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アメリカ企業の驚異的配当政策

1998年06月04日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄



 大阪証券取引所がある北浜クラブを担当する同僚がやってきて、「いやあ。驚きました」といって全国証券取引所協議会が1997年10月発行した「配当状況調査」という変哲もない資料を差し出した。

 同僚の説明では、ニューヨーク証券取引所に上場している960社のうち、10年以上連続して増配している企業は349社もあり、うち20年以上が133社、30年以上は52社もある。これに対して、東京証券取引所に上場している企業では10年以上の連続増配企業はたったの4社しかないという事実を淡々とレポートしている。

 「君、これを読んでどう思った?」

 「日本の企業は、長期的視野から経営しているから、アメリカのように短期的な利益の増減で配当を上げたり下げたりしないと言い続けてきたんですが、これはうそです。われわれはずっと騙されていたんじゃないですか」

 「そうなんだ。俺はアメリカの企業決算をもっとよく研究した方がいいなんて主張してきたんだが、これほど株主に利益還元していたとは思わなかったよ」

 「それにですね。重要なのはアメリカ企業が増配し続けてきた間、必ずしもずっと増益が続いてきたわけでもないという事実です」

 「俺がこの15年見続けてきた日本の企業は、増益のときは将来のため内部留保が必要といい、大幅減益のときや赤字決算になればただちに減配してきたんだ。言っていることとやることが違っていた。それで日本の増配企業はどこだ」

 「旭ダイヤモンド工業とセブン・イレブン・ジャパンが連続17年増配、そしてニッショーとMr Maxがそれぞれ10年。日本じゃこの4社以外は優良企業とも呼べないかもしれないですよ」

 ●利回り5%といった日本企業にあぜんとしたマレーシア人

 こんな会話のあと、はたと考えた。20年、30年前っていうのは1970年代や60年代のことで、日本企業で国際的の名の通った企業はソニーぐらいしかなかった。そんな時代から増配が続いている企業がこんなにあったことに少なからぬショックを覚えた。

 資料を詳細に読むと、最近日本企業が重視し始めた株主資本利益率(ROE)はアメリカ企業の場合、1986年からほぼ12−18%を上げているのに対して、日本はバブル時の高いレベルでも7%台、それ以降下落曲線が続いていて96年にはたったの2.9%まで落ち込んでいる。

 90年代前半にマレーシアの財閥総帥から聞いた話を思い出した。

 「日本企業に共同事業を提案すると、日本側は5%の利回りしか上げられないというんで話になりません。われわれは30%を要求しているんです。税金を支払って借金の金利を払い、株主に配当しなければならないんですよ。5%の利回りなら銀行に預けていた方がよっぽどましだ」

 当時は、日本の企業家の意欲のなさを嘆いたが、ROEが15%ということは税引き前利回りが30%は必要ということになる。マレーシアの財閥総帥の話はほらでもなんでもないことがようやく分かった気分になっている。

 最近の日本の株式市場は低迷したままだが、ドルベースでみた日経平均はすでに90年代で最低の水準にまで落ち込んでいる。大蔵省は次なるPKOを考えておいた方がよさそうだ。

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