HAB Research & Brothers

国際標準の名が泣く日本限定の「cdmaONE」携帯電話

1998年08月29日(土)
萬晩報主宰 伴 武澄


 携帯電話の雄、セルラー電話グループは7月14日から「cdmaONE」という新しい方式の携帯電話サービスを開始した。関西、九州、沖縄からスタートし、順次全国に拡大する計画。うたい文句は「グローバルスタンダード」である。アメリカで開発された次世代デジタル携帯電話方式をいち早く導入したのが売り物なのだが、どうも誇大広告である。

 発表のリリース文にアメリカ、カナダ、インド、韓国、香港などで導入されていると説明があった。国境を越えて使える携帯電話機がようやく日本にも登場したと喜んだが、「待てよ」とばかりに関西セルラーの広報室に電話を入れた。

 やはりそうだった。「ワールドカップサッカーが開催される2002年に韓国とローミングする計画ですが、アメリカや香港とローミングする予定はありません」との説明だった。案の定、海外では使えないのだ。

 ローミングというのは同じ電波方式がある国や地域の電話会社同士がお互いに携帯端末を使用できるようにする形態だ。関西セルラーと関東のIDOは同じセルラーグループだが、まったくの別会社。IDOの携帯端末が関西でも使えるのは、互いにローミングしているからだ。

 いま世界の携帯電話を席巻しているのがヨーロッパのGSM方式であることは、03月13日付け萬晩報「 PHSが短命に終わりそうな本当の理由」で述べた。一つの端末が100カ国以上で使えるのは、単に電送方式が同一だからだけではない。電話会社同士で国を越えたローミングがあるから可能となっている。

 CDMA方式はアメリカのベンチャー企業が開発し、全米での採用が決まった。通信速度は現行NTT方式の4.4倍と速いうえ、音質も優れている。NTTはCDMA方式を基礎にさらに電送速度を早くした改良型を開発するなど世界の携帯電話市場は次期デジタル方式をめぐって激しい火花を飛ばしている。

 関西セルラーはCDMA方式を採用した理由について「いつまでもNTT方式に頼っていたのではNTTドコモに勝つことはできない」としているが、世界で使えるCDMA方式を導入しながらどうしてほかの国のCDMAとローミングしないのだろうか。また韓国とローミングするのは今でなくてなぜ2002年なのか。不可解なことばかりである。

 数年前になるが、中国のアモイからやってきたビジネスマンが東京に着いて携帯電話が通じないので不思議に思って、取引先の日本人に理由を聞いたところ、その日本人は「中国の携帯電話が日本で使えるわけがないでしょう」と笑った。中国人は「香港だって使えました」と応じたが、日本人には中国人の言っているその意味が通じなかった。

 7月にバンコク空港で出会った日本人が、飛行機の遅れをクアラルンプールに連絡しようと公衆電話と探しに席を立った。「携帯電話はGSMじゃないのですか」と聞いたら、「うちの会社はけちだから、こんなものしか使わせない」と嘆いていた。結局、近くにいたアジア人が「これ使っていいですよ」とGSM携帯電話を差し出した。

 電話会社にとって、女学生が友だちと携帯電話でおしゃべりしてくれれば、もうかるのだろうが、ビジネスマンにとって、携帯電話は国境を越えて利用できるのが一番の使い勝手のはずだ。その一番の利点を今もなお日本人だけが享受していないこの国の不思議さには言葉がない。

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