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陳水扁総統が「一辺一国論」を発表した背景

2002年06月07日(水)
台湾在住 曽根 正和


 台湾の陳水扁総統が、先週土曜日(8月3日)東京で行われた「世界台湾同郷聯合会第29回大会」でテレビ会議中の祝辞として一辺一国論を発表した。「一辺一国」論とは、台湾海峡をはさんで、おのおの一辺(一方)が国である、つまり対岸は中華人民共和国という主権国家であり、こちらは中華民国という主権国家である、という現実の表明である。同時に台湾の行く末は、国民投票で台湾国民自身が直接決めるべきだという内容である。

 この発表に対し、中国はこれは台湾独立の主張である、武力を行使してでも独立を許さないと息まき、台湾株価市場は大幅下落した。古くて新しい問題、台湾海峡の緊張はいまさら始まったことではない。以前にも「両国論」「特殊な国と国との関係」論などがあり、中国からの反発や恫喝は何度となくあった。

 それではこの台湾海峡をはさんだ中国本土と台湾は過去どうだったのか、台湾の知識人は新しい見方を提示している。台湾は民主化が進んだ結果、さまざまな意見を自由に発表できる成果でもある。日本のマスコミではおそらく相手にされないであろうこの見方をご紹介したい。

 台湾の存在が世界史上取り上げられるのは、明朝末鄭成功が台湾を基地として、北方満州族の新政権清朝に対抗したことからであろう。台湾海峡をはさんだ往来はそれ以前からあるが、歴史の舞台にはあがってこない。

 私も含めて、日本人は次のように台湾をみているのではないか。台湾の住民は四百年前か五十年前かは別として、中国本土からわたってきた漢民族の末裔である。昔の日本統治や国民党がもたらした中華民国という不幸な分裂時期があったが、同種の漢民族が中心の本土と統一して祖国にかえり、「大中国」となるのは当然の成り行きである。この主張は中国共産党政権だけでなく、中国本土を奪回しようとした過去の国民党も同じ主張をしていた。しかし、新しい主張は、この点を疑問視する。

 新主張での台湾人とは? 一言でいえば、中国北方系の血統ではなく、台湾海峡をはさんだ対岸の福建ミンナン人(注記)や客家人と台湾の原住民平埔族(元をたどれば世界史で認知される前に同じ福建から来た移民)との混血である。遺伝子DNAの解析でも、現在の一般的な台湾人と北方系人とは異なる。もちろん、少数派になるがポリネシア系原住民や戦後共産党が政権掌握後、本土から追われて台湾に渡った本土系人やその子孫もいる。

 清朝政権は、台湾には鄭成功の過去があるため、反政府組織の根拠地になることを恐れて、本土から台湾へ渡ることを制限してきた。それでも、本土の貧しい環境から新天地を求め、リスクを犯して台湾へわたる男はあとを絶たなかった(今でも不法渡航がなくならないのは、血統か?)。しかし、女は渡るわけには行かない。台湾へわたった本土からの男は、本土からの女がいないので、台湾原住民の女を娶り混血化していく。現在は平埔族そのものも独立の存在として認識されないまでに血が混ざってしまっている。

 日本人が学校教育で耳にする「漢民族」という概念は、血統を同じにする民族と誤解を受けるが、実はそのような民族は存在しない。中国本土は外来民族が中原を制する外来政権支配が多く成立し、一方広大な国土の各地域言語はお互いに通じない。したがって、交易や行政のための共通書き言葉として、「漢字」が使用された。漢字は秦朝が統一し漢朝が採用し広まった文字である。同一の漢字を北京語、広東語、ミンナン語(台湾語)など代表的な中国の言葉で発音すると、それぞれ異なる。話し言葉ではお互いに通じない、しかし漢字を書くと通じる。「漢民族」とは漢字を共通書き言葉として意志を疎通する人たちの集まりである。「漢民族」で血統を同じにするから、中国と台湾は統一すべきだという理論は成り立たない。日本人も漢字を通じて意思疎通ができるので「漢民族」である。しかし、日本は中国と統一すべきだと主張する者はだれもいない。

 台湾海峡対岸の福建ミンナン人文化は、中国政権のバックボーンである黄河中原文化とは異にする。最近行われ注目されている、黄河文化より古い長江(揚子江)文化発掘はそれを裏付ける。中国人は中原文化の始祖である「黄帝」の子孫である、と教えられている。台湾人はその祖先が本土からであるから、当然「黄帝」の子孫である、ということになる。しかしミンナン人文化そのものが、中原文化とは違うわけで、この点でも民族的な統一という主張は崩れる。

 現在の統一問題は、民族問題でなく領土問題である。中国は台湾という領土がほしい、台湾は中国の領土になるのはいやだ(もちろん賛成の人もいるが)、ということである。百年前であれば、欲しい領土は強い国が武力で奪っていった。今はいかなる国であろうとも許されない。中国政権は、領土問題を民族問題にし、統一は民族自決だからよその国は口を出すなと言っている。新主張は、この問題すり替えを虚構だと指摘している。

 中国政府は、一辺一国論が言う台湾の統一問題を国民投票で決めることにつき、両者関係をがけっぷちまでに追いやる、非常に危険なことだという。行えば結果は明らかであるので、中国政府は武力を行使してでもやらせたくない。住民(国民)投票は民主主義の根幹である。非民主主義国家の中国がそれを否定するのは当然だが、民主国家と自負する日本はどちらを支持すべきなのだろうか。ましてやお膝元の東京で問われた問題である。

 注記:「ミンナン」はもちろん漢字だが、JIS規格のパソコンでは文字がない。この文章はインターネットで配信され読まれるため、パソコンで表示できない文字では意味が無いのでカタカナで表記した。ミン(日本語読みではビン)は門がまえに虫を入れた文字。ナンは南である。この地方にミンの文字を与えた中原文化は、そこの原住民にたいし「虫」のついた字を与えている。そこには文化程度の低い取るに足らない相手という「大中華」自大文化の考えが存在するように思える。

 曽根さんにメールは mailto:sone.home@msa.hinet.net

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