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桜とオリーブの木と葵

2006年04月07日(金)
Nakano Associates 中野 有
 ワシントンの満開の桜を観賞しながら葵のコラムを書いている。

 ジェファーソンメモリアルの周辺に広がる桜は、94年前に尾崎行雄東京市長がワシントン市に寄贈されたものである。太平洋を挟み戦争も発生したが、今もポトマック川の近くの桜は、日米の友好と親善の証としてワシントンの名所となっている。

 春の陽気に誘われ花見に高じる人々の表情は、実に健やかである。世界中の外交官が集まるワシントンにおいて、日本の桜は、外交の駆け引きや戦略を超越した次元で、平和の一翼を担っている。ワシントンには桜外交が存在する。

 米ドルの一ドル紙幣に描かれるワシの右脚には、平和を象徴するオリーブの木、左脚には軍事を意味する矢が示されている。日本への原爆投下を決定したトルーマン大統領の意思により、ワシの視線がオリーブの木の方向に変えられたという話を聞いた。

 エルサレムに樹齢2千年といわれる巨大なオリーブの木がある。ユーラシアの西の果てアフリカへの接点に位置するイスラエル、そのエルサレムの丘のほんの1キロ四方の狭い地域に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の一神教が集中し共存している。この丘に立つと、神聖な気分に浸る。西方の地中海と東方の死海との間にそびえ立つエルサレムの地勢が、宇宙観を呼び起こすのだろう。現場を体験すると乾燥した地に生えるオリーブの木が平和の象徴に例えられる意味が閃いてくる。

 ユーラシア大陸の東の果てには、山紫水明の日本がある。この日本の四季折々の自然が織り成すマジックは、世界でも稀なる美そのものである。20年以上かけ好奇心に任せ世界を観て、その土地土地で生活してきたが、日本の自然の雅ほど、心と体を躍らせるものはない。

 京都に帰った時、いつも早朝に訪れる上賀茂神社の空気は澄みきっている。神話の世界となるが3500年前の古の日本人が、京都盆地の加茂川の上流にこの神社を築いた。先人の自然に根ざした直感(直観)が、山紫水明の地に生える双葉葵を神社の神紋としたのである。古より朝廷とつながる賀茂社の双葉葵を参考に、徳川家康が三つ葉葵を家紋として崇めたことは興味深い。

 一昔前には、百人一首に登場する上賀茂神社に流れる「ならの小川」の辺りには双葉葵が絨毯をしきつめたようにみずみずしい自然を蓄えていたという。産業社会の発展と共に身近にあった双葉葵がほとんど見られなくなった。地球温暖化が自然を切り離しているのであろうか。現代人が古代の人間が備えていた自然の雅に感じ入る行為的直感(直観)をどこかに忘れてしまったのであろうか。

 思想家、寶田時雄さんは、冬の賀茂社を訪れ、地に伏す双葉葵に思いを込められた。「下座鳥瞰」で地球環境の変化や社会の動向をじっと観ているのが葵であり、現代人がなかなか理解できない偉大なるメッセージが葵には宿っているとの達観を示された。

 ワシントンで開催されるシンポジウムや会議では、地球環境問題のメッカとして京都が語られる。古から愛されてきた葵は、地球環境の変化に敏感であり、繊細のゆえに姿を消しつつある。人為的でない自然が伝える外交は、国家の垣根を越え、地球益として世界中の人々が共有できる業である。ハート型をした葵の葉、そのものが平和へのメッセージを秘めている。

 ワシントンの桜、エルサレムのオリーブの木と並び、京都の葵は、世界平和のため、とりわけ地球環境のための大切な役割があるように思われる。2年後には、G8サミットが日本で開催される。葵を通じた日本の外交がきらめくことを願うと同時に、絶滅する可能性のある葵が再びみずみずしい山紫水明の美をひきたててくれることが望まれる。

 中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp

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