アジアスケッチ(14) ―ムスリムの試練
2001年12月30日(日)
 『Islam & the Muslim Ummah』というマハティール首相のスピーチ集を本屋で見つけ、今少しずつ読み始めている。

 今年は米国同時多発テロ事件との関連でイスラームやイスラーム世界がクローズアップされたが、一連の出来事はイスラームに対する「誤解」を増幅させてしまったのだろうか、それとも「関心」や「理解」を深めることになったのだろうか。「怖い」、「遅れている」などイスラームに対する「敵意」や「蔑視」も困るが、確かにムスリムやイスラーム社会の側にも「弱さ」があることは否めない。

 イスラーム諸国の間では近代化に成功した模範国家と称され、西欧先進国からも穏健なイスラーム国家として敬意を払われているマレーシアが、来年もその名を汚すことなく、更なる発展を遂げてくれることをマレーシアの人々とともに祈りたい。

 イスラームスケッチ(14)は「ムスリムの試練」を再掲する。

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  昨日は礼拝の日、金曜日。「米英のアフガン攻撃」に反対するデモや暴動はなかったのだろうか。不謹慎ながら多少野次馬的な心理も手伝って、朝届いた新聞のページをめくる手はいつもより速かった。昨日国会で発表された「2002年国家予算」関連の記事が目立つ。余談だが、75歳のマハティール首相(蔵相を兼任)は2時間近く全く休みなくその予算書を読み上げたのだが、テレビ中継を見ていた私は、首相のその体力と気力に感服した。

 さて、8ページまできて、やっと小さな記事を見つけた。「米大使館前での集会なし」。先週に引き続いて計画された野党PASの抗議デモはどうやら不発に終わったようだ。

 他方国際版を見ると、ジャカルタで1万人の大規模なデモ、マニラでも1500人が米大使館に向けて抗議の行進をしたと報じている。また、同じページにはインドネシアへの観光客が激減し、経済に大きな影響を与えているとの記事がある。編集者は「デモは結局自分たちの首をしめるようなものだ」というメッセージを託しているのだろう。

 人口2億のインドネシアは世界で最もムスリムが多い国である。人口2300万のマレーシアも人口の約6割がムスリムだ。

 ムスリムの特徴は、我々日本人の発想が「日本」から一挙に「世界」とか「人類」に飛躍するのと違って、人類をイスラーム教徒と非イスラーム教徒に分け、その「区別」、「違い」をはっきり認識していることである。そして「Umat Islam(イスラーム教徒同胞)」という言葉がしばしば使われることからもわかるように、彼らは同じムスリムとしての「感情的」な一体感を持っている。

 しかし、先般のOIC(イスラーム諸国会議機構)外相会議の結果が示したように、今のところイスラーム諸国には一致団結して世界の重大問題の解決に乗り出すような、政治力、結束力、実行力を期待できそうもない。今回の反テロ作戦で見られた米英を中心とする西側諸国のチームワーク・行動力には到底及ばない。

 イスラームの国々は、政治体制、経済発展段階、国民の知的レベル、歴史や文化があまりにも違うのだ。「感情的・心情的」一体感と現実的な協力体制とは別のものである。

 さて、「ジハッド(「聖戦」)」という言葉はその感情的な連帯感に火を放つ、ある意味では「危険」なコトバである。

 ムスリムの間ではジハッドに参加して殉死すれば天国に行けるという信仰があるようだ。死後の世界こそが本物の永遠の人生と考えるムスリムにとって、「天国に行けるかどうか」という問題は、とても大切なことで、日頃からよい行いをして最後の審判の時に、神に認められるよう努力しなければならない。「これをすればPahala(御利益)がある」という表現をよく聞く。ポイントを溜めるのだとも言う。「積善の家に余慶あり」とか「情けは人のためにならず」といったのん気な精神文化の中で育った者にはちょっと打算的に聞こえることがある。」

 「ジハッド」は最も大きな御利益をもたらすものなのだろう。物質的な欲求を満たすことを放棄したムスレムたちは「ジハッド」へと走る。

 しかし、ジハッドについてもう一度考えてほしい、とオピニオン・リーダーたちは言う。

「罪のない何千人もの人々を殺した(とされる)オサマ(・ビン・ラディン)のテロ活動がジハッドなのだろうか。アフガンに行ってタリバンとともに、米英と戦うことが神の意志なのだろうか。はたまたアメリカ大使館前で星条旗を焼くことが問題解決へと繋がるのだろうか」

「ジハッドとはもともと『努力する』という意味ではないのか。自分たちの「弱さ」と戦い、イスラームに対する誤解を解き、ムスリムのイメージを改善させることが我々の戦いなのではないか。国を発展させて、世界に尊敬され、影響力を持つ立派な国になるよう努力しよう。それこそが真のジハッドである」

 マレーシアの新聞やテレビでは今そんな主張が流れている。

                             2001年10月20日


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