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大学の経営戦略が過度の重圧に―箱根駅伝批判(2)

2004年01月26日(月)
萬晩報通信員 成田 好三

 国内最高のレベルの大会ではもちろんない。大学レベルの大会である。しかも、ある地方の大学にしか参加資格がないローカル大会である。そんな大会が、ある新聞・TVメディアの強力な後押しによって、圧倒的な社会的関心を集める大会になった。その結果、地方のローカル大会が、全日本の大学レベルの大会どころか、国内最高レベルの大会をもしのぐ社会的「ステータス」をもつ大会になった。東京・首都圏も日本全体から見れば、ひとつの「地方」であることには変わりはない。それが、箱根駅伝の現在の姿である。

 箱根駅伝の「魔力」に引き寄せられて東京・首都圏の大学に進んだエリートランナーたちは、どんな状況下で何を目標にして走るのだろうか。そのことについて語る前に触れなければならないことがある。箱根駅伝は東京・首都圏の大学にとってどんな存在なのかということである。

 今年、2004年の大会で箱根駅伝は80回を迎えた。大会の実質的主催者である読売新聞は昨年12月、東京で記念シンポジュウムを開いた。基調講演の中で、「ミスター箱根駅伝」ともいえる沢木啓祐・順天堂大教授は、現在の肥大化、巨大化した箱根駅伝が抱える問題について指摘している。沢木氏は、最近の途中棄権が優勝を争うトップチームからでているとした上で、次のように述べている。

「彼ら(途中棄権した選手)は疲労骨折やアキレスけんを痛めた。現場(レース)には秋口までほんとうに復帰できなかった。一歩間違うと競技生命を危うくする。こうしたことがなぜ起こるのか。テレビ中継によって人気が高まり、大学の経営戦略の中に箱根駅伝が組み込まれるようになった。老舗と言われる大学でも非常なサポートがなされている」

 沢木氏が指摘する大学の経営戦略とは、少子化に伴う大学間競争の時代に、いかにして大学の名前を売り込み、そのステータスを上げるかということである。この競争に勝ち残らなければ、伝統ある大学でも生き残れない。箱根駅伝は、そうした厳しい状況下に置かれた大学にとって、最も効果的に大学の名前と存在をアピールできる場になっている。

 多くの国民が休日を楽しむ正月2、3日に、延べ約12時間以上にわたって生中継で大学を「宣伝」してくれるイベント、TV番組など他にはない。視聴率30%近くをたたき出すTV番組は、何度も出場校と出場選手を映像と音声で紹介する。優勝を狙える有力校の場合は、その大学の歴史や興味深いエピソードまで繰り返し放送してくれる。TV・CMに換算すれば、どれほどの広告費に値するだろうか。

 箱根駅伝のランナーたちは、大学OBや駅伝ファン、出身地の期待だけではなく、大学の経営戦略の中で走るのである。そのため、出場選手はもちろん、監督など関係者にも過度の重圧がのしかかる。

 選手や監督などにのしかかる過度の重圧を示すいい例がある。最近の箱根駅伝では、1区はスローペースになることが多い。少なくと2001―03年はそうだった。スタートから全選手(全出場校)が牽制し合い誰も飛び出さない。

駅伝では、1区で大きなリードを奪えば、その後のレースを有利に展開できる。しかし、飛び出して失敗すれば、リスクは逆に大きくなる。だから、だれも飛び出さないのだ。いや、飛び出せないのだ。あるときは、ジョギング程度にまでスピードが落ちる。選手も監督も、リスクを犯してまで飛び出せない。失敗すれば、大学の戦略にとって致命的な結果になるからである。

 今年の大会では、山梨学院大が勇気をもって飛び出した。1区のランナーが序盤からスパートした。しかし、中盤には失速し下位に落ちた。山梨学院大はこの失敗が後をひいて12位に終わり、有力校にとっては「最低条件」である来期のシード権を失った。山梨学院大の失敗により、来期の箱根駅伝では、よほどの高速ランナーを配置できる大学がない限り、1区はまたも牽制し合う展開に戻るだろう。

 沢木氏の講演後に行われたフォーラムでは、司会役の金哲彦氏(ニッポンランナーズ理事長)が、「箱根症候群」についてこう指摘している。「箱根のために練習をやりすぎ、そこで終わってしまうということもあると思う」。金氏は早稲田大時代に箱根駅伝の山登り(5区)で名をはせたランナーである。

 沢木氏が先に指摘した途中棄権の主な理由、疲労骨折やアキレスけん痛はほとんど練習のやりすぎからきている。金氏は自らの体験を踏まえてこう続けている。

「よほど力(の差)がない限り、強いチームにいると、自分が選手になれるかどうかはわからない。12月の後半になると、当時の早稲田の場合は、20キロのタイムトライアルを1週間置きぐらいにやる。毎回、選手選考会みたいなことをずっと繰り返してきた」

箱根駅伝のランナーたちは、大学の経営戦略による過度の重圧の中で走り続けている。(2004年1月13日記)

(注)記事中の箱根駅伝80周年記念シンポジュウムに関する記載は、YOMIURI ON-LINE(http://www.yomiuri.co.jp/)の箱根駅伝特集(http://www.yomiuri.co.jp/sports/ekiden2004/)から引用しました。

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/

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