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ライジング・チャイナをめぐる議論

2005年01月14日(金)
萬晩報通信員 園田 義明
 ■タイタンの直接対決

 中国の台頭、あるいは東アジア共同体をめぐる議論が国内外で加熱してきた。『フォーリン・アフェアーズ』最新号では、フランシス・フクヤマとエリザベス・エコノミーが関連論文を掲載し、国内オピニオン誌も最新号で一斉にこの問題を取り上げた。

 極めつけは『フォーリン・アフェアーズ』と並んで世界的な権威を持つ外交専門誌『フォーリン・ポリシー』(カーネギー国際平和財団発行)の最新号(2005年1月2月号)である。「クラッシュ・オブ・ザ・タイタンズ(巨人達の衝突)」と題するこの論文は、米国、そして台頭する中国のふたつのタイタンが衝突する運命にあるのかどうかをめぐって、米国地政学のタイタンであるズビグニュー・ブレジンスキーとジョン・ミアシャイアーが直接対決するという二重の衝突が見出せる。

 ひよわな花である日本では、オピニオン誌でもインターネット上でも中国をめぐる感情論が飛び交っている。そのほとんどが冷静さ、冷徹さを欠いたものと言わざるを得ない。リアリズムに関する議論がアジアで最も遅れている日本で、抵抗があろうあろうことを承知の上で「クラッシュ・オブ・ザ・タイタンズ」の世界を描いてみたい。

 ■トライラテラリストの主張

 ブレジンスキーは米中の衝突は避けられると説く。その理由として、中国首脳が軍事的に米国に挑戦しようとは思っておらず、中国はあくまでも経済発展と大国としての仲間入りを目指すものであり、対立的な外交政策をとれば、経済成長を崩壊させ、中国共産党を脅かすことになるため、特に2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博に向けては慎重な外交政策が優勢になるだろうとしている。

 確かに、中国の地域における役割が増し、その勢力範囲が発展すれば必然的に摩擦が生じる。また、米国のパワーが後退する可能性と日本の影響力の免れがたい衰退は、中国の地域における優越性を高めることになるものの、中国は米国に対抗できる軍事力は有しておらず、最小限の戦争抑止力程度でしかない。米国による封鎖によって石油の供給が止まれば、中国経済は麻痺することになるために衝突するとは思えないとした。

 明らかに中国はインターナショナル・システムに同化しており、中国の影響力の慎重な拡がりこそがグローバルな優越性実現に向けた最も確かな道のりであると中国首脳は理解しているとブレジンスキーは見ている。

 トライラテラル・コミッションの創設に関与した国際派ブレジンスキーならでは議論が繰り広げられ、日本政官財界のグローバリストも大喜びしそうな内容となっている。中国に対する「政冷経熱」は日本だけの現象ではないらしい。

 ■ミアシャイマーのゴジラ論

 これに対して、その究極のゴールを世界のパワー・シェアを最大化し、システムを支配し、覇権を目指す攻撃的な存在として大国を位置付けるジョン・ミアシャイマーは、自らのオフェンシブ・リアリズムを中国に適応させ、中国は平和的に台頭することができないと断言する。そして、中国が来るべき2〜30年の間に劇的な経済成長を続けるならば、米国と中国は戦争への可能性をともなう程の緊張した安全保障上のライバルになると説く。その時、インド、日本、シンガポール、韓国、ロシア、ヴェトナムを含めた大部分の中国の隣国は中国のパワーを封じ込めるために米国と結び付くだろうと予測する。

 そして、ブレジンスキーに対して一撃を加えるのである。インターナショナル・システムにおけるメイン・アクターはアナーキーの中に存在する国家であり、このシステムで大国が生き残る最良の方法は、潜在的ライバルと比較してできるだけ強力であることだ。国家が強力であればあるほど、他の国家が攻撃を仕掛ける可能性は少なくなるのだと言い切る。

 追い打ちをかけるように、「なぜ、我々は中国が米国と異なる行動をとることを期待する?」「中国人は、西洋人と比べて、より理にかなっていて、より良心的で、より国家主義的ではなく、彼らの生き残りにも関心がないのか?」と冷徹に疑問を投げかけ、そんなことはありえないとしながら、「中国が米国と同じやり方で、覇権を目指すに決まっているではないか。」と断じるのである。

 そして、中国がアジアを支配しようとすれば、米国の政策担当者がどのように反応するかは、明らかである。米国はライバルを寛大に扱うことはしないのだ。従って、米国は中国を封じ込め、最終的にはアジアを支配することがもはやできないぐらいにまでにパワーを弱めようとするだろう。米国は冷戦時代にソ連にふるまった同じ方法で中国に対処する可能性があるとした。

 また、「中国首脳と中国人は過去一世紀に何があったかについて覚えている。日本は強力で中国は弱かった時のことだ」とした上で、名言が飛び出してくる。「国際政治のアナーキーな世界では、バンビちゃんであるより、ゴジラでいるほうがいいのだ」と。

 ■圧倒するミアシャイマー

 誤解無きように付け加えれば、ミアシャイマーはゴジラのように中国が暴れ回り、他のアジアの国を征服する可能性は低いと見ている。

 そして、ブレジンスキーへの攻撃の手は緩めない。経済分野における相互依存関係に対して、戦前のドイツと日本の事例を示しながら、経済に損害を与える時でさえ、時には経済的な考慮を無視し、かつ戦争を引き起こす要因が存在すると指摘しながら、ゴジラとなった中国はアジアから米国人を追い出し、地域を支配することになるのだと語る。

 これに対して、ブレジンスキーは特に日本から米国を追い出すことが可能かどうかを指摘しながら、たとえ追い出すことができても、中国が強力かつ国家主義的で、核武装した日本が待ちかまえており、中国はそれを望まないと反論する。

 しかし、ミアシャイマーは汚くて危険なビジネスとしての国際政治の世界で、ミアシャイマー自身が描く情勢はそんなかわいいものではないと締めくくるのである。

 詳しくは原文を見ていただきたいが、ミアシャイマーが理論面でブレジンスキーを圧倒していることがわかる。これはブレジンスキーと違ってビジネスに毒されず、理想やイデオロギーや白人優位主義的な希望的観測を排除し、リアリストに徹する姿勢から生まれ出るものだろう。

 しかし、ライジング・チャイナが将来の米国にとっての地政学的な脅威となることは、ふたりに共通しているのである

 ■二匹のゴジラとキングギドラ、そしてモスラの大乱闘

 ミアシャイマーはゴジラが日本生まれであることを知ってか知らずかはわからないが、ミアシャイマーに敬意を払いながらも、ここでは強引にその姿形から中国をキングギドラに変身させてみたい。現在はバンビちゃんに見える中国もミアシャイマーが言うようにキングギドラになるのだろうか。ブレジンスキーも指摘するように、その時日本は核兵器を手にしたゴジラになっているのだろうか。

 かつてゴジラは水爆実験のよって眠りから覚めた。日本ゴジラは2025年、あるいは2030年にはキングギドラの存在によって再び自ら目を覚ますのだろうか。日本自らの意志でゴジラに変身したように見せかけながら、実際には米国によって叩き起こされてしまうのだろう。従って、獲物を狙う鋭い視線で「キングギドラ対日本ゴジラ」を見つめるトカゲのような米国ゴジラの存在も確認できる。

 米国ゴジラはその時に備えて日本核武装論を本格的に仕掛けている。米国の刺客が多数送りこまれている日本でも、その議論は北朝鮮問題も絡めて今後嵐のごとく吹き荒れるだろう。一方で、米国に次ぐ世界第二位の石油消費国となったバンビちゃんは、尻尾を振りながら、その巨体を維持するためにサウジアラビア、イランはおろか、米国の裏庭であるカナダやベネズエラにまで触手を伸ばし始めた。

 キングギドラと二匹のゴジラの衝突を世界中が固唾を飲んで見守っている。しかし、ふと頭上を見上げれば、遙か彼方にモスラがゆっくりと旋回しているのが見える。怪獣のくせに平和の使者を気取りながら、モスラはキングギドラに入れ知恵しているようだ。

 中国の三大石油メジャーであるCNPC(中国石油天然ガス集団公司)、SINOPEC(中国石油化工集団公司)、CNOOC(中国海洋石油総公司)の取締役会を覗くと、キングギドラから招かれたモスラの頭脳集団の存在も見出せる。

 CNPCのフランコ・ベルナベはフランク・ベルナベ・グループの会長やフィアットの取締役などを務め、CNOOCにいるケネス・S・コーティスはゴールドマン・サックス・アジアの副会長である。そして、この二人は共にビルダーバーグ会議のメンバーであることに誰も気付いていない。

 ブレジンスキーの予測通りに米国のパワーが衰退し、キングギドラとモスラと日本ゴジラが連合を組むことになれば、実は米国ゴジラにとって極めて手強い相手になる。なぜなら、石油以外に戦争に必要な重要資源が中国周辺に存在しているからだ。この資源をめぐって中国・日本・米国・北朝鮮が血みどろの死闘を演じてきた裏面史が今なお刻まれ続けている。この存在も米中衝突を回避させる抑止力につながるとするのが、私の見解である。

 とはいえ、モスラが信頼できない平和の使者であることを歴史が物語る。バック・パッシング(責任転嫁)を得意技とするモスラは、いざとなれば米国を自由自在に操りながら相手にぶつけてくるのである。中国は日本やサダム・フセインの経験からこのことを学ぶべきだ。ここで甘えは許されない。また同時に、米国が核兵器を実戦使用した唯一の国家であることを忘れてはならない。

 当面の間、世界情勢を冷静に見極めながら、日本は中国に対して現在の「政冷経熱」状態を適度に維持することが賢明である。その時が来るまで、選択肢の一つとして「バンビちゃん戦略」も位置付け、その骨格としての憲法九条も温存しておくというシナリオも描いておくべきだろう。
(2005年1月12日記)


□引用・参考

Clash of the Titans
By Zbigniew Brzezinski, John J. Mearsheimer
http://www.foreignpolicy.com/story/
cms.php?story_id=2740&print=1


Franco Bernabe
Director at
PetroChina Company Limited
http://www.forbes.com/finance/mktguideapps/personinfo/
FromMktGuideIdPersonTearsheet.jhtml?passedMktGuideId=281257

Kenneth S Courtis
Director at
CNOOC Limited
http://www.forbes.com/finance/mktguideapps/personinfo/
FromMktGuideIdPersonTearsheet.jhtml?passedMktGuideId=337593


 園田さんにメール mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

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