アベノミクスの明暗 中野 有

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                   龍谷大学 社会学部 教授 中野 有
 
最後の土壇場でPKを決めた本田選手には劇的なメークドラマを演出するカリスマ性が備わっている。「真ん中にけって、取られたらしゃーないなと思ってけった」、勝負師の言葉には重みがある。もしキーパーが本田選手の心理を読んでいたら成功の重みと同じぐらいに非難の的になっていただろう。
 
今のアベノミクスの現状は、ワールドカップ最終予選と同じぐらいに失敗が許されない状況にある。PKこそキッカーとキーパーの心理作戦であり、アベノミクスの成功と失敗の明暗は、認知心理学、即ち国民や世界が読む空気によってどっちにも転ぶ。それほどにもろいものであるかもしれし、また本田選手のようなカリスマを備えた人物が行動すれば失敗の確率は極めて低い。
 
そもそも一国のリーダーの重要な役割は、豊かになるための戦略を示し行動することである。リーダーシップ論によればそれが専制的であっても民主的であっても国民の自由に任せる放任主義的であってもいい。とにかく結果がすべてである。
 
アベノミクスに関しては実体経済の結果が出る前に予測を凌ぐ勢いで株価が大きく上昇し、行き過ぎた円高が是正され何か急に社会の空気が楽観的になったような気配を感じる。平成に入りずっとデフレ不況が続いていたのにインフレになり雇用状況が改善されるのではないかとの期待感を高まる。学生の就活の状況からも経済の上昇気流を感じる。
 
アベノミクスの勢いの源は、安倍総理自身が明確なビジョンを提示し、実際に行動しているところにある。また、大胆な金融政策と、機動的な財政政策と民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢を国家的なコンセンサスのベクトルとして示したところに帰結する。
 
英国の週刊誌であるエコノミスト誌の表紙に安倍総理がスーパーマンの格好で描かれ、アベノミクスの特集を組んだ。まるで「ジャパン・ナッシング」から34年前の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に回帰したような久々に元気が出るニュースである。
 
日本がデフレから脱却するために米国の経済学者であるポール・サムエルソンやノーベル経済学賞を受賞したジェームス・トービンやポール・クルーグマンは、円を増刷する金融緩和と財政出動による公共投資の推進を何年も前から提唱してきた。
 
これらを実行するベストのタイミングとアベノミクスの実施が一致したところに安倍総理のカリスマ性を感じるのである。
インフラ輸出、文化輸出、農業の所得倍増、グローバルな教育などの成長戦略を見ると1954年から1971年までの世界のいずれの国も成し遂げることができなかった奇跡的成長の軌道を彷彿させる期待感を感じる。少なくとも平成に入ってからアベノミクスが最もインパクトのある成長戦略であることは確かである。
 
アベノミクスの明暗は、ケネディ大統領のフレーズにあるような「国に頼るのでなく国のために何ができるかを問いかけること」にある。何よりも将来を担う若者がアベノミクスを咀嚼し行動に出ることにある。
 
安倍総理の「世界で勝って家計が潤う」という官民一体となったトップセールについての45分の講演を大学の講義で披露した。200人規模の学生の大多数が非常に高い評価をしていた。とりわけ、安倍総理の「そうだ、日本に行こう」というフレーズで日本の存在感を積極的に世界に示し、ビジネスを行うとの「挑戦・海外展開・創造」が響いたようである。
 
アベノミクスの三本の矢は、金融と財政と成長戦略が連動して初めて機能するものであり、その原動力となるのが国民の意思である勢いを生み出す空気や環境である。失敗するなら三本の矢が国民の負の認知と行動により政府・企業・家計が守りに入ったときである。今、希求されるのは本田選手の最後の土壇場のPKのような思いっきりであり、それが日本の命運を決定するのであろう。

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このページは、伴 武澄が2013年6月 6日 10:06に書いたブログ記事です。

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