた反省がある。李大統領はまずはトップダウンの実行に対応する組織作りと人員の配置を考えたようだ。外交通商相と統一相の人事はその顕著な結果であろう。

 外交通商相の柳明桓氏は日米に強い職業外交官であり、統一相は在中国大使をつとめた金夏中氏。韓国外交通商相だった現在の国連事務総長である幡基文氏の後任人事でも実力派の外交官としてこの2人の名前は取り上げられていたが、結局は当時、青瓦台の首席補佐官だった宋ミンスン氏がおさまった。

 外交政策の一体化は外交スタッフにも大きな影響を与え、筆者が盧政権時に外交スタッフからよく聞いた「トップが変人だから」との諦めにも近い説明はもう通用しないだろう。「失われた5年」を取り返すように、外交が動きだし、北朝鮮政策も対日、対米も有機的に動き出すはずである。スポーツを例に出すまでもなく、韓国社会は人と人、組織と組織が「有機的」に結びつくときの異様な力を発揮するのである。

 李大統領が4月中旬に訪米しブッシュ大統領とキャンプ・デービッドで会談する予定だというニュースは印象的だ。盧大統領は在任中、3度訪米しているが、後半ではキャンプ・デービッドで蜜月をアピールするブッシュ大統領と小泉純一郎首相への焦りもあり、韓国外交当局は米側にキャンプ・デービッドでの会談を申し入れ、米側から一笑に付されるという経験がある。任期終了が近いというブッシュ政権の事情もあるにせよ、韓国にとって願ってもない対米外交の再スタートであり、この場で米韓同盟の「未来ビジョン」を発表するには格好の演出である。

 そして対日外交は、就任前の朝日新聞などとのインタビューで「歴史認識を問題化しない」と明言した。竹島(韓国名・独島)の領有権問題や教科書、小泉純一郎首相の靖国神社参拝でシャトル外交が途絶えた時に比べれば、安倍晋三政権以降、回復基調にある日韓関係をさらに正常化、そして友好関係へと導く発言である。しかし、実権を握った大統領がそう言っても、日本のリーダーが靖国神社に参拝すれば、竹島について不用意な発言をすれば、韓国民の反対の声を抑えきれはしない。そう考えれば、これらの発言は「歴史認識が問題となるようなことをしないでくれ」というメッセージであり、先制パンチであると見た方がよい。李大統領の対日融和と言うべきこの発言を受けた上で、日本側がそれを無視する行動をした場合、李大統領が大規模な反日の声を背景に厳しい姿勢に転じるのは間違いない。

 そして、北朝鮮政策。金大中元大統領から続く融和政策は基本的に続けるが、金剛山の観光事業や開城工業団地など南北融和という強い信念を持った「現代グループ」に支えられながら続けられている事業は「民間主導」という形で維持するが、そのほかは前述した通り国際外交の一環として位置づけ、是々非々で対応することになる。一方の北朝鮮側は常套手段である「韓国の沸点を見極め」ようとするはずで、まずは3月初めの米韓合同軍事演習の非難を始める。さて、李大統領はどこで怒り、どこで笑うのか。注目したい。
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