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特金・ファントラから始まった金融証券疑獄(2)/法人持ち合いが落とす弊害

1998年02月05日(木)
共同通信社経済部 伴武澄
 東証株価平均が1万7000円台を回復した。為替も1ドル=125円近辺に戻った。金融安定化策に続き、追加的景気対策が打ち出されるとの期待感から株も円も買われているという。東京から日本版ビッグバンや行財政改革への熱情はもはや伝わらない。金融不安を前にして改革は棚上げとなったようだ。「特金・ファントラから始まった金融証券疑獄(1)/株式市場のターボエンジン」
に続いて再び特金・ファントラに戻る。

特金・ファントラ制度の拡充の経緯をたどっていくうちに、巨人の星の主人公、星飛雄馬を思い出す。体力のなさを大リーグボールギブスで強化、次々と大リーグボールを編み出すが、ことごとく正攻法の打者だった花形満や土門豊作にうち砕かれる。金融だけでなく日本経済全体は正攻法の改革を避けて、場当たり的なアイデアでその場を凌いできた。一時的には威力を発するが、すぐに通用しなくなり、ただちに次の方策が求められてきた。筆者はこれを「臨時・暫定・特定国家」と名付けている。

 新聞に出てくる法律の名前を注意して見てほしい。「臨時」「暫定」「特定」の文字がいかに多いか分かろうというものだ。昨年一度、「特定という名の不特定-臨時暫定特定国家」で書いた。「臨時・暫定・特定」については改めてレポートする。

 ●個人株主の減少を嘆きながら法人優遇
 特金・ファントラは損失補填の温床となっただけではない。株式市場に数々の弊害をもたらした。そしてその弊害は、もはや修復しがたいほどの構造的欠陥として日本の株式市場の改革の前に立ちはだかっている。

 まず、個人株主が市場から撤退する傾向が加速した。法人持ち株比率が80%前後にまで増えたことは前回すでに説明した。流動株の減少は売買の出会う機会が減ることを意味し、公正な株価形成を阻害する。だれが考えても分かることだ。だが大蔵省は健全な個人株主育成の道を取らなかった。法人持ち株比率が増えても一時的な株価対策を優先した。もちろん株価対策への経済的要請もあった。

 同じ時、東京証券取引所や証券業協会は何をしたのだろうか。「上位10人までの大株主(特定株主)比率は70%まで」と規定していた証券取引所の上場ルールを「当分の間、80%に緩和する」と改めた。「当分の間」は臨時的暫定措置であるが、今も続いている。

 この上場ルールは、そもそも特定株主への株式集中を防止し、流動株を増やして株価が公正に決まるための最低限のルールだった。これで大株主は株を買いやすくなった。大蔵省も証券業協会も「個人株主の減少を嘆き」ながら、法人持ち株比率を上げやすいよう「株価対策」を打ったのだ。

 1980年代後半の株式急上昇時は、この70%上場ルールを元に戻す格好のチャンスだったが、大蔵省は何もしなかった。株が下がり始めると、もとに戻すどころか次の「株価対策」が必要となった。ところが大蔵省が1987年11月のブラックマンデーで手掛たのは特金・ファントラのさらなる優遇策だった。

 ●始まった企業の配当無視
 企業同士の株式持ち合いが進むとどうなるか。個人株主は配当と株式の値上がりを目的に株を買う。上場していない株式は配当だけが目当てである。多少のリスクを負っても預貯金するより有利な投資と考えるのは当然である。企業にとって配当政策こそが株主への最大のディスクロージャーである。

 その配当額が株価に対してあまりにも低く、利回りが合わなかったらどうだろう。株価が下がるのは当然である。業績が悪いのは問題外として、稼いだ利益の数%しか配当に回さないのは株主への背信行為に等しい。

 ところが、持ち合いが進むにつれて、企業は配当を無視するようになった。1970年代まで日本の上場企業は株価に対して3-5%の配当利回りを保証していた。うそではない。古い「四季報」をめくってみれば一目瞭然である。それが1980年代に入って著しく低下し、80年代後半には株価急上昇がこの傾向を助長し、利回りは1%を切り、さらに0.5%近辺まで低下した。ちなみに欧米の配当利回りは2-3%を維持している。香港などアジア株も同様である。それまでふつうだった日本市場が、世界で最も利回りが低い、変則的な証券市場に変貌した。後は知っての通り、上がれば売るだけ。完全なキャピタルゲイン稼ぎのギャンブル市場と化した。

 企業業績が上がり、利益が増えれば配当金が上積みされる。企業業績に応じて株価が上下するのは配当への期待があるからだ。かつての米デジタルイクイップメント社のように利益をすべて投資に回し、株主への利益還元はすべて株価上昇(キャピタルゲイン)で行ってきた企業もないわけではない。しかし、これは例外だ。

 なぜ配当利回りが低下したのだろうか。答えは簡単である。企業の持ち合い比率が増したからだ。AとBがお互いに1000株ずつ持ち合いしている場合、1株当たり配当を5円にしようが、100円にしようが、「行って来い」だから同じこととなった。持ち合い比率が低い時には多くもっている方が「あんまいだ」と増配を要求するのが当然だが、持ち合い比率が80%となっては法人株主が配当を求めなくなってもなんら不思議でない。問題は生命保険だけだった。なんとなればほとんどの生保が株式会社でなく、持ち合いのメリットを生かせなかった。生保が抱えた矛盾は後で述べる。

 野村総研のリチャード・クー氏がおもしろいことを言っていた。彼は法人持ち株を70%と想定し「仮に法人持ち合い株をすべて解消すると、株価に対する配当利回りは欧米並みの2%を上回る」という試算である。「目からうろこ」とはこのことである。

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