2003年10月アーカイブ

2003年10月31日(金)萬晩報通信員 園田 義明

 ■神がブッシュを大統領に任命した

「神がブッシュを大統領に任命した」
「私の神は本当の神だ、イスラムの神は偽りの神だ」
「アメリカの敵の名前はサタンだ」

 フランクリン・グラハム、パット・ロバートソン、ジェリー・ファルウェル等キリスト教右派の指導者達が大喜びしそうな発言が、米国防総省高官の口から飛 び出して米メディアを揺るがしている。この高官は、今年6月に国防次官代理に昇任したウィリアム・ボイキン中将。ウサマ・ビンラディン氏やフセイン大統領 の追跡に関わる諜報活動の指揮している。キリスト教福音派の集会に軍服姿で登場したボイキン中将の発言に対して、民主党やイスラム系団体が猛反発し辞任を 要求している。

 ■追いつめられるカリスマDJ

「黒人クォーターバックの成功を伝えたいメディアが彼を取り上げているだけで、過大評価されている」

 ボスキン中将以上に全米を騒がせているのが超保守派のカリスマDJとして知られるラッシュ・リンボウである。毎週全米で2000万人のリスナーを抱える 人気ラジオトークショー「ラッシュ・リンボウ・ショー」でセンス溢れる毒舌ぶりを発揮し、人種やゲイ差別、女性軽視、環境保護者への冷笑発言を繰り返し、 歴代のリベラル派を批判してきた。宿敵クリントン前大統領が姿を消し、今またハワード・ディーン民主党大統領候補の登場によって本来の毒舌の復活を予感さ せていた

 しかし、スポーツ専門テレビESPNの番組「サンディ・NFL・カウントダウン」のコメンテイターも務めていたリンボウのフィラデルフィア・イーグルス のクォーターバック、ドノバン・マクナブに対するコメントが黒人に対する人種差別だとして抗議が番組に殺到、10月1日、責任を取って解説者を辞めること になる。

 さらに数年前の脊椎手術と椎間板ヘルニアによる痛みから、不法に大量の鎮痛剤を服用していたことが発覚する。深刻な薬物依存に陥ったリンボウは、医療施 設に入院していた事実も自ら告白する。また、鎮痛剤の購入経路において麻薬組織との関係が指摘されるなど、疑惑が次々と取りざたされている。

 このラッシュ・リンボウもグラス・ルーツ団体を大同団結させたグローバー・ノーキスト主宰の「水曜会」と深く関係しており、選挙時には共和党の集票マシーンとして機能しているのである。

 ■共和党の十字架

「勇ましくも愚かしく、キリスト教右派に挑戦した最初の人物となった」

 ニューヨーク・タイムズ紙は2000年の共和党候補指名で本命のブッシュをぎりぎりまで追いつめたジョン・マケイン上院議員をこう評価した。

 1987年10月1日、後にクリスチャン・コアリションを創設することになるテレビ伝道師パット・ロバートソンが大統領選への出馬表明を行う。共和党5 人、民主党7人の候補者が争った1988年の大統領選は、当時副大統領であったブッシュ・パパが制することになるが、保守派宗教票という「見えざる軍団」 を率いて登場したロバートソンは、アイオワ州党員集会でブッシュ氏をしのいで2位に躍り出るなど「ロバートソン旋風」を巻き起こすことになる。

 ロバートソンの台頭に、いち早く歓迎声明を出したのがドール候補(当時上院院内総務)である。「新しいグループが共和党に入ってくることは大いに結構」 と表明した。以後、十字架に集う票が選挙戦の行方を左右してきたのである。2000年の大統領選を振り返ろう。

 2000年大統領選、ニューハンプシャー州予備選翌日の2月2日、ブッシュはサウスカロライナ州のボブ・ジョーンズ大学を訪れ講演を行う。ボブ・ジョー ンズ大学は「反カトリック」を旗印に掲げ、学生の異人種間交際を禁じるプロテスタント系大学でありクリスチャン・コアリションの牙城として知られている。 これまでレーガン元大統領やブッシュ・パパ元大統領も選挙戦の際に訪れていた。

 ニューハンプシャー州予備選でまさかの敗北を喫したブッシュ陣営が、クリスチャン・コアリションの支持を取り付けたフォーブス誌社主スティーブ・フォーブス候補に対抗するために選んだのがボブ・ジョーンズ大学訪問であった。

 ニューハンプシャー州に勝利したものの、続くサウスカロライナ州でブッシュ候補に敗れたマケイン候補は、カトリック教徒の割合が高いミシガン州で再び勝 利する。そして2月28日、クリスチャン・コアリションの本部に近いバージニア州バージニアビーチに乗り込み、左派のイスラム教黒人指導者ルイ・ファラカ ンやニューヨーク・ハーレムの黒人運動指導者アル・シャープトン(2004年大統領選出馬)、右派のパット・ロバートソンやジェリー・ファルウェルは、 「不寛容のエージェント」と批判し、とりわけブッシュ候補を「パット・ロバートソン・リパブリカン」だと攻撃した。

 それまでクリスチャン・コアリション批判は、共和党内ではタブーとなっており、有力者が次々と姿を消す中、マケイン旋風は、静かに、そして唐突に終焉を迎えることになる。

 しかし、マケイン候補の「共和党再建のためには、キリスト教右派と明確に一線を画して、中間層に新たな支持層を構築しない限り共和党に未来はない」との 主張は、極めて正当な主張であり、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの保守系紙も連日マケイン候補を支援する社説を掲載したほどだ。共和党を長く支え てきた伝統的保守派である大企業に属する経済重視のエリート中道保守層の抱えるジレンマがここに内在していることがわかる。

 ■米国での政治と宗教

 キリスト教右派という十字架を背負い込んだブッシュ陣営に対して、民主党ゴア陣営は副大統領候補にジョゼフ・リーバーマン上院議員(2004年大統領選 出馬)を起用する。敬けんなユダヤ教徒であるリーバーマンを起用することで宗教的少数者に対する「寛容さ」をアピールする目的があった。また、リーバーマ ンがクリントン大統領の不倫もみ消し疑惑を痛烈に批判したことから、モラル重視を意識しながら、保守回帰の中での保守層を取り込み、ユダヤ票の確保を狙っ たのである。ユダヤ系はメディアでの影響力が強く、政治的関心が強いため、高い投票率となっており手堅い票を確保できる。ここで注目されるのは、民主党で すら保守回帰のうねりを無視できなかった点であろう。

 1960年のケネディとニクソンの歴史的な大統領選挙では、ニクソン陣営はケネディがカトリック教徒であることを再三取り上げた。それまで、アメリカ大 統領はすべてプロテスタント教徒であり、「プロテスタント国家」であるという暗黙の了解があったからだ。

 しかし、リーバーマンが持論である宗教の重要性を前面に出して大統領選の遊説を展開したことで、合衆国憲法がうたう政教分離の原則を逸脱しかねないとの批判の声が上がった。

<合衆国憲法修正箇条>
修正第一条 連邦議会は、国教を樹立し、あるいは信教上の自由な行為を禁止する法律、または言論あるいは出版の自由を制限し、または人民が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。

 この修正第一条の解釈を巡って幾度となく様々な論争を生んできた。2000年9月20日に発表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査結果による と、51%の回答者が「教会は政治問題で自らの見解を述べるべきだ」と答え、45%が反対している。また「政治家が自らの宗教について語ることは不快」と 回答したのは50%、「不快ではない」が45%。「大統領は強い信仰を持つことが重要か?」の質問に対して、70%重要と答え、民主党支持者の70%に対 して、共和党支持者は79%が重要と回答している点は興味深い。

 また2003年7月24日に公表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査結果では、アメリカ人の生活における宗教の影響力について、それまで「影響 が増加している」が37%であったが、2001年9月11日の同時多発テロ直後の11月の調査では、「増加している」が78%に跳ね上がり、2002年3 月には元の水準である37%、そして2003年7月には30%と宗教観が揺れ動く様子を如実に示す結果となっている。

  2003年10月18日、ハワード・ディーン民主党候補はデトロイト郊外のディアボーンで行われたアラブ・アメリカン・インスティテュート・ナショナ ル・リーダーシップ・カンファレンスで、星条旗を指さしながら「この旗は、ボイキン中将やジョン・アシュクロフト(司法長官)、ラッシュ・リンボウ、ジェ リー・ファルウェル、パット・ロバートソンのものではない。」と語り、聴衆はスタンディング・オベーションで応えた。「寛容さ」をアピールする上で絶好の 機会となったのである。

 いよいよ、本格的な大統領選挙戦に突入してきたようだ。(続く)

 園田さんにメールは mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp



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2003年10月30日(木)萬晩報通信員 成田 好三

 プロ野球の日本シリーズがやっと終わった。日本シリーズが退屈だった訳ではない。日本一になった福岡ダイエーホークス、敗れた阪神タイガースとも、互い のホーム球場でしか勝てなかったから、勝手に『内弁慶シリーズ』と名付けたが、第7戦までもつれた展開は、それなりに見応えがあった。『やっと』と書いた のは、日本シリーズまでの『待ち時間』のことだ。

 プロ野球は、ある意味で大病院の外来と同じだ。いや、それ以上にひどい。大病院の外来なら患者を半日、あるいは一日待たせるだけだが、プロ野球はファンを数週間も、いや1か月も待たせて、なお平気な顔をしている。

 リーグ公式戦の優勝チーム決定から日本シリーズまでの間隔が長すぎる。ファンにしてみれば、宴会ですっかり酔いが覚めてから、もう一度酒を飲まされるようなものだ。

 今季、セ・リーグは阪神が9月15日に、パ・リーグは9月30日にダイエーがリーグ優勝を決めた。日本シリーズの開幕は10月18日だ。個人タイトルの『争奪戦』が残るとはいえ、それから延々と、いわゆる『消化試合』にファンは付き合わされる。

 リーグ優勝が決まった後の個人タイトル争奪戦に何の意味があるか。首位打者や本塁打王争いを巡っての醜い争いが毎年のように繰り返される。野球はチーム スポーツだ。リーグ優勝を争っている中での個人タイトルにこそ意味がある。一昨年のタフィー・ローズ、昨年のアレックス・カブレラの本塁打が『55本』に とどまったことの背景には、消化試合の中での複雑な思惑が絡み合っていた。

 今季、リーグ優勝が決定した時点での残り試合を調べてみた。セ・リーグで阪神が優勝した9月15日終了時点での残り試合は、その時点での順位で阪神 15、ヤクルト・スワローズ15、中日ドラゴンズ13、広島カープ22、読売巨人軍12、横浜ベイスターズ14。広島の残り試合『22』は多すぎる。こん なに試合数が違っていては公平な優勝争いにはならない。

 パ・リーグでダイエーが優勝を決めた9月30日終了時点での残り試合は、ダイエー3、西武ライオンズ3、近鉄バッファローズ2、千葉ロッテ・オリオンズ 9、日本ハム・ファイターズ3、オリックス・ブルーウェイブ6だ。パ・リーグの日程消化は、優勝決定が半月遅れという状況を勘案しても、若干ながら早い。 しかし、その後の試合は飛び飛びの日程で行われる。ファンが消化試合に長い期間、付き合わされることに変わりはない。
パ・リーグが公式戦の全日程を終了したのは10月12日。セ・リーグの全日程終了は10月16日だ。セ・リーグでは阪神の優勝決定から1か月もの間、消化試合が続き、全日程が終了したのは日本シリーズ開幕の2日前だった。

 メジャーリーグでは、162試合に及ぶリーグ公式戦終了後、1日だけ間を空けてプレーオフに突入する。間の1日にも意味がある。公式戦最終戦を終えても プレーオフ進出チームが決まらない場合は、文字通りの『ワンデイ・プレーオフ』を実施する。公式戦最終盤の9月には、20連戦程度は当たり前だ。地区優勝 シリーズ、リーグ優勝シリーズ、そしてワールドシリーズへと、ほとんど切れ目のない日程が組み込まれる。

 今季の場合、リーグ公式戦の全日程が終了したのは9月29日(日本時間、日付は以下同じ)。プレーオフに進出する8球団のうち、最後の権利となる『ワイ ルドカード』を手にした球団は、ボストン・レッドソックス(ア・リーグ)とフロリダ・マーリンズ(ナ・リーグ)だった。その2球団がプレーオフ進出を決め たのは9月26日。日本流に言えば、消化試合が行われた期間は2日間だけだった。

 メジャーリーグも日本のプロ野球も3月末か4月初めに開幕する。リーグ公式戦は22試合もメジャーリーグが上回る。何故これほどの違いがあるのか。メ ジャーリーグは、とにかく日程通り試合を消化する。雨が降っても内野に巨大なシートをかけてやむのを待つ。試合が再開されれば、日付が変わって翌日未明に なっても試合を続行する。それでも雨天中止になった場合は、調整日や移動日に試合を組み込む。1日に2試合を行うダブルヘッダーも、終盤戦になれば当たり 前のように行われる。

 メジャーリーグの日程をそのまま真似しろとは言わない。日本的な『流儀』がある。しかし、プロ野球界はファンが希望する日程とはどんなものか、ファンの 声を聞いた上で改善策を講じるべきである。リーグ公式戦の優勝決定日から1か月もの間、消化試合を続けるリーグなど、世界中どこを探しても見つからないだ ろう。

 プロ野球界は、状況がすっかり変わった今も、『殿様商法』を変えようとはしていない。

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2003年10月28日(火)萬晩報主宰 伴 武澄

  きょう 衆院選が公示され、各候補は約2週間の選挙戦に突入する。小選挙区比例代表制が導入された1996年から3回目の選挙となる。自民党の立候補者で 目立つのは長老の引退と二世政治家の増加である。民主党はマニフェストを前面に押し出し本格的な政策論争を挑む形となる。

 民主党がマニフェストで一番言いたいのは「官僚政治からの脱却」ということだろう。行政が政治と一体となってきたこれまでの自民党の一番の急所をついた テーゼだと思うが、これはなかなか難しい課題である。巨大な官僚組織がそっぽを向くと国家は機能マヒに陥る。田中康夫長野県知事は長野県の行政組織の意識 変革のために二度の知事選を必要とした。小泉首相でさえたった一人の日本道路公団の総裁の首を切るのにほぼ1カ月の月日を要したのである。

 一方の小泉・自民党が掲げるのは日本道路公団と郵便事業の民営化を柱とする「改革の継続」である。郵便貯金と簡保は国の第二の予算とされる財政投融資の 最大の資金源であり、道路公団はその最も大きな使い手のひとつである。郵便事業が民営化されると世界最大として突出した「銀行」が生まれることになり、し かもその資金のほとんどが国債で運用されているという二つのやっかいな問題に突き当たる。

 民主党のマニフェスト、小泉・自民党の公約は、どちらも直球勝負である。しかも実現すれば日本社会に一大変革をもたらす豪速球といえるかもしれない。そういう意味で今回の衆院選はめずらしく真面目でまっとうな政策がぶつかり合う選挙となる。

 これまで多くの選挙で「ろくな政治家がいない」という不満が有権者にあった。「有権者におもねる公約ばかり」「ポスターやちらしは政党名と候補者の名前 を外せばどこも同じ」という批判もあった。しかし今度ばかりは違う。二大政党の党首が、真面目にまっとうな政策を投げかけたのだから、今度、問われるべき は有権者の問題意識ということになる。

「この有権者にしてこの政治」ということがこれまで度々言われてきた。日本の政治家のレベルが低いのは、投票する人のレベルが低いからだと揶揄する向きもなくはなかった。だが今回問われるのは政治家のレベルではなく、実は有権者のレベルなのだ。

 萬晩報を始めた1998年の4月に「5年前の興奮を思い起こしてわくわくしよう」というコラムを書いた。変わらない日本の政治に落胆せず、投票行動で自民党を野に下らせたあの日を思い出そうと読者を鼓舞しようとした。

 2カ月後の6月にはそんな思いも挫折して「白票を投じて有権者の政治不信を意思表示しよう!」を書いた。7月に参院選が迫っていて、世の中あまりにも盛り上がりがないことに憤慨したからである。コラムには次のように結論付けた。

わ くわくするには「白票」を投じることだろう。「白票党」が第一党にのし上がれば、選挙の勝者は自民党でも民主党でもない。有権者が勝者となる。マスコミも 開票日翌日の一面トップに「無効票が○○%、選挙に不信任!」の横見だしを付けざるを得なくなる。街角で「オーレ、ジャポン」の歓声が上がるに違いない。
 だが今回ばかりはどうも様相が違う。もはや白票ばかり投じてはいられない。二大政党が堂々と政策でぶつかりあっている。

 小選挙区比例代表制がかつての中選挙区制と違うのは、選挙が個人の戦いから政党同士の戦いに変わった点である。民主党は公認候補全員に党のマニフェスト に署名をさせたということだ。立候補者本人より民主党を前面に押し立てた選挙戦を戦うという意思表示である。その点、自民党は小泉・自民党と自民党とがあ り、候補者すべてが公約に従うということにはなっていない。

 筆者は小泉ファンではあるが、自民党ファンではない。小泉内閣を支持するが自民党政権がこれから3、4年続くことには苦痛感が伴う。それどころか民主党 が敗れれば向こう10年政権交代は不可能となる。そんな感慨を持っている。社民党の土井たか子氏は今度の衆院選について「天下分け目の関が原だ」と評し た。その通りだと思う。

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2003年10月25日(土)ワシントン在住ジャーナリスト 堀田 佳男

 4年に1度の祭りがもどってきた。大統領選挙に立候補している民主党のハワード・ディーンとウェズリー・クラークをワシントンで取材した。

 午前8時20分。朝の光をバックに、車から勢いよく飛びだしてきたディーンは、すでにテレビカメラを意識した薄い化粧をほどこしていた。思っていたより もはるかに小さい人だ。並んで歩くと、170センチのわたしよりわずかに大きいだけである。数人のボディーガードがまわりをかため、選挙スタッフがそのあ とを追う。その横から何人ものテレビカメラマンがバンザイをするようにしてカメラをむける。それはまるで祭りの神輿を担ぎ上げるような光景である。
 
 彼の到着を待っていたサポーターは約250人。学生もいるが、年配の支持者が多い。ほとんどがインターネットで集会を知り、集まっていた。

 サポーターの1人、メリーランド州の高校教師、ダン・ガーナーは「ディーンはクラークよりもずっと誠実な感じがする。大衆に迎合せず、自分の意見を正直 に言うところがいい。すでにインターネットを通して20ドルの政治献金をした」と、ディーン支持の理由をはなした。

 ディーンのサポーターのすぐ横には、クラークのサポーター約70人もいたが、数の上からも組織力という点からもディーン陣営がまさっていた。遊説先でサ ポーターをどれくらい集められるかは各州の選挙事務所の組織力にかかっている。さらにカネがどれほど集まっているかでも、現場のウネリの大きさはちがって くる。

 いくぶんか高揚した表情で壇上にあがったディーンは、自身のキャンペーンについてこう自画自賛した。

「みなさんから、すでに2500万ドルの政治献金を頂いた。でも、大切なのは金額ではない。共和党のように金持ちから多額の献金をうけるのではなく、イン ターネットを通して20万人の方が平均77ドルという金額を寄付してくださったことに意義がある。これが本当の民主主義だ」

 一方、クラークは34年間の軍人生活が身にしみついているせいか、いまだに演説慣れしておらず、聴衆のまえでは表情がかたい。ディーンが集まったサポー ターのヤンヤの喝采を増幅させられるアンプを体内に備えているようであるのに対し、クラークは青い蛍光灯をあてられたような感じである。支持率では、ク ラークがブッシュを抑えるほどだが、ディーンかクラークかと問われれば、わたしはディーンに軍配をあげる。これは二人の遊説を間近でみた印象である。

 ディーンは最初からイラク戦争に反対し、福祉政策や環境、労働問題などでもリベラルな政策を打ち出して、ブッシュとは政治的に正反対の位置にいることを 強調している。ところがクラークは、民主党から出馬表明した9月17日直前まで、共和党で出馬する可能性もあり民主党員としての顔ができていない。政策面 では共和党員の支持を取りつけられる中道派の立場だが、わたしは穏健派を貫いて共和党に大敗した88年のデュカキスを思い出さないわけにはいかない。さら にクラークの横顔に、優等生特有のひ弱さを垣間見る。

 それでは、ディーンが予備選を制して民主党の代表候補となり、来年11月にブッシュと戦った場合、ディーンはブッシュに勝てるかというと、わたしはブッ シュの再選が濃厚だと思っている。それは共和党の結束力が民主党よりはるかに大きいからだ。一方の民主党は分裂とまではいかないが、リベラルと穏健派で割 れている。

 クラークが共和党から出馬していたらブッシュ陣営に風穴を開けていただろうが、クラークが民主党に移ったいま、共和党の結束力はつよい。さらにカネの集 まり方がディーンの比ではない。来夏までに200億円ほどを集める勢いだ。カネと票の関係は正比例するわけではないが、強い相関関係がある。

 8月の失業率は6・1%で労働者からの不満はあるが、アメリカ経済が今後半年で不況に突入する見込みはひくい。たとえイラクにまつわる諸問題が来年まで 尾をひき、支持率が落ちても、それが再選を阻止する大きな要因になるとは考えにくい。というのも、中西部を中心に、「サイレント・マジョリティー(もの言 わぬ多数)」がつくられているからだ。

 ベトナム戦争時の72年、ニクソンが反戦運動に直面してもマクガバンをやぶって再選をはたせたのは、このサイレント・マジョリティーが票を入れたため だった。シュワちゃんがカリフォルニアを制したことで、大票田の同州が共和党の手におちたことも大きい。アメリカの大将ブッシュは、いま窮地に立っている ように見えるが、民主党よりは固い基盤のうえにたっていることは間違いない。(「急ぐがばワシントン」2003/10/09から転載)

 堀田さんにメールは mailto:hotta@yoshiohotta.com

 急がばワシントン http://www.yoshiohotta.com/
2003年10月16日(木)ジョージワシントン大学客員研究員 中野 有

 ワシントンの郊外にある大きなシッピングセンターを歩いていると、普通の店と並んで米軍の案内所があるのでちょっとのぞいてみた。受付の親しみやすそう な女性が、陸海空軍に分かれた部屋に案内してくれるのである。明らかに英語の発音からしてもアメリカ人でない外人に積極的に「米軍へのすすめ」を説明して くれた。

 これには少し当惑したが、こちらも米軍に興味があったのでとにかく少しだけ時間を割くことにした。あいまいながら5つのことを学んだ。
  1. 米 軍は世界の平和を維持するために20万人規模で展開されており、イラクやアフガンにおいて勇敢に活躍している。(海外駐留米軍 東アジア10万、ヨーロッ パ10万、90年には60万、冷戦終結後ドイツで大幅削減、現在のイラクの13万を入れると25万人規模、予備役・文民170万)、
  2. 米軍に入ると大学の奨学金制度を受けることができ将来のキャリアとして役立つ、
  3. アメリカ人でなくても米軍に入るチャンスはあり、アメリカで働くために必要なグリーンカード等のことも考える、とのことであった。(これは確認する必要がありそう)。
  4. 心身共に鍛えられる、第5は、失業率の低下に貢献している。日本風にいえばフリーターの対策である。
  これらの説明を受け、大学に行く資金もなくアメリカンドリームにあこがれる若者だったら、米軍に入るのも魅力的な選択かなーと思ったりもした。また、世界 最強の米軍で最新兵器を使って世界の紛争問題に関わることで世界の英雄になることができるとの錯覚にとらわれた。トップガンの世界や、パイロットへの近道 と色々なことが脳裏をよぎった。

 毎日のようにイラクで米兵が殺されている。市街戦には米軍の最新兵器も機能せず、フセインが予告した通りのことが起こっており、ボディーブローが次第に 効き始めてきたようだ。いくら強い国であっても戦争の悲惨さが浸透してくる。近年になかった米軍にとっての戦争のマイナス面が出てきている。

 イラクに送られた米兵の何人かは、たまたま入ったショッピングセンターの米軍の案内所で米軍の光の部分だけ聞かされ犠牲になった若者もいただろう。テレ ビの映像に映し出される米兵は、正義の味方か、あるいはその逆に映るが、実際の米兵の多くは、身近にいる学生やごく一般的なショッピングセンターで見かけ る若者だと思うと、改めて戦争とはなんぞやと考えたくなる。

 アインシュタインが唱えたように、軍事費が上昇する程、軍事パワーを使用したくなり戦争に発展するということが成り立つよに思う。東西の冷戦中は、米ソ の抑止力が機能したが、冷戦に勝利し、米国一国の軍事費が世界の2-15位の総額を上回るという異常な状況においては、アインシュタインのアドバイスが当 てはまるような気がする。アメリカと世界の平和のために米軍が存在していると考えられると同時に、アメリカの経済成長と雇用創出のため軍需産業が必要とも 考えられる。

 悪の枢軸や国際テロという危険因子が存在するから米軍の存在意義がある。北朝鮮がミサイルを発射するかもしれないから何兆円もかけてミサイル防衛システ ムが必要となる。このように考えると米国のタカ派の一部は、外交の良策や経済協力や文化交流を通じ信頼醸成を構築し、軍事的関与を低下させる考えを否定す る傾向にあることがうなずける。

 世界の紛争地域で生活した体験からいくと世界の警察官としての軍隊は不可欠だと考える。アメリカ一国が無理をして世界の警察官になろうとしたから、か えって世界が不安定になりつつあると思う。常に世界の紛争地域に展開できる20万人規模の国連軍・多国籍軍が存在することでアメリカの負担を軽減すること とアメリカの単独主義に歯止めをかけることができると思われる。

 アメリカの経済成長や雇用創出のために軍需産業が必要であるならば、ハイテクを駆使した軍需産業を宇宙産業に結びつけることや、開発援助のための平和部 隊を大幅に増やすことで対処できないだろうか。アメリカの軍事費のすべてを教育、医療、環境分野への開発援助に充てれば、世界は遙かに安定するだろう。

 こんな夢物語を考えるもショッピングセンターの米軍の案内が、仮に「米軍のすすめ」でなく「宇宙開発のすすめ」や「開発援助のすすめ」だったら、奨学金 を得て、キャリアを築き夢は世界に翔るような思いになる。人類は軍事力というハードパワーで平和を勝ち取ることができないことを報復が報復を呼び起こす中 東の問題から学ぶべきである。

  2004年10月10日(日)アメリカン大学客員教授 中野 有
 
 アメリカは大統領選で熱くなっている。ぼくも熱くなっているので急いでコラムを発信したくなった。

 ブッシュ大統領とケリー上院議員の2回目の討論が終わったばかりである。1回目の討論は、ケリーのホームランだとすると本日の討論と3日前のチェニー副 大統領とエドワーズ上院議員の討論は、全くのイーブンだと感じた。討論後のテレビの解説もそのような意見が多い。

 でも、ケリーのホームランの余韻があるのか、ケリーに追い風が吹いているように感じる。大げさかもしれないがアメリカ国民のみならず世界の運命を変える だろうこの選挙に熱くなる国民に接し、民主主義の健全性が心地よい。危機に面したときに始めて民主主義に目覚めるのであろうか。40年以上前、ケネディー 大統領は、「政策の違いだけなら選挙の勝ち負けに影響するだけだが、外交政策の失策は、我々すべての運命にかかわってくる」と語っている。この言葉こそ今 年の選挙に当てはまる。

 知る限りでは、日本のメディアはブッシュ支持が多く、大統領選の行方をベールに包み報道しているように感ぜられてならない。日本からみれば日米の同盟国 を最重要に考え、中国を戦略的競合国と位置づけ、経済の保護主義を嫌うブッシュ政権との波長が合うからであろう。それよりもブッシュが再選されると予測し てきた日本のメディアが修正を加えることを嫌っているのが主な理由だと推測する。

 誰が大統領になってもそれ程、変わるものでもないとの意見も日本から聞こえてくるが、ブッシュが大統領でなければイラク戦がこれほど泥沼化することはなかった。これからの4年は、実に重要である。

 ブッシュは、アメリカ国民を大量破壊兵器を通じた国際テロ等の攻撃から守ることが 最も重要な仕事であると答えている。ケリーも同じ主旨のことを述べているが、ブッシュとケリーの違いは、究極的な目的に国際協調主義か世界平和が基軸になっているかどうかにある。

 ブッシュは、イラク戦の正当性を唱えるとともに戦争関与政策の修正を拒んでいる。一方、ケリーは、イラク問題の解決は国際協調にあり、アルカイダ等の国際テロへの対決姿勢を国連やNATOといった集団的安全保障の中で捉えようとしている。

 ブッシュの単独主義とケリーの国際協調主義から考察すると、北朝鮮問題に対する両者の姿勢が逆転する。ブッシュは、中国や韓国の意向を尊重する外交政策 で6者会合を支持している。ケリーは、北朝鮮の核開発こそが深刻な脅威であり、北朝鮮との2国間交渉こそアメリカが推進する政策であることを明確にした。 正確には、ケリーの対北政策は、2国間と多国間の両方である。多くのアメリカ人は、ケリーの北朝鮮やアルカイダへの強硬な姿勢に驚くとともに、ここで一挙 にケリーの信頼度が高まったようである。

 アメリカ大統領は世界で最もパワフルな存在である。そこで、ブッシュの問題は、アメリカを守ることが最優先であるところにある。ケリーは、アメリカを守 ることを第一に考えるが、少なくとも大統領が国連の集団的安全保障や経済社会理事会の機能を最大限に生かした世界平和を考えなければいけないと考えてい る。

 ブッシュ、チェニー、ケリー、エドワーズの中で、実際、中産階級の生活を経験したのは、エドワーズだけであり、経済、雇用、教育問題等を語るに説得力がある。下座鳥瞰できる素養のあるエドワーズの魅力が、ケリーを支え、決定的な票に結びつくと思われる。

 予測ははずれるものであり、国際情勢を読むのは難しい。でも、萬晩報のコラムニストとしてその時の真実や空気を描きたい。イラク戦が始まる前から、不吉 な予感がするイラク戦を回避するために全くの微力であったが萬晩報などを通じ自由に意見を述べてきた。コラムはインターネット上に残るので、書いたことに 信念がなければいけない。
 
 少し、時を経て熟成されたコラムにも焦点が合うことがあるので、以下の7月中旬作成のコラム(国際開発ジャーナル9月号、中野有の世界を観る眼)を引用する。

 米国の大統領選が数カ月先に迫ってきた。マスコミの論調は、現状分析が多いがシンクタンクでは、数カ月先の結果を予測するのみならず、その根拠を明らかにしなければならない。

 ブルッキングス研究所やジョージワシントン大学の研究所では国際協調を支持する性格上、民主党寄りの主観が強いが、キャピタルヒルのケリー事務所やエド ワーズ事務所等を訪れ、外交政策担当者から話を聞きながら大統領選の行方を考えてみた。ケリー氏が有利な根拠として以下の5つが考えられる。

 1.外交・安全保障・イラク戦が焦点 イラク戦の大義であった大量破壊兵器が見つけられないことにより、ブッシュ大統領の一国主義や先制攻撃が及ぼした批判が蔓延していると同時に、イラク戦は回避できたとの見方が広がりを見せている。

 2.4年前との比較 クリントン政権と比較し、ブッシュ政権の経済、社会、外交分野の評価が低い。経済や雇用の回復は、この1年間は上昇しているが4年前と較べ改善されたとは言えない。戦時中における大幅な減税は双子の赤字を膨張させたのみならず富裕層優遇の政策が批判対象になっている。

 3.第3の波 ワシントンで大規模な女性を中心とする中絶と反戦のラリーが行なわれ、予測をはるかに上回る100万人規模の人が集まった。この層の多くは、4年前の選挙の関わりが少なかった第3の波であることから浮動票が民主党に動くと予測される。

 4.華氏9.11の影響 戦時中におけるマスコミの論調は、保守が蔓延する。そのため か、戦争批判とリベラル色の強いマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画である華氏9.11は、公開前のマスコミは否定的な論調が主流であった。しか し、封切りと同時に記録的な大ヒットなり、ブッシュ批判の社会現象が大衆のパワーとして拡大している。

 5.ケネディー大統領の再来 ケリー、エドワーズ両氏ともケネディー大統領を尊敬して いる。ケリー氏は、ケネディー大統領と親交があり、共に戦争で負傷し勲章を受けている。チェイニー副大統領は、政治のプロとして評価は高いが、現在の米国 の空気は、政治のプロより新鮮なカリスマ的な政治家を求めているようである。その点、政治経験は浅いがカリスマ的な雰囲気を醸し出すエドワーズ効果は絶大 である。

 余談を述べると、ジョージタウンでケリー婦人と偶然会った時、「日本から応援しています」と述べたところ、日本語で短い返事が返ってきた。ケリー婦人 は、モザンビーク生まれで、南アフリカでも生活し、国連の通訳の経験もあり5カ国語を話される。ケリー婦人の夫であった共和党のハインズ上院議員が飛行機 事故で死亡したので、ケチャップで有名なハインズの約700億円の遺産をケリー婦人は相続した。ケリー氏と婦人の出会いは、リオで開催された国連の環境サ ミットであり、環境に縁があると考えられる。京都議定書に反対するブッシュ大統領との対立も興味深い。またケリー婦人の共和党人脈とケリー氏のユダヤ人脈 の影響力は大きい。

 平和主義の弱点

 米国の民主党のイメージは、国際協調主義、理想主義、平和主義、楽観主義である。しかし、民主党の大統領の時代に大規模な戦争が発生している。例えば、 第一次世界大戦は、ウィルソン大統領、第二次世界大戦は、ルーズベルト大統領、朝鮮戦争は、トルーマン大統領、ベトナム戦争は、ジョンソン大統領の民主党 の時代に起こった。共和党のニクソン大統領の時代にベトナム戦争は終わり、冷戦が終焉したのは、同じく共和党のレーガン大統領の時代であった。偶然にも平 和主義に軸足を置く民主党の時代に戦争が発生したとの事実から考察すると、必ずしも平和主義が平和を構築するとは限らない。

 戦争の後には、平和が到来する。平和の構築において民主党は、国際協調主義を貫いている。ウィルソン大統領は、国際連盟を、ルーズベルト大統領とトルー マン大統領は国際連合を構築した。国際連盟の欠陥は、軍事制裁を含む集団的安全保障が確立されなかったことや、米国が加盟しなかったこと並びにドイツ、ロ シア、日本の主要国が脱退したことにある。また、国際連合の弱点は、東西の冷戦の影響で集団的安全保障が曖昧であると同時に、国連軍としての軍事制裁が機 能しないことにある。

 米国の先制攻撃によるイラク戦争が起こる直前の国連安全保障理事会では、米国が主張する集団的安全保障とフランスが主張する安全保障には大きな隔たりがあった。歴史の教訓から紛争を予防し平和を維持し、構築するためには世界の警察官が必要である。

 ケリー大統領候補の外交・安全保障政策

 ケリー氏は、国際協調主義による国連の強化を唱えている。換言すると、冷戦の勝利の驕りによる米国一国主義による世界の警察官としての役割を軽減し、国 連による世界の警察官の必要性を主張している。イラク戦におけるブッシュ大統領とケリー氏の戦争関与政策の違いは、国連外交の信頼度にある。両者ともイラ ク戦争の必要性を説いた。ブッシュ大統領は、1カ月待てばフランスが戦争に関与する状況があったにもかかわらず、先制攻撃をしかけた。ケリー氏は、ブッ シュ大統領の近視眼的一国主義による戦争関与政策の危険性を主張した。即ち、ケリー氏の外交・安全保障政策では、フランスやロシアの協力により戦争を行な うか、国連によるイラクの大量破壊兵器の査察に重点をおき戦争を回避するかであった。ケリー氏の外交政策は、ハト派的平和主義でなく、外交と軍事のバラン スのとれた国際協調型現実主義でもある。

 ケリー外交と日本の安全保障

 一般的に、日本の脅威には、北朝鮮等の仮想敵国によるミサイル攻撃、国際テロの勃発、大地震等の自然災害である。この中で発生する確率の高いのは、国際テロ、自然災害、敵国によるに本土攻撃の順番であろう。

 ケリー氏の外交・安全保障に影響を与えているのがブルッキングス研究所である。ブルッキングス研究所のオハロン研究員は、米国が世界の警察官として貢献 するのには限界があると指摘すると共に、世界の紛争地域に敏速に派遣するために20万人の国連軍が必要であると唱えている。

 東西の冷戦終焉時の米軍の海外派兵は60万人であったが、それが20万人まで減少している。

 現在、東アジアの10万人の米軍の再編が計画され、韓国の3万7千人の米軍の3割の削減が発表されている。これは推測であるが、ケリー氏が大統領になれ ば、米軍が影響力を有する国連軍の創設が考えられる。オハロン研究員が指摘するような国連軍による世界の警察官としての役割が注目されるのではないだろう か。

 米国には国土安全保障省がある。日本の防衛にも国土安全保障省に類似するものが必要である。国際テロ、自然災害、ならず者国家、これら三つの脅威から守 るための安全保障政策を国際協調の視点で考慮することが肝要である。日本の外交・安全保障の基軸は、日米同盟、国連外交、アジア重視、開発協力にあり、こ れらが生かされるためにはケリー氏の国連を中心とした国際協調主義に日本の安全保障との連携と新たなるビジョンが必要となる。

 例えば、ケリー氏が国連中心の安全保障体制を描いていることから沖縄に国連軍が駐留し、地域紛争の予防、自然災害の復旧を目的とした活動を行なう可能性 もあると考えられる。東京で大地震が発生したときに沖縄の国連軍が復旧活動を行なったり、国連軍に所属する日本人がアフリカや中東の紛争予防の活動に従事 するという国際協調の可能性も生み出されよう。そのような活動が、米国の一国主義の是正と日本の安全保障、ひいては地球規模の紛争予防につながると考えら れる。イラク戦の泥沼化は、米国の大統領選の台風の目となるのみならず、国連の安全保障政策に大きな影響を与えると考えられる。

 中野さんにメールは mailto:tomokontomoko@msn.com
2003年10月06日(月)ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口 坦

 2003年9月11日、暇なときによくするように、私はインターネットで色々な国の新聞記事を走り読みした。たいていはタイトルと最初の一節を読むというより眺めて次の記事に移る。そのうちに偶然次の文章が眼にとまる。

「730日もたった今、なぜ私たちはあの日に起こったことについてろくろく知らないのだろうか」

 こう書いたのは米フィラデルフィア・デーリー・ニューズのウィリアム・バンチ記者で、あの日とはハイジャックされた旅客機がニューヨークの世界貿易セン ターとワシントンの国防省に突っ込んだ2年前の9月11日のことである。彼と同じように感じている人々は米国で少数派であるかもしれない。でも、大西洋を 隔てた欧州では事情が異なる。

 ●裏に何かがある

 今年の夏、ドイツを代表する週刊新聞「ツァイト」に世論調査の結果が発表された。それによると「テレビや新聞が9・11について本当に真実を報道してい たと思うか」という質問に対しては、そう思わない人がドイツ国民全体では68%、30歳以下になると78%も占める。また「9・11テロは米政府がやらせ た」とまで思っている人は19%、5人に1人を占め、また30歳以下ではこの割り合いが31%に増え、ほぼ3人に1人になるという。ということは、ドイツ 国民の大部分は「ビン・ラディンに操られた19人のアラブ人が9・11テロを引き起こし、米国政治指導者が不意打ちをくらって仰天した」という国際社会の 通説をそのまま受け取らず、裏に何かがあると思っていることになる。

 米政府がここまでドイツ国民の信用を失ったのは、イラク戦争があって事実を曲げることを厭わない米政治家を目の当たりに見たからである。その結果、9・ 11テロ直後、米国のいうことを鵜呑みにしていた人々も不信感を抱くようになった。この米国観は、西ドイツ国民が親米的であった冷戦時代と比べて今昔の感 がある。

 ●「パールハーバー」との類似

 この傾向はヨーロッパの中でドイツに限らない。例えばドーバー海峡のむこうでも、2003年6月まで6年間も環境相をつとめたマイケル・ミーチャ‐が「ガーディアン」に「対テロ戦争は偽レッテル」というコメントを寄稿している。

 この英政治家は、イラク戦争について論議が起こったのに「対テロ戦争」の端緒になった9・11テロに十分な関心が向けられなかったことを残念がる。彼 は、米国が「ネオコン・一極支配」の実現のために同時多発テロを利用しただけでなく、(更に一歩踏み込んで、)米国がテロ事件発生を前もって知りながら拱 手傍観したとまで主張する。例えば、米国が事件前に11カ国の諜報部からテロの警告を受けていたこと、テロ容疑者を泳がせていたこと、またハイジャック発 生後(通常あるべき)戦闘機の緊急発進もろくろくなかったことに触れ、

「この無為無策は、責任者が状況を正確に洞察できなかったりうっかりしたりした結果であったのだろうか。それとも、9月11日に意図的に防空を放棄したためであろうか。もしそうなら、なぜそうなり、誰の命令でそうなったのだろうか。」

と疑問を投げかけて、「パールバーバー」のときのルーズベルト大統領との類似を指摘する。日本で「真珠湾攻撃」と呼ばれるこの事件で、国内世論を参戦に仕 向けるために、米指導者は暗号の解読ができて攻撃を予知しながら2467人の自国兵士を死なせてしまった。ミーチャ‐英前環境相のこの発言に対して、駐ロ ンドン米大使館のスポークスマンが憤慨して抗議したのはいうまでもない。

 ●「陰謀論」という烙印

 9・11テロについて通説を疑問視することは欧米社会では「陰謀論」とされている。陰謀論は欧米社会でフリーメーソンから「シオンの議定書」まで、社会内の少数派の差別や迫害をひきおこした悪しき伝統と結びつく。

 前世紀1980年代から、アウシュビッツのユダヤ人虐殺・ホロコーストは欧米人の意識の中にどっかりと腰をおろし、「ホロコースト史観」というべきもの ができあがってしまった。ジャーナリスト同志では「論敵に対して最初にアウシュビッツを持ち出したほうが勝つ」といわれる。これは、相手に「反ユダヤ主義 者」のレッテルをはり胡散臭い存在にみせることで社会的孤立に追い込み黙らせることができるからである。このあたりの事情は日本から見えにくいかもしれな い。

 アラブ世界に友好的なドイツの政治家が昨年パレスチナ問題でイスラエルのシャロン首相を非難しているうちに「反ユダヤ主義者」のレッテルをはられてしま う。この結果、コール政権下副総理をつとめたこの政治家は今年に入って党から追放されて自殺してしまった。イスラエル批判をするためにメディアにとって安 全な道はユダヤ系の知識人に書かせるしかないのも、このためである。欧米は、パレスチナ問題である程度まで公平な立場をとり、そこから出発して政治的な解 決をもたらすことができない。この残念なこともこの事情と無関係ではない。

 ブッシュ大統領は2001年11月に国連で演説した。その中の次の箇所もこの背景を考慮して理解されるべきである。

「・・・我々はテロについて真実を語らなければいけない。我々は9・11テロに関して放埓(ほうらつ)な陰謀論をぜったい許してはいけない。それは真の罪人、テロリストの責任をごまかすための悪辣な嘘だからである」

 米国の事件説明が「我々が語らなければいけない真実」、国際社会の通説に昇格したのは、世界中の多くの人々が超大国の剣幕の押されたり、事件の凄まじさ に仰天したためだけではない。「陰謀論」と呼ぶことによって反ユダヤ主義と重ねて、論敵を黙らせることができるメカニズムがここで決定的に重要である。こ の結果、通説に疑問を投げかける厄介な人々は、「テロリストの責任をごまかすための悪辣な嘘」をいいふらす「陰謀論者」として扱われる。これが、ミー チャー前環境相も嘆いたが、9・11について議論を起こさせない口封じの仕組みである。

 9・11の数日後、「世界貿易センターで働いている4000人のユダヤ人は前もって警告を受けていて当日出勤しなかった」といううわさが生まれて、また たくまに世界中に広がり、イスラエルを憎悪するアラブ世界の通説になった。誰が最初にいいはじめたかは別にして、このうわさで見え透いた反ユダヤ主義的陰 謀論を9・11テロにリンクさせることになり、欧米社会の内部では口封じの仕組みの機能強化を結果としてもたらした。私にはそう思われてしかたがない。
 
 火事があったら消防車が出動するように、どこの国でもハイジャックをはじめ、空で不可解な事件があればスクランブルのために戦闘機が出撃するのは当たり 前のことである。ミーチャ-前環境相も指摘しているが、2000年9月から翌年の6月まで間に米国でこの目的のために67回も戦闘機が出撃した。それな ら、なぜ2001年9月11日にそれがろくろく起こらなかったのか。この疑問は陰謀論とも反ユダヤ主義とも関係ないはずである。

 ●赤いハチマキと「陰謀論の罠」

 町の中で誰かの家が燃えているのに消防車が車庫から出動しなけれ問題である。普通なら問題にされる国なのにそうならないのは、米国がその後「対テロ戦 争」に突入し臨戦状態になってしまったからである。その結果、「今そんなことを話す時ではない」という雰囲気になった。このような事情は、「9・11調査 委員会」を制限しようとするチェイニー米副大統領の次のような発言から読み取れる。

「・・・副大統領は、9月11日に起こったことの調査が『対テロ戦争』からその遂行能力と人力を奪うことを憂慮した・・・」

 次に戦争になったのは、9・11を「21世紀のパールハーバー」と当時米大統領が呼び、米国民にもそう思うようになったからである。

 私は、今年の9月11日前後、ドイツのテレビで「9・11、UA93便物語」というドキュメンタリー風劇映画を見た。これは当時ハイジャックされてペン シルベニアで墜落した飛行機の中で抵抗する乗客を描く。映画には乗客が携帯電話でした証言をもとにして製作されたという宣伝文句がついている。

 映画を見ながら奇異な感じがした。というのは、ハイジャックをしたアラブ人は赤いハチマキをしている。この扮装が私に9・11の前に封切りされた米国映 画「パールハーバー」に出てくるゼロ戦の操縦士を思い出させたからである。興味を覚えてインターネットで調べると、飛行機の乗客ジェルミー・グリックさん にはハイジャッカーが本当にそう見えたことが確認できる。でもアラブ人テロリストは本当に赤い鉢巻をしていたのだろうか。文化的違和感を覚える人は少なく ない。

 このような瞬間である、自分も「陰謀論者」になりそうになると私が思うのは。というのは、9・11直後、携帯で家族に別れを告げた乗客の話が世界中のメ ディアに報道されて、私たちの涙を誘った。(当時報道されたものは直接というより第三者、例えばFBIの担当者の話から記事にしたものが多いといわれ る。)
 
 これに関して、昔シュミット政権の80年代に科学相だったアンドレアス・フォン・ビュローは「CIAと9・11」という本の中で高い空を時速800キロ で飛ぶ旅客機から携帯電話を使用できたことを疑い、「700メートルの高さからでは市販の携帯電話のほとんどが、また2000メートル以上になると完全に 使用不可能になる」という実験結果を指摘している。

 でもここまで来ると、技術に弱い文科系出身の私は判断に困ってしまう。冷戦時代に肥大化した諜報活動が議会のコントロールされていない点に大きな危険が あると指摘するビュローさんに私は賛成する。でも本当にCIAは何もかも完璧に組織し実行できるのであろうか。これはCIAを過大評価し「全知全能の神」 に似た存在に昇格させてしまうことである。でもこの組織も官僚的で硬直してとんまな失敗をすることだってあるのではないのだろうか。今夏、日本から来た ヘーゲル哲学の研究者の友人が陰謀論に熱中する私に警告して、「歴史からすべての偶然を放逐し万象の背後に『神の反対存在』の作為を見ることが陰謀論の罠 である」といったのこのことである。わからないことはわからないとか、不思議だとか思っているいるのが精神衛生上よいことになるのかもしれない。

 ●陰謀論的世論操作

 イラク戦争では米国と欧州が対立したが、これは大西洋をはさむ両大陸では大きな認識ギャップがあったからである。同じ現実が異なって見えていることに欧 州の住人が気づいたのはブッシュ大統領が「悪の枢軸」といいだした頃からである。というのは、これも陰謀論で、皮肉なことに(政治家を含めて)多くのヨー ロッパ人には薄気味悪くなってきたからである。 

 最近、米国民の69%がサダム・フセインも9・11テロにかかわったと思っているという世論調査の結果が発表された。これも見新しいことでなく、米国民 は、ハイジャックをしたアラブ人がフセインから派遣されたとずっと思っていて、だからイラク攻撃を賛成した。このように考えることは、アラブ社会主義の バース党とイスラム過激主義とが頭の中でむすびつかないヨーロッパ人には理解できない。このような奇妙な考え方を米国人の多くがもつのは、米政府が欧米社 会全体での「口封じ」のためだけでなく、自国内の世論操作に「陰謀論」を利用していることなる。

 少し前、ブッシュ大統領が記者にむかって「フセインが9・11をやらせたという証拠は米政府にない」と認めた。国民の69%が反対のことを信じ、米政府 関係者もそのように仕向けたのに、このブッシュ発言は米国で大ニュースになると思うのが普通ではないのか。ところが現実はそうならないで、主要新聞では誰 も読まないような後ろのページに追いやられてしまったといわれる。

 こうなってしまうのは、すでに述べた米国内の愛国的臨戦状態ムードと関係がある。(この状況は、大統領選が本格化すると変化するといわれる。)でも ニュースのこの扱い方はメディアに関係する者には理解できないことではない。この業界では日々起こる事件が商品で、それを早くお届けすることが重要であ る。事件とは起こったことであり、その意味づけは二次的である。またそこではたらく者も忙しく事件の意味を考えたり判断したりする習慣を失う危険がある。

 よく指摘されることであるが、この点で古いニュース記事がいつまでも読めるインターネットに重要な是正機能が期待される。この事情をしめすために、いつもの私の習慣に反して今回は索引をもうけた。

□引用・参考

■フィラデルフィア・デーリー・ニューズの記事
 http://www.philly.com/mld/dailynews/6742902.htm
■「ツァイト」世論調査 
 http://www.zeit.de/2003/31/Umfrage
■「ガーディアン」のマイケル・ミーチャ‐の寄稿   
 http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1036571
 00.html
■駐ロンドン米大使館のスポークスマンの反応
 http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1036591,0
 0.html
■欧米人のホロコースト史観について
http://www.yorozubp.com/0104/010419.htm
■ブッシュ大統領は2001年11月国連で演説
 http://www.cafe.tg/ustogo/wwwhlmesppb.html
■ユダヤ人が出勤しなかったうわさがどのように生まれたか
http://slate.msn.com/id/116813/
■9・11に戦闘機が出撃しなかったことについては日本で田中宇氏が書いておられた。
http://www.tanakanews.com/c0128wtc.htm
 その他の疑問点といっしょに本として出版され  
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/
wshosea.cgi?W-NIPS=9975664512

■チェイニー米副大統領の発言
http://www.cnn.com/2002/ALLPOLITICS/01/29/
inv.terror.probe/index.html

■ジェルミー・グリックさんの電話証言
http://www.freewebz.com/jeffhead/attack/heroes.htm
■アンドレアス・フォン・ビュローの本
http://www.perlentaucher.de/buch/14783.html
■携帯電話の実験
http://feralnews.com/issues/911/dewdney/
project_achilles_report_2_030225.htm

■「世界とアメリカで広がる情報ギャップ」については萬晩報の
 http://www.yorozubp.com/0304/030406.htm
■この陰謀論が「陰謀論」をよびおこすことについては筆者コラム
 http://www.asahi.com/column/aic/Tue/d_tan/20020507.html
■世論調査の結果
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn?pagename=
article&node=&contentId=A32862-2003Sep5&notFound=true

 それに対する論評 
 http://www.gopusa.com/news/2003/september/
0908_hussein_911.shtml


■ブッシュ大統領の告白
http://www.boston.com/news/world/articles/2003/09/18/
bush_puts_distance_on_a_hussein_link_to_911

■告白が大きなニュースにならなかったことについて米人ジャーナリストの論評
http://editorandpublisher.printthis.clickability.com/pt/cpt?action=
cpt&expire=&urlID=7602639&fb=Y&partnerID=60


 美濃口さんにメールは mailto:Tan.Minoguchi@munich.netsurf.de
ジョージワシントン大学客員研究員 中野 有2003年10月05日(火)

 齊藤清さんの「リベリアへの平和部隊派遣のすすめ」と伴主筆の「イラクを理由にアフリカ支援を遅らせてはならない」は、アメリカ追随型から脱却し、日本 の国際貢献を考える意味での奇策であろう。ブッシュ大統領の訪日前に、国民レベルで納得のいくイラク復興支援を考える必要がある。

 十分な議論もされることもなく、納得のいかないかたちで、日本はアメリカの要求に答えイラク戦を支持した。そして、イラク復興支援のための莫大な資金を 提供する。湾岸戦争の時の日本の小切手外交に世界は冷淡であったことを思い出せば、どうせ、一人あたり1-2万円の血税を徴収されるのだったら、日本の意 思による世界のための開発協力を実現させるチャンスと考えられないだろうか。「開発協力は、人類の義務である」と言われるように。

 日本はイラク戦を容認した以上、軍事的関与は不可能であっても復興支援に関しては、避けて通ることはできない。問題は、莫大な金額のみならず、自衛隊や 民間の派遣まで、かなりの危険が伴う覚悟が必要であるということで、一番重要なのは、アメリカや世界が納得する日本のイラク復興支援を日本の国民レベルで 考えることであろう。

 毎週1200億円という信じられない金額が、イラクの治安維持活動や復興支援のために消えている。ゲリラ戦の多発で、この金額もつりあがっていく。アメ リカに忠実な日本は、いつまでもブッシュ政権のスクラップ&ブルド戦略に追随していいはずはない。ブッシュ政権とハリバートンやベクテルという入札なしで イラク復興支援に絡んでいる会社との癒着関係が指摘されている状況の中、ブッシュ政権主導のイラク復興支援構想に当然のことながら疑問をもつ必要があろ う。

 そこで、齊藤、伴コラムで指摘されているように、アメリカの開発援助がおろそかにされている地域への開発を強化することにより、イラク復興支援で日本が 十分な対応ができなくとも、アメリカからも非難もされないし、同時に世界からも評価されるのではないだろうかという視点で考えることにより、日本の開発協 力を主軸とした平和戦略が成り立つのではないだろうか。

 齊藤さんは、西アフリカのギニーの奥地で、何年も生活され、アフリカの事情に精通されている。齊藤さんは、10年以上も紛争が続き、国がどん底の状態に ある西アフリカのリベリアへの援助を強化すべきだと述べておられる。89年末にゲリラとして象牙海岸からリベリアに侵入した後のチャールズ・テーラー大統 領が、先月、ナイジェリアに亡命をした。アメリカやアフリカ諸国の監視の下で、リベリアが復活しようとしていた矢先に、米軍がリベリアから引き上げてし まった。戦闘で米兵が負傷したのでなく、マラリアを患った米兵が続出したという。

 14年前にチャールズ.テーラーがリベリアのバンガという町を占領し、そこを拠点にリベリア全土を制圧した。偶然にもその町を拠点に2年間、国連の開発 援助の仕事に従事し、そこを去って2カ月後に紛争の幕がきられた。一緒に過ごした多くの人々が紛争の犠牲になった。リベリア人の3人に1人が難民になった ということは、イラクより悲惨な状態であったといえるだろう。

 今年の7月にブッシュ大統領は、アフリカを歴訪した。アフリカでも最も紛争の犠牲になり、また、アメリカの黒人のルーツの歴史を持つリベリアに、ブッ シュ大統領は訪れるだろうと思われたがそれが実現されなかった。新聞の風刺によると、リベリアの英語の発音は、ライベリアであり、読書嫌いのブッシュ大統 領は、ライブラリー(図書館)とライベリアを勘違いして、不幸にもリベリアはブッシュ大統領に見捨てられてしまったとあった。

 アフリカは実に魅力的な大陸である。日本から遠く離れたアフリカで4年間生活し、日本の尺度では計り知れない多くのことを教わった。アフリカの大自然も さることながら、現地の人々や子供たちは、実に純粋であった。現地の人々と一緒に生活し、同じ目線で開発問題に取り組むことによって、少しでもリベリアの ために貢献できたし、同時に人生観が変わるほど多くのことを吸収することができた。無邪気で純粋なアフリカの子供たちに接し、教育の重要性をひしひしと感 じた。日本人は、教育という分野で無限にアフリカに貢献できることがあると。日本や国連が推進する「人間の安全保障」の原点は、教育にあり、先進国も途上 国も互恵の精神で共に学び、世界の安定と発展に寄与することにあると思われる。

 先進国と途上国との経済格差が拡大している。地域間の経済格差のひらきや貧困の拡大は、不安定要因を誘引する。リベリアの開発援助の仕事で学んだこと は、もの作りの基本を共に学ぶということであった。教育分野の協力には、先進国の尺度ではたいした援助資金も必要ない。現地に入り、一緒に生活し、開発援 助の仕事に従事することにより、紛争の芽を未然に防ぐことも可能となろう。イラクの復興支援には、莫大な資金がかかるが、アフリカの紛争を未然に防ぐ予防 外交やアフリカの水準に適合した復興支援は、少ないお金で比較的安全な環境の中で、貧困撲滅に寄与でき、ひいては世界平和につながっていく。

 日本の外交戦略は、日米同盟、国連外交による国際協調主義、アジア中心であるが、地球全体を包括したグローバルな視点で安全保障と開発協力を組み合わせ ることにより日本の外交戦略や開発構想に磨きがかかると考えられる。今、イラク復興に莫大な資金を投下するのでなく、地球全体の開発構想を練ることが重要 であろう。また、国際フリーターの経験から若者に、アフリカで現地に溶け込み生活し、開発援助の仕事に従事する魅力を伝えたい。
2003年10月01日(水)萬晩報主宰 伴 武澄

 東京でアフリカ23カ国の首脳が集まったアフリカ開発会議(TICAD3)が開かれた。ガーナのクフォー大統領は30日、国際的な支援がイラクに集中し ている現状を批判し「イラク支援を理由にアフリカ地域などへの支援を遅らせてはならない」と語った。

 それはそうだ。小泉純一郎首相が29日表明したアフリカ支援策は「5年間で10億ドルの無償資金供与」だった。それに対して対イラク支援要請で予想されている金額は100億-200億ドルなのだから。単年度で比べれば50倍から100倍多い。

 イラクは世界有数の産油国である。国民がすべて豊かだとはいえないものの、飢えという言葉とは無縁だ。それに対してアフリカはそれこそ「多くの国が嘆き の10年」を体験した。日本は90年代の経済的停滞を「失われた10年」を悔やんだが、アフリカは悔やみどころではない。

 アメリカを中心とした世界的な経済躍進に光が当てられていた時間に内戦と貧困がスパイラル状に拡大し、加えてエイズが蔓延した。暴力と飢餓がさらに日常化した10年間だった。

 7月8日に国連が発表した国連の「人間開発報告書」などによると、「世界的に持っているものと持たざるものの差がさらに拡大し、90年代前半のアメリカ 経済の繁栄の裏で、50カ国以上で生活水準が下落している。時計の針が戻っているかのように、世界中に貧困が広がり、特にサブ・サハラ・アフリカ (サハラ以南アフリカ)での惨状は目に余るものがある」(ガーディアン紙)というのだ。

 さらに報告は続く。 http://www.undp.org/hdr2003/
  1. 世界的には、1日1ドルで生活をおくる人は1990年代、30%から23%に下落したが、それは 中国とインドにおいて状況が改善したためである。アフリカではガーナやセネガルといった成功を収めた 国もあるが、ほとんどの国で悪化をたどっている。
  2. 世界の人口の上位1%(約6000万人)の金持ちが、 下位57%の貧乏人と同じ所得を得ており、 もっとも金持ちな2500万人のアメリカ人の所得が、 世界の下位約20億人の所得と等しいのである。 1820年、ヨーロッパの一人当たり所得は、アフリカの3倍だったが、90年代に入ると13倍になっている。
  3. ノ ルウェーでは、平均余命は78・7歳、識字率は100%、年間所得は3万ドル弱であるが、反対の極にあるシエラ・レオネでは35歳の誕生日を迎えられたら 非常に幸運であり、3分の2は文字を読めないまま成長し、年間所得は470ドルである。このような平均余命、識字率、年間所得といった生存の基礎的要素が 下落した国は、80年代は4カ国にすぎなかったが、90年代には21カ国にも拡大している。

 最近、10年ぶりにガーナを訪れたJICA幹部は「10年時間が止まっている。それでもアフリカでは優等生なのだ」と印象を語った。ガーナなどいくつかの国を除いては「人々の生活の状況は停滞どころか後退している」というのだ。

 80年代までのアフリカは東西冷戦の陣取り合戦の地でもあり、軍事的対峙はあったもののアメリカやソ連の支援をそれなりに受けてきたが、ソ連の崩壊に よって「見捨てられた大陸」と化した。また世界貿易機関(WTO)成立で関税が大幅に低下し、アフリカの農業はアメリカの農産物に完全に敗れ去った。加え てダイヤモンドや金といった鉱物資源の争奪に端を発した地域紛争が激化した。生活の地を失った難民が多く発生、追い打ちをかけるようにエイズが生命を蝕ん でいる。

 日本のODA(政府開発援助)は汚職や多大な無駄を途上国に残したと批判された。確かにそうした側面があるものの、80年代からのアジア経済の成長の軌 跡を振り返るとアジアの多くの国の経済的、社会的基盤整備に多大な貢献をしてきたのだと評価せざるを得ない。

 そう考えるといま、日本がなすべきことはODAの軸足をアフリカに移すということであろう。アジアの多くの国々はすでに自ら支える経済を確立した。世界 の民間資金も十分すぎるほどアジアを意識している。比べてアフリカはどうだ。道路や港湾どころか水資源にさえ不足を来している。電力も通信施設も未整備の ままだ。

 毎年100億ドル内外のODAを供与する日本の能力をアフリカに傾注したらどうだろうか。過去の植民地支配や戦争とは無縁の日本の出番ではなかろうか。 齊藤さんが「リベリアへの平和維持部隊派遣のすすめ」を書いてくれた。日本の存在感はイラクで示すより、アフリカで示す方がよっぽど世界のためになる。そ んな時が来たようだ。

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