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 民族それぞれの「節目」−(3)日本人
2001年02月20日(火)  
 −まだ寒き日々ながら、日差しは春めいてきました。

 −まだまだ寒いですが、時折春を思わせる風が吹くようになりました。

 −雪柳の芽の緑が少しずつ濃くなっていくのがわかります。

 2月に入って日本から届く便りには、必ず春の足音を感じさせる一文が添えられていて、心が和む。苦しみや悲しみに耐える者にも、ささくれ立った心を持て余す者にも、すべての人に分け隔てなく降り注ぐ「春」という名の慈愛。

 その愛の魔法にかかった者は、みな「希望」という名の夢を見る。雨季が終わって、これから暑さが厳しさを増すマレーシアから眺めていると、それはまるで淡いメルヘンの世界のようだ。

 さて、民族それぞれの「節目」シリーズの第3回は「日本人」がテーマである。

 前回のコラムで登場したダイアナ女史との会話のつづきを紹介したい。彼女にとっての「大切な日」の話を聞いたあと、今度はこちらが聞かれた。「ところで、日本人にとって一番大切な日はいつなのかしら」

「やはり、お正月でしょうね。昔は中国と同じ太陰暦で祝っていたんですけど、明治時代になって太陽暦を使うようになったんです。日本の祝日はマレーシアと違って宗教的な意味合いはないんですが、お正月だけは日本人も少しスピリチュアルになるような気がします」

 「春、夏、秋、冬、と四つの季節が一巡し、新年で新たな出発点に立つ。日本では年月は一直線ではなく、年輪のように円を描きながら過ぎていくんです。お正月は大切なけじめ、気締めの時。だから、その前の12月は大忙し。借りたものは返して、やり残したことは仕上げて、お世話になった人にはお礼をして、家や職場の大掃除をして・・・。そして、物理的にも、精神的にもスッキリした気分で新年を迎えたいと思うのです。年末に忘年会ーその年の苦労や嫌なことを忘れるーというものもあるんですよ」

「ニューイアは文字どおり、純白無垢の人生の新しいページ。時間は連続しているのに、不思議と大晦日と元日では全く気分が違うんです。面白いのは年賀状。クリスマス・カードやハリラヤ・カードは事前に届き、ここでは多少遅れても許されるみたいですが、年賀状は決して12月には届きません。それはとてもおかしいことなのです。書くのは12月ですが、配達されるのは1月1日、またはそれ以降。けじめがはっきりしています」

 いろいろ話している中で、私は「けじめ」の文化を伝えようとしている自分に気付いた。しかし、この「けじめ」にあたる適切な英語がその場では見つからない。それでもダイアナ女史は大変興味を示し、その「けじめ」の文化は中国などより、むしろ西洋的だと言った。

 そして、別れ際に彼女は次のようなことを言った。

「私は多くの日本人と出会ってきたけれど、いつも感じるのは日本人が楽観的で前向きであるということ。そして、Self-confidenceがとても強い民族だということ。今日の話を聞いていて、そのわけが少し分かったような気がするわ。西洋人もモスレムもどこか暗いところがあるでしょ。罪の意識というものがあって、節目節目でそれを清算はしているのだけれど、どこか一生、死ぬまでその罪を背負って生きていくところがある。日本人は年毎にいろいろなことを清算、総括しているから前向きになれるのね。『水に流す』という言葉は本当に面白いわ」

 そう言えば、マレー語で罪にあたる「Dosa」という言葉をよく耳にする。子供たちが歌うナシッド(イスラームのポピュラー・ソング)の中にも時々その言葉が使われていて、日本人からすると早熟というか、どこか不自然な感じを持つことがある。ダイアナ女史の言葉はとても深いテーマを秘めているように思えた。

 日本には戦前まで四つの「節」があった。「紀元節」(2月11日)、「天長節」(4月29日)、「明治節」(11月3日)、そして元日である。これらの日は単なる祝日ではなく、「日本」の歴史に思いを寄せ、「日本人」としてのアイデンティティーを再確認する節目の日であった。

 戦後、過去の価値観が否定され、これらの「節」はただの「日」に改められた。

 しかし、「元日」だけでも「節」としての名残を留めたことは幸いなことではないだろうか。それぞれの民族がそれぞれの「祭り」を「節目」として、神話に溯る伝統を継承している姿を見ていると、日本人にとっての「正月」が計り知れない重要な意味を持っていることを痛感する。来年は「正月」を改めて見直してみたいと思う。

 参考: 2000年01月11日(火) 2000年元旦のバリック・カンポン


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