日マ関係を回顧する(11)ー「日本の今」にフィーバーする若者たち
2001年08月26日(日)
 日本に熱狂する若者のことを「哈日族」と言うそうだが、この2年の間に中国系若者の間で日本熱は更に高まっているように思う。茶髪も増えたし、テレビの若者向け日本番組の放映も増えている。今日のコラムに登場する「Long Vacation」も8月中旬より毎週土、日の夕方、TV3チャンネルで放映されている。中国語の字幕の上に、更にマレー語の字幕がついて、画面が見辛くなっているが、マレーシア在住の方はどうぞお試しあれ。

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 大学で教えている学生たちは皆20歳を過ぎているが、彼らの母親のような年の私から見れば実に可愛い。時々、家に帰ってからも彼らの真剣な眼差しを思い出し、胸がキュンとなることがある。ナイーブ、素直、その従順さは時には「物足りなさ」とさえ感じるほどだ。授業はすこぶるやりやすい。教師をいじめたり、てこずらせたりする学生は一人もいない。

 それでも、1年、2年とつきあっていると、親しさというか、甘えのようなものが出てきて、緊張感を取り戻さなくては、と思うことがある。だが、この、ゆるみ過ぎたかなと思う時だ、彼らの素顔や本音が見えてくるのは・・・・。

 ある日、一人の学生が膝までの短いスカートをはいてきた。中国系の女子学生はみなジーンズかパンツをはいているので、思わず目を奪われ、「どうしたの?」と聞いた。すぐ、ここは教室なんだと気付いた私は、慌てて「今日はどうしてスカートをはいていますか。珍しいですね。」と質問を言い直し た。

「う−ん、今日は気持ちがいいから。」 「??」

 一こま2時間の授業の間のブレイクにその同じ学生が「先生、これ、聞いてもいいですか」と一枚のCDを差し出した。こんなことは初めてだ。どういう風の吹き回しか知らないが、今日はよっぽど気分がいいらしい。「今日はのろう!」と決めた私はヒアリングの練習テープをしまって、そのCDをかけ た。わあ、と拍手が起こった。

「これは何という歌ですか」
「『長い間』、中国語は『ヘンアイ、ヘンアイニイ』です。先生は知りませんか」
ケースに目をやると、女の子が二人、大きな木にとまっていて、赤い文字で「Kiroro」と書かれてあった。

「みなさんは、よく日本の歌を聴くんですか」
「はーい」
「どんな歌が好きですか。  『First Love』『LaLaLa Love Song』『true true』・・・と次々と知らない曲名や宇多田ヒカル、Speed、SMAP、酒井法子などの歌手の名があがる。

「日本のドラマもよく見るんですか」
「はい、先生、私たちは日本のドラマに夢中ですよ」・・・一体どこで「夢中」などという単語を覚えたのだろう。

「先生は『Long Vacation』を見たことがありますか」
「いいえ」
「じゃ、『Love Generation』は?」
「いいえ」
「『神様、もう少し時間を』は?」
「いいえ」
「魔女の条件・・・」

もうこれ以上「いいえ」は続けられなくなって、「アラマッ、困ったわ。この日本人は日本のことを何も知りませんね!」と、この浦島花子はたじたじとするのだった。

 一人の学生が、「先生、こんど『Long Vacation』のVCDを貸してあげますから、大丈夫です。心配しないで下さい」と、助け船を出してくれた。学生たちは愉快そうに笑い転げた。

 その後、学生たちが次々とVCDやCDを貸してくれ、私は現代日本について猛学習する羽目になった。VCDやCDは台湾製のものが多く、ビデオは1シリーズのセットで80から100リンギット、CDは30から40リンギットで手に入る。一食2、3リンギットで済ませている学生にとって決して安いものではないが、「回し見」や「回し聞き」にすれば、問題はない。VCDには中国語のはっきりした大きな字幕がついているので、日本語の聞き取りの勉強にもなる。

 日本語の学生だから特にそうなのかもしれないが、彼らは香港や台湾のものよりも日本のドラマを好むようだ。男の人はハンサムだし、女の人はきれいですから、そして、ストーリーもわざとらしさがなく、ナチュラルでいいと言う。

 なるほど、『Long Vacation』は面白かった。テーマソングが軽快で、いい年をして、若返った気分になった。ストーリーも始めは「現代の若者だなあ」と違和感を感じたが、そのうち止められなくなって、2日間で12話を一気に見終えてしまった。

 自由奔放のようで、意外にシャイな現代の若者、不真面目のようで真面目な彼らの一面。軽やかな音楽に乗って、繰り広げらる甘酸っぱい青春時代のラブ・ストりーに、私は不覚にも、自分自身の若き日への郷愁を呼び起こされてしまった。

 「独立」「国」「政治」「宗教」「経済危機」などの重いテーマとは無縁の愛の小宇宙にひたっている現代の若者の姿が、何か頼りなくもあり、羨ましくも思えた。

「戦争を知らない子供たち」という、昔流行った歌のタイトルが浮かんだ。

 実は、私は日本のポピュラー文化が、こんなにも中国系マレーシア青年の心をとらえているとは知らなかった。いろいろ聞いてみると、キティーの商品を買い集めている女子学生や、小さい時、お金を貯めてやっと『ドラエモン』や『一休さん』を買って夢中で読んだという男子学生、吉本ばななや村上龍の小説、そして『失楽園』も読んだというおませな学生までいて驚いた。

 明日は、大学の催し物で、学生たちが日本語の歌を2曲歌う。一つは愛国歌「平和なマレーシア」の日本語バージョン、もう一つは学生たちが選んだ「101回目のプロポーズ」の主題歌「Say Yes」(チャゲ&アスカ)である。 練習につきあったが、難しい歌詞もすぐ暗記してしまい、本当に気持ちよさそうに上手に歌っていた。彼らのフィーリングは今、「中国」や「欧米」よりも、東の「日本」に共鳴しているようだ。   (1999年9月12日)

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