書評: 2011年11月アーカイブ

shisenwokoete.JPG 内田樹『日本辺境論』(新潮新書)の中で学んだのは、エンゲルスが『空想から科学』で三人のユートピアン(空想的社会主義者)を描き、その中でロバート・オーエンはその一人としていることである。

 「ヨーロッパ思想史が教えてくれるのは、社会の根源的変革が必要なとき、最初に登場するのはまだ誰も実現したことのないようなタイプの理想社会を今ここで実現しようとする強靭な意志をもった人々です」「その人たちの身銭を切った実験の後、累々たる思想的死骸の上にはじめて風雲に耐えそうなタフな社会理論が登場してくる」「日本の世界に向けて教化的メッセージを発信した例を私は知りません」

 読んでいて思い出したのは賀川豊彦である。賀川に対してこういう分析を与えればぴったりくる。世界に向けて教化的メッセージを発信した唯一無二の日本人ということができよう。

 賀川の業績の一つはスラムにおける救貧活動である。キリスト教による救霊からはじまり、幼児教育、医療活動に進み、労働運動にまで発展。その後の社会事業のコングロマリットの発想の原点となった十数年をそのスラムで過ごした。「いま、最もキリストに近い人」と言わしめ、キリスト教の世界では誰もが納得した。

 もう一つは彼の社会事業の中核となった協同組合運動の著書『Brotherhood Economics』を1936年にニューヨークのHarper社から出版したこと。協同組合を社会論として構築しただけでなく、それを国家論、世界論にまで高めた。21世紀になっても世界連邦は夢物語としてしかとらえられていない。その世界連邦を協同組合で構築しようという壮大なロマンが1930年代に賀川によって語られていたことは伝えられ続けなければならない。

 そういう意味でスラムでの苦悩を描いた私小説『死線を越えて』(Before the Dawn)は世界的な文学であり、『Brotherhood Economics』は世界的な経済書になるのだと考えたい。