2013年10月アーカイブ

 アメリカ合衆国の医療が荒廃していることは、今や世界の常識だ。アメリカには日本のような国民皆保険は存在しない。公的医療保険がカバーするのは高齢者と低所得者の一部。大多数の国民は、「自己責任」で民間の高額な医療保険に入るか、無保険者でいるか、そんな究極の選択を迫られる。
 
 アメリカでは国民の6人に1人が無保険だという。
 
 はっきり言えば、アメリカの医療を牛耳るのは民間の医療保険会社だ。保険会社は、加入者がいざ受診しようとすると厳しい条件を突きつけ、高額の支払いを要求する。加入者が手術を受けたり、出産したりすることで自己破産するケースは珍しくない。そのような患者と家族は、当然のことながら、保険会社の言いなりで冷淡な対応をする医師を憎む。「悪魔の手先」と恨む。
 
 しかし、「儲け」を第一義とする民間保険会社中心のアメリカ医療の中では、医師もまた被害者になるケースが後を絶たない。保険会社のお覚えめでたく、高額の給与をもらって人生をエンジョイしている医師もいるそうだが、統計的にはアメリカ国内で医師の自殺率は非常に高く、過剰労働、保険会社や製薬会社からの重圧に苦しめられている。訴訟リスクも高い。

 「コミック 貧困大国アメリカ」(堤未果 著・松枝尚嗣 漫画、PHP研究所)は、移民を狙う住宅詐欺や、肥満と貧困ビジネス、借金逃れの志願兵などの話とともにアメリカの医師たちの受難ぶりも紹介している。

 保険会社が「評価」と称して、医師にコストダウンのプレッシャーをかける。保険会社の評価がダウンすると保険医の認定を外される。保険業界は各地域の病院を買収して、独占市場を形成する。医療事故訴訟に備えた保険料の支払いが数十万ドルにも及んで廃業する医師...。

 日本の国民皆保険は、医師にとっても極めて大切な制度なのだと再認識させられた。程度の差はあれ、日本でも医療の市場化、民営化の圧力は高まっている。「民」の領域を広げることで、医療費が抑制されるかのような説を唱える経済人もいるが、大きな間違いだ。

 2001年に東京で開かれた医療シンポジウム「日本の医療制度を民営化すべきか?」に出席したハーバード大の医療経済学者、ウィリアム・シャオ教授は次のように語っている。

 私は日本が増大する医療費の解決策として民営化を導入しようとする議論が全く理解できない。医療費の抑制方法には四つある。健康保険がカバーするサービスを減らす、患者の自己負担を増やす、サービスの値段を下げる、そして医療費総額に上限を設ける事だ。すべて民営化しなくても十分に可能なことなのに、何故わざわざ民営化する?アメリカの例を見れば明らかではないか。医療費抑制策と民営化の二つは完全に区別されるべきであることが。(「コミック 貧困大国アメリカ」より)

 もちろん、患者負担の増大や医療の質、量の低下が日本の宝・国民皆保険制度を実質的に「骨抜き」にする怖れは十分にあろう。だが、医療への市場原理導入が医療費を抑えることがあり得ないことだけは、肝に銘じておきたい。(
日経メディカル 2013年9月13日
             龍谷大学 教授 中野 有
 
シリア問題は複雑である。「アラブの春」から3年、チュニジア、エジプト、リビアの独裁政権は崩壊した。しかし、シリアでは化学兵器が使用され、内戦が絶えない混沌とした「アラブの冬」に陥っている。
 
シリアのムアレム外相は、「内戦でなくシリアを攻めるテロと戦っている」と国連総会で演説をした。911の報復としてイラクのフセイン政権やアルカイダを攻撃した米国と同じ考えである。シリアの反政府側の背後にアルカイダ等のテロ組織が絡んでいる。米国の敵はアルカイダ等の国際テロ組織であるのにこともあろうに米国はシリアの複雑な問題に踊らされ敵を味方としているのである。
 
シリアで内戦が激化する情勢の中、オバマ大統領は軍事介入のタイミングをシリアで化学兵器が使用された時と訴えてきた。レッドラインで牽制してきたが世界の警察官である米国は一線を越えたシリアへの軍事攻撃のタイミングを逸した。理由は米国の同盟国である英国がシリアへの軍事介入を見送ったことなどから米国内も一国による軍事介入の無謀さへの批判が高まったからである。
 
今のシリアの状況を学校のいじめと考えてみると、弱者がいじめに遭遇しているのに誰も助けようとしない状況が続き、最後に凶器を持って止めを刺されたのに周りが無関心を装っているに等しいように映る。
 
オバマ大統領は化学兵器の犠牲になった子供たちの立場や人道問題、そして化学兵器の禁止を明確に訴えるために軍事制裁が不可欠であると、まるで「やられたらやり返す、倍返しだ」と米国民に問いかけてみたが変化は起こらなかった。
 
大統領の権限で武力行使が可能であるがオバマ大統領が議会の承認で躊躇しているときにロシアのプーチン大統領は、シリア問題を外交的に解決する戦略を打ち出した。プーチン大統領はニューヨークタイムズに寄稿し、米国の民主性に疑問を提示し、国際連盟に米国が入らなかったから第二次世界大戦を引き起こし、戦争の代償でできた国際連合においても米国は国連決議なしでの軍事行動を起こすという国連軽視が世界に悪影響を与えると主張した。
 
プーチン大統領はシリア外交戦略に関するコラムにより外交が軍事を凌駕する思考で世界の外交の主導権を握ると同時に、上海協力機構を通じ、中国、中央アジア、イラン等との協力体制を固めた。そしてプーチン大統領の主導により国連安保理のシリアの化学兵器廃棄に関する決議が満場一致でなされた。この法案にアサド政権が遵守を怠った場合、軍事制裁も含むとの米国の意思も含まれた。
 
今回の決議案が議決されるまでにシリア内戦を巡り国連安保理の常任理事国である米・英・仏がアサド政権批判の決議案を提出したがアサド政権を支持するロシアと中国の拒否権により国連の無力化が表面化した。
 
大多数のメディアは、プーチン大統領が世界の外交の主導権を握りオバマ大統領の存在感が薄くなったと論じている。ニューヨークタイムズの外交コラムニストのトーマス・フリードマンは「オバマ大統領の頭に白髪が増えたのはシリア問題のせいであり、もしプーチン大統領がシリア問題で外交戦略を示さなかったらオバマ大統領の頭ははげたかもしれない、いやオバマ大統領の頭がピンクに染まらない方が良い」とのオバマ大統領の変化を示している。
 
しかし、シリア情勢を分析してみると、実はオバマ政権のしたたかな外交戦略が結実したと次の5つの視点から観察できないだろうか。第一、オバマ大統領はアフガン、イラク撤退に見られるように世界の警察官の役割より米国の雇用問題に重点をおく国内問題を考えている、第二、軍事介入を見せかけながら戦争で利益を得る軍産複合体の圧力を如何に回避するか、第三、シリアやロシアを動かすためにはレッドライン設定による本格的な軍事の圧力が必要であった、第四、国連安保理の中露の拒否権を拒むためにはプーチン大統領のイニシアティブが必要であった、第五、米露の共通の利益の合致点は国際テロ(反政府側)であるとの認識。
 
シリア問題が国連を通じて解決に向かうことにより北朝鮮問題も新たな展開が期待できる。昨今の中東情勢の変化において米国務省やシンクタンクは綿密な戦略を練っていると思われる。何故ならアウフヘーベン(止揚)がオバマ外交から読み取れるからである。

このアーカイブについて

このページには、2013年10月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2013年9月です。

次のアーカイブは2013年11月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

月別 アーカイブ

ウェブページ