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Mikiko Talks on Malaysia 
 マレーシア国民大学外国学部講師 伴 美喜子
2000.01.11
 
2000年元旦のバリック・カンポン


 年末に私のパソコンの指南役であるアウさんに無理を言って来てもらった。Y2K問題が個人のパソコンにまで影響を及ぼすとは思わなかったが、何となく心配で、疑問点を解決したり、パソコンの中をきちんと大掃除したりしておきたかった。

 アウさんは、来るなり「これ、お歳暮です」と小さな包みをくれた。。ペナンのマレーシア科学大学在籍中からずっと日本語の勉強を続けているアウさんは「お歳暮」という日本の習慣を知っていた。「あら、お世話になったのはこちらの方なのに・・・」と恐縮する私に「いいえ、大丈夫です。 どうぞ、開けてみてください」と促した。

  包みの中には「桂花龍井」という中国音楽のCDが入っていた。「お茶の音楽です。これを聞くと、心が平和になります」と彼。喪中の私に対する思いやりであることが静かに伝わってきた。

 アウさんはコンピューター関係の会社に勤める20代後半の青年だが、よく仏教のことなども勉強していて、私たちはコンピューターの話はそこそこに、「人生」や「無常」について日本語と英語、そして中国語と日本語の筆談で語り合った。お互いに聞き取れない言葉でも、文字にするとその深い意味まで理解し合えることが多かった。

 帰り際に「ミレニアム・イブは何か計画があるの?」と聞くと「両親と一緒にどこかへ行こうと思っています。行き先はまだ決まっていませんが。友だちがゲンティン・ハイランド(カジノなどがあるKL近郊の避暑地)へ行こうと誘ってくれたんですけど、やっぱり一生に一度の大切な日は両親と過ごしたいんです」

 ふうーん、親孝行なんだなあ、と感心させられた。アウさんに限らず、マレーシアの若者は民族を問わず、みな親思い、家族思いである。そう言えばその数日前に「日本文学」の授業で和歌、短歌、俳句を教えた後、遊び半分で俳句(単なるごろ合わせだが)を作らせた時「父と母 大切な人 元気でね」と詠んだ学生がいて、微笑ましく思ったことだった。

 翌日大学へ向かう途中、車のラジオをつけると「バリック・カンポン」という歌が元気よく流れていた。「バリック」は「帰る」、「カンポン」は「村、故郷」という意味である。毎年、断食月の後半を過ぎると巷に流れる歌で、「さあ、故郷へ帰ろう!」と都会人を駆り立てるような曲である。

 この「バリック・カンポン」はマレーシアの人々がとても大切にしている生活文化である。休みと言えば、「バリック・カンポン」、家族の「re-union」を考える。家族とは、両親、兄弟はもちろん、その家族、おじいちゃんやおばあちゃん、おじさんやおばさんまで含まれる大家族である。

 特にハリラヤ(断食明け、今年は1月8日)や農暦新年(今年は2月5日)の時には民族の大移動が起き、クアラルンプールは蛻のからとなってしまう。車社会のマレーシアでは交通事故が多発する時期でもあり、毎年国王や首相が祝日のお祝いの言葉とともに「くれぐれも、車の運転に気をつけるように」と警告を発する。

 1999年も後数日となったある日、アウさんの言葉や「バリック・カンポン」の歌に触発された私は「やはり、今年は両親の元へ帰ろう!」と思い立った。喪中ではあったが、いや喪中だったからこそ、家族とともに2000年の正月を一緒に過ごしたいと思ったのだ。日本のお正月は9年ぶりである。「寒さ」が怖かったが、あのピリッとした身の引き締まるような感覚が懐かしくもあった。

 1999年12月31日、その日は断食をして、真夜中近くスパン国際空港へと向かった。途中クアラルンプールの中心部へ向かう沢山の車とすれ違った。普段は新年といっても1月1日が休みなだけで、日本の年末年始のような感慨はないのだが、今年はニュー・ミレニアムということで、KLっ子たちも盛り上がっていた。ツインタワー・ビルやスバン旧空港等で、様々なカウントダウンの催しが企画されていた。

 スパン空港は深閑としていた。みなY2Kを心配して、この時間帯の移動を避けたのだろうか。1998年に開港したこの空港は黒川紀章のデザインによるものだが、改めてしみじみと眺めてみると、21世紀への玄関というイメージを強く放っているように思えた。

 来る度に設備が少しずつ改善されているのだが、今回驚いたのは、英語とマレー語に加え、「出国審査」「ターミナル」「出口」など日本語の案内版が追加されていることだった。マレーシアにとって、日本が「近い国」であり続けるだろうとの希望とそれに応える日本側の責任のようなものを感じた。

 2000年1月1日午前1時過ぎ、私は関空行きの便に乗った。搭乗者は僅か30人余り。一寝入りして目が覚めると、わが祖国、大和の国の方向に新千年紀の初日がまばゆいばかりに輝いていた。

 


 前回のコラム「テー・シューピンが教える愛
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