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アメリカ建国の兄弟たちの対外構想

2003年12月25日(木)
ジョージワシントン大学大学院生 和田真

 "The Federalist"という本がある。日本ではそれほど知られていないかもしれないが、この本はアメリカ政治哲学を知るための最重要文献の一つである。実際、この本は大学レヴェルのアメリカ政治クラスでは副読本として頻繁に使用されている。"The Federalist"とは新憲法承認を目前にニューヨーク州民を説得するために、James Madison, John Jay, そしてAlexander Hamiltonが1787年から約一年かけて新聞に連載したコラムを集約したものである。三人の、いわゆる"Founding Brothers"(建国の兄弟たち)が心血を注いで書き上げた国家像や共和制についての理論と主張は140年近く経た今でも色あせることはない。それどころか、ソ連が崩壊した際には新国家を模索するために "The Federalist"が読まれたという。

 "The Federalist" とは主にアメリカ国内政治や政策問題、そして政治理念について論証しているが、所々に「諸外国とアメリカのあるべき関係」と解釈できる記述が見られる。"The Federalist" John Jayによる第四章 の一節に注目して現在のアメリカのついて考えてみたい。
Chapter 4:Concerning Dangers from Foreign Force and Influence
「…しかし、外国の軍事力による危険性に対するアメリカ人の安全は、単に他の国に正当な原因を与えぬように自重するということだけに依存しているのではない。それは他の国の敵意や軽蔑を招くことのないような立場にアメリカが立ち、またその立場を守り続けることにも依存しているのである。」
 アメリカは第二次世界大戦以後「自由主義 民主主義 資本主義」という旗印の元で共産イデオロギーと対峙してきた。冷戦が終わる頃には世界中の若者はアメリカンロックを聴き、天安門事件では民主化を求める学生が自由の女神像を奉り、そしてアメリカ型の「ビジネス」という言葉が日常生活で跋扈するようになった。

 確かに、冷戦後のアメリカはハードパワーそしてソフトパワーの両面から見ても世界一の超国家であり、その影響力は世界の隅々まで浸透しているかもしれない。しかし現在のアメリカが「他の国に(戦争の)正当な原因を与えぬように自重」しているかどうかは議論の余地があるとしても、「他の国の敵意や軽蔑を招くことのないような立場に」立っているとは考えにくいと感じてしまうのは間違いだろうか。

 John Jayは続ける。アメリカの中央政府が巧く機能していれば、「諸外国はわが国民の反感をかうようなことはせず、むしろ国民の友情をかちえようと努めるだろう。」この主張の背景には、当時のアメリカ州間結束が崩壊寸前ともいえる状態であり、新憲法制定による13州の結束と強い中央政府がどうしても必要だった。政治機構の話になってしまうが、新憲法承認前のConfederationのような中央集権機能が欠いた合州連合は、様々な理由で外敵に対し脆弱である、という主張をThe Federalist Paperの筆者たちは強調している。

 話を元に戻そう。中央政府機能の良し悪しの議論はあるにせよ、今現在でどれだけの国がアメリカの「友情をかちえようと努め」ようとしているだろうか?冷戦中ならば安全保障や経済面でアメリカのサポートを必要とした国は日本を筆頭に多くあったに違いない。しかし、それらの多くの国々は「必要に迫られた友情」でアメリカと?がっていたのであって、心から湧き出る友情ではなかった。

 冷戦終結後、アメリカがパックスアメリカーナで有頂天になっている間に、国際情勢の水面下ではアメリカとの薄っぺらな同盟関係、つまりアメリカの「友」が「敵」へと変化していったのである。言い換えると、1989年11月9日のベルリンの壁崩壊後に処理しておくべき問題を蔑ろにしていたために、2001年9月11日にアメリカの対外政策失敗がテロリズムとして表面化したとは考えられないだろうか。

 1985年作成の映画「ランボーV」ではイスラム教徒とアメリカ人が一緒にソ連軍を相手に戦い、2001年9月11日以前はチェチェン地域におけるロシア軍の蛮行がTIME誌で特集された時期もあった。翻って、今ではロシアがアメリカの仲間でイスラム教徒が共通の敵である。チェチェンの少数民族問題も扱われることはなくなった。アメリカとロシアが足並みをそろえるのは対テロ包囲網の一環としては理解できるが、これは建国の兄弟たちが思い描いた「友情」だろうか。とても、そうは思えない。自衛隊イラク派遣は両国の「友情」の産物だろうか?

 イラクとアフガニスタンは徐々に安定し、アメリカに対するテロリズムもいずれは収束へと向かうだろう。しかしそれでも、いやだからこそ、ソフトパワーやハードパワーそして主義主張という枠を超えて、アメリカは"Federalist Paper"のような古典から学ぶべき点が多いのではないだろうか。「友情」や「自重」に基づく外交政策はナイーヴかもしれない、しかし建国の兄弟たちが思い描いたアメリカの姿を心に留めておくのは決して悪くはないだろう。

 参考文献 「ザフェデラリスト」 岩波文庫

 和田さんにメールは mailto:assjk@hotmail.com

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