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イラク人質と韓国総選挙報道で露呈したメディアの欠陥

2004年04月24日(土)
萬晩報通信員  成田 好三

 イラクで日本人5人が人質になった事件と、投開票日が人質3人の解放と重なった韓国総選挙の報道で、新聞・TVなど日本の主要メディアは、彼らの抱える根本的欠陥をあらわにさらすことになった。根本的欠陥は、少なくとも3つ露呈した。1つは、日本人絡みの「大事件」によって、ニュースの価値判断が極端に大きくぶれることである。次いで、「局地」しか視野に入れず、「大局」を見ない報道姿勢である。3つ目は、メディアの構造、あるいは構造変化に対して、自ら分析、論評する意思をもたないことである。

 ■韓国総選挙を「無視」したメディア

 日本人3人が人質になった4月8日以降、メディアは韓国総選挙への関心を失ってしまった。新聞各紙の紙面は連日人質関連記事であふれ、韓国総選挙関連記事は紙面の片隅に追いやられた。ここでは新聞の主要3紙だけを取り上げるが、TVも同様、いや新聞以下の扱いになった。

 人質3人が解放された翌日、16日の紙面は人質解放関連記事で埋め尽くされた。16日付朝刊で読売は1面トップに人質解放を充てたが、韓国総選挙を左肩に4段扱いで置いた。朝日、毎日は1面の全紙面を人質解放に割いた。韓国総選挙は、朝日が4面(政治・総合)の左半分ほどを割いたが、トップ扱いではなかった。毎日は2面(総合)トップに位置付けたが、見出しは4段扱いだった。

 選挙結果が確定した後の16日付夕刊の扱いは、主要3紙とも韓国総選挙を1面で扱ったが、朝日は中央下の位置で4段扱い、読売は左側で3段1本見出し、毎日は中央下の横見出しだった。トップは当然、人質解放関連記事である。3紙とも他の面での関連記事はなかった。主要3紙とも17日付の朝刊で社説に韓国総選挙を取り上げたが、いずれも2番手扱いだった。(3紙とも筆者が住む茨城県水戸市に届いた紙面でチェックしました)

 韓国総選挙は、その程度の扱いで済ませるべきニュースだったのか。盧武鉉大統領の弾劾の是非が焦点となった選挙は、韓国社会に劇的な変化をもたらす結果を生んだ。改選前の少数与党「ウリ党」が過半数を超える議席を獲得しただけではない。「三金体制」と、それと裏表の関係にある「地域主義」を突き崩した。「三金」の一人である金鍾泌元首相の落選は、そうした変化を象徴する出来事になった。韓国社会の劇的変化は、日本を含む東アジアに大きな影響を及ぼす。ニュースの重要性からみて、日本のメディアは韓国総選挙を「無視」したとさえ言える。

 ■新たなニュースなしに号外を出した主要3紙

 主要3紙は12日付でそろって、人質事件で前代未聞の号外を発行した。新聞は重大事件発生時に通常の朝刊、夕刊の他、号外を発行する。あるいは新聞休刊日(年の10日ほどある)に重大事件が発生した際に号外を出す。主要3紙は12日付でそろって号外を出した。11日は新聞休刊日だった。しかし、3紙の号外は、人質事件が何も進展しないことを伝える号外になった。筆者の手元に届いた、読売の12日付号外の1面大見出しは、こううたっている。「邦人解放進まず」「情報混乱、政府確認急ぐ」「武装グループ『24時間内』と表明」「新たに3条件説も」。読売の号外は全8ページにも及ぶ、号外としては前例のないほど分厚いものだった。

 日本人人質事件は、イラク情勢の急激な変化の中で起きた。米国の民間人警備要員(元軍特殊部隊員)の殺害と黒焦げの遺体を引き回し、橋に吊り下た事件と、その報復作戦として米軍が敢行したファルージャでの市街戦が人質事件の背景にあることは明らかだった。そのくらいのことは、NHK・BSが毎朝放送している各国のTVニュースを見ていれば、素人でも理解できる。

 しかし、日本のメディアは民間警備要員の殺害もファルージャでの市街戦も視野に入れなかった。ただひたすら人質解放にだけ焦点をあて続けた。あるいは、ほとんど唯一の情報源であるカタールの衛星TV「アルジャジーラ」のチェックをしていた。主要3紙がそろって(横並びで)、人質事件の犯行グループの「行動」ではなく「言葉」(アルジャジーラを通した解放予告)をそのまま信じて、号外を準備し、「邦人解放進まず」のまま号外を発行したことが、そのことを証明している。TVも、人質3人が解放された15日夜、やはりアルジャジーラの映像とコメントを繰り返し流し続けた。

 イラク情勢はこの時期、ブッシュ大統領の何一つ新政策を打ち出せなかった「釈明会見」、米英首脳が国連中心の暫定政権づくりに合意、そして、スペインのサパテロ首相の軍撤退表明へと大きく動いていった。人質事件という「局地」しか視野に入れない日本のメディアは、イラク情勢の劇的変化という「大局」を無視して、この間、人質事件だけに焦点をあてた紙面を展開し、TVニュースを構成してきた。

 ■正社員記者とフリー記者の関係性を位置付けないメディア

 日本のメディア、特に新聞は、一部のフィーチャー記事を除き、会社と雇用関係を結んだ正社員記者の書く記事によって紙面をつくってきた。しかし、共同通信はゴルフなど国内スポーツ記事(生ニュース)で、外部のフリー記者の記事を使うようになった。日本人選手の相次ぐ進出によって、メジャーリーグや欧州サッカーなど海外取材が急激に増えたため、国内取材要員が手薄になってきたためである。こうした動きは通信社に限ったことではないだろう。メディアにとって、フリーの記者、カメラマンの占める位置が次第に大きくなってきた。人質事件でも、郡山総一郎さんは週間朝日と、安田純平さんは東京新聞と関係をもつフリーの記者、カメラマンだった。

 戦争報道では、フリーの位置付けはさらに大きくなってきている。昨年春の「正規のイラク戦争」(ブッシュ大統領の大規模戦闘終結宣言後も戦争は継続している)中、日本のメディアの正社員記者(カメラマン)は、米軍に埋め込まれた従軍記者を除き、全員がイラクから撤退した。イラクにとどまり、正社員記者の「穴」を埋めたのはフリーの記者と現地スタッフである。フリーが撮影した映像なしには、当時のTVニュースは成立しなかった。共同通信が配信した、フリーの記者である綿井健陽氏が書いた現地リポート「戦火のバグダッド」は、地方紙の多くで大きく掲載された。

 今回の人質事件によって正社員記者の撤退の動きは強まってきた。共同通信が18日配信した、及川仁バグダッド支局長のリポートはこう書いている。「陸上自衛隊が活動する南部サマワには、1月19日の先遣隊到着当時、100人近い日本の報道陣がいたが、その後の情勢変化で、18日現在残っているのはフリーカメラマンら2人だけになった」。イラク情勢がさらに悪化すれば、バグダッドに残る正社員記者の撤退の動きも加速する。そうなれば、イラクに残る日本人の記者、カメラマンは正規のイラク戦争当時と同じく、フリーだけになる。

 戦争報道にとっては、もはや欠かすことのできなくなったフリーの記者、カメラマンの存在とその役割をどう位置付けるのか。メディアは、正社員記者中心の自らの構造と、その構造変化について何も語ろうとはしない。フリー記者は安価な費用で使える、正社員記者の「弾除け」なのか。それともフリー記者を自らの構造の中に組み入れていくのか。メディア自体がそのことを分析、論評する必要がある。しかし、どのメディアもただ黙り込んでいるだけである。(2004年4月20日記)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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