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Mikiko Talks on Malaysia 
 マレーシア国民大学外国学部講師 伴 美喜子
2000.01.22
 
パントンで知るマレーの心

 昨年末、両親が出した年賀状欠礼のお知らせには、父が亡き弟のために詠んだ歌を載せていたが、それに対し何人かの方が和歌で返事をくださっていた。ゆかしくていいなあ、と故郷で父宛ての手紙や葉書を目にして思った。

 座敷で座布団を敷いて、小学生の甥たちと興じた「百人一首」も新春の気分が溢れ、楽しかった。今年の正月は日本人の生活の中に生きている、和歌や俳句のことがとても気になった。新千年紀を迎え、千年、2千年前の日本の歴史を思い起こしていたからかもしれない。そして、大和の古き時代から連綿と続く日本人の心とは何かを問うていたからかもしれない。

 目をマレーシアに転じると、マレーの民衆にも脈々と継がれている歌の伝統文化がある。前々回のコラムでも触れた「パントン(Pantun)」である。パントンは15世紀のマラッカ王国時代から民衆の間で歌い継がれきた4行詩で、素朴でいきいきとした口語表現を通じて、マレーの自然、風物、愛、教訓、価値観などが歌われている。

 今日のマレーシアの生活の中にも生きていて、講演やスピーチ、司会者の挨拶などで、古いパントンや自作のパントンが飛び出すことは珍しくない。パントンが入ると、スピーチが「シマリ」、その人の「教養」が香る。パントン披露の後は決まって、拍手喝采となる。

 手前味噌になるが、私も1996年にクアラルンプール日本文化センター副所長としての任務を終えて帰国した折、150人位集まってくれた送別会でのスピーチをパントンで締めくくった。お世話になったマレーシア人の友人たちが目を丸くして、とても喜んでくれたことは言うまでもない。

 パントンは前句と後句から成る4行詩で、1行と3行、2行と4行がそれぞれ韻を踏む。前句は自然を描写することが多く、いわゆる導入部分であるが、単なる語呂合わせの場合も多い。後句が本句で、主題がその2行に凝縮される。

 では、以下有名なパントン8首をお楽しみいただきたい。なお、日本語訳の大半は「マレー民衆の唄・パントン」吉岡一彦訳編(花神社)から引用させていただいた。

◆私が最も好きなパントン
 
 Pisang emas dibawa belayar         黄金バナナを持って乗りゃ  
  Masak sebiji di atas peti           バナナは熟れる船の上で
 Hutang emas boleh dibayar          金の借りは返せるが
  Hutang budi dibawa mati            親切の借りは死ぬまで
 
  (「ご親切、ご恩は忘れない」という時に使う)
 
◆ウンク・アジズ教授(元マラヤ大学副学長、代表的な知日家)が選んだパントン
 
  Apa guna kepuk diladang         もみの貯蔵箱が何になろう
    Kalau tidak berisi padi          入れるもみがなかったら
  Apa guna berambut panjang       長い髪*が何になろう
    Kalau tidak berani mati          死をも恐れぬ勇気がなかったら
  
  *昔のマレー勇士は長い髪をしていた
 
  Ke telok sudah pergi ke Siam sudah  湾へ行った シャムへも行った
    Ke Mekah sahaja saya yang belum  まだ行かぬはメッカ*だけ
  Berpeluk sudah bercium sudah       抱きもした キスもした
    Bernikah sahaja yang belum        まだしないのは結婚だけ
    
  *メッカ巡礼はイスラーム教徒の五行のひとつ
 
  Di mana kuang bertelur            雉はどこで卵を抱く  
    Di atas lata di ruang batu         早瀬の上の石の窪み
  Di mana abang* nak tidur          愛しいひとよ どこで寝たい
    Di atas di ruang susu            胸の上 乳房の窪み
 
 *兄。夫、恋人あるいは年上の男性に対する砕けた呼び方。
  (kakak は姉。年上の女性に対する親しみをこめた呼び方)
 
  Buah pauh buah macang           アービンギヤとマチャンのフルーツ
    Buah pinang di dalam puan         ビンロージュの実 香盒のなか
  Angkat sauh lipat kajang           錨を上げ 椰子のマットを畳む
    Pulau Pinang* tinggallah tuan        いとしのペナン島よ さようなら
 
 * 地名ペナンはビンロウジュに由来する。
 
◆学生が教えてくれたパントン
 
  Buah cempedak di luar pagar       ジャックフルーツの実  垣根の外に
    Ambil galah tolong jolokkan         竿でつついて落としてよ
  Saya budak baru belajar           私は子供 学びはじめたばかり
    Kalau salah tolong tunjukkan        間違えたら 教えてね
 
  (人に教えを乞う時に、謙遜して使う)
  Pulau Pandan jauh ke tengah        パンダン島は沖に遠くて
    Gunung Daik bercabang tiga         ダイク山は峰三つ
  Hancur badan dikandung tanah        体は土にかえったとて
    Budi yang baik dikenang juga         善い行いは忘れられぬ
 
  Pucuk pauh delima batu            マンゴー芽生え、ざくろもだ
    Anak sembilang di tapak tangan      手には小さい鯰の子
  Sungguh jauh negeri satu           遠く離れたある国へ  
    Hilang di mata di hati jangan        忘れはしない見えなくとも

 前回のコラム「タイ月満月の祭り「タイプーサム」【再掲】
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