2003年6月アーカイブ

2003年06月30日(月)萬晩報主宰 伴 武澄

 萬晩報の常任ライターの一人、ブルッキンズ研究所の中野有さんの著書『国際フリーター世界を翔る』(太陽企画出版)がきょう発売となった。今年1月、日 本経済経論社から出版された『北東アジアのグランドデザイン』のまとめ役は中野さんだったから、実質的に2冊目の著書といっていい。

 萬晩報に縁のある著書の第一号は『マレーシア凛凛』(伴美喜子、2002年5月)。中野さんの本は第二号となった。常任ライターのもう一人のSさんから 「大手出版社から秋にも出版します。鋭意、執筆中です」と報告もある。萬晩報界隈で出版ラッシュが起きていることは嬉しいことである。

 『北東アジアのグランドデザイン-発展と共生へのシナリオ』は中野さんが、10年間暖めてきた構想を総合研究開発機構(NIRA、塩谷隆英理事長)に持 ち込んで実現したプロジェクトである。単なる北東アジア開発構想ではない。9・11以降のブッシュ大統領による「悪の枢軸」(Axes of Evil)に対抗、「平和の枢軸」(Axes of Peace)を旗頭にした極東の安全保障への提言でもある。

 国際政治に軍事力のプレゼンスを再び持ち出したブッシュ大統領に対して、国際社会が手をこまねいているこの時期に、本来ならば、英語で出版されるべき日 本からの提言であった。小生はそう信じている。イラク戦争や緊張を増す朝鮮半島情勢に無批判に加担したり、声高に反戦を叫ぶだけでは平和はもたらされな い。

 軍事力によるアメリカの国際平和維持政策に対して、説得力のある、しかも具体的なオルターナティブがなければ、アメリカの独走を許すことになる。中野さ んがワシントンを中心に昨年から注目されているのはこの『北東アジアのグランドデザイン』という構想がバックボーンにあるからでもあろう。

 『国際フリーター世界を翔る』は日本という狭いキャンパスを抜け出し、5大陸をまたにかけて、学び、働き、そして再び学ぶ、という繰り返しの中から人的 ネットワークを作り上げてきた中野さんの半生をつづった作品である。ゲラ刷りを読んで、そのむかし、日本の若者を熱狂させた一冊の本を思い出した。小田実 氏の『何でも見てやろう』(1961年、河出書房新社)である。まだ外国に行こうにも外貨がなかった時代にリュックひとつで世界を渡り歩いた体験記だっ た。1960年代には多くの日本青年が日本を飛び立ち、小田実氏の後を追った。

 筆者はこの本が売れていたころ、南アフリカのプレトリアにいた。1966年、高校一年生にして、ローデシア、ザンビア、ウガンダ、ケニヤ、エチオピア、 エジプトと東アフリカを南から縦断し、イラク、イラン、インドとアジアを東に旅行して帰国するという経験をした。小田実氏のこの本は帰国してから読んだ。 思想的には相容れない部分も相当あったが、世界を駆け巡った小田実氏を羨み、「俺も続くぞ」と希望を膨らませた。

 国際フリーターとしての中野さんの起点は鉄工メーカーに入社してすぐ訪れたバグダッド駐在での経験である。会社生活に飽き足らず、数年でこのメーカーを 辞めて、オーストラリアに語学留学、南アフリカのケープタウン大学大学院に学んだ。地球の反対側を選んだ理由は「日本人がいないところ」ということであっ た。「アパルトヘイト(人種隔離政策)に挑み、民間外交に努めた」のだそうだ。筆者と中野さんが出会う運命の接点はその時すでにあったのだ。

 その後、リベリアに移り「ターザンのような生活をしながら開発援助に携わり」、オーストリアのウィーンでは「芸術の街を肌身で楽しみながら国連工業開発 機関(UNIDO)でアジア太平洋開発の仕事」をした。その中に北朝鮮も含まれていた。ハワイのシンクタンク、東西センターでは北東アジア経済の世界的権 威である趙利済氏と出会う幸運に恵まれ、新潟の環日本会経済研究所、とっとり総研などを経て、いまやワシントンに在る。

 中野さんの半生の軌跡の特徴は、生まれも大学もそうだが、ワシントン、ロンドン、東京といった世界政治の中心にないということである。外周から世界の政 治や経済を眺めてきた。逆にそのことが強みとなっている。ワシントンやロンドン、東京にいる政治家や研究者たちのほとんど知り得ない世界を経験してきたが ゆえに、そうした人々とのディベートで優位に立てるという逆説が成り立っているのである。

 中野さんの文章はひどく直裁的である。起承転結の「承」や「転」が抜けていたりする。分かりやすいのだが、学会では「乱暴だ」との批判を受けることが少 なくない。あるいはほとんど無視されるケースが多いに違いない。そのくせ日本の学会では起承転結の「結」がない論文があまりにも多い。断定的にものを言う のは研究者の沽券に関わるとでも思っているのだろうか。日本の学者の書いた論文が面白くないのは多分、「説明」や「分析」が多くて、最後まで読んでも結局 何がいいたいのか分からないということではないかと思う。

 日本では景気の長期低迷で学生の就職さえ難しいといわれる時代に入っている。だが世界に目を転じれば、いくらでも働く場所はある。勇気を持って国境を越 えよ。国境を越えれば世界に貢献する道はそこらに転がっている。中野さんが日本の若者にいいたいことがこの本にはたくさん詰まっている。

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 中野有著『国際フリーター世界を翔る』(太陽企画出版)は30日きょう発売
http://www.taiyoo.com/book/freeter.html

 【取り扱い書店】紀伊国屋書店丸善、学生生協、三省堂
           八重洲ブックセンター
アマゾンなど

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 中野有氏の『国際フリーター世界を翔る』出版記念会開催のお知らせ
 日時:7月28日(月)午後6時半から(受付は6時から)
 場所:アルカディア市ヶ谷私学会館 http://www.arcadia-jp.org/
 (千代田区九段北4-2-25、JR中央線市ヶ谷駅から徒歩2分、03-3261-9921)
 会費:8000円
 定員:100人(先着順)
 共催:萬晩報、財団法人国際平和協会(責任者:伴 武澄)
    http://www.yorozubp.com/ http://www.jaip.org/
 申込:お名前と所属、メールアドレスを添えて
    先着順に受け付けますのでお早めに!
     mailto:nakano@yorozubp.com まで


2003年06月29日(日)萬晩報通信員 園田義明

 ■最初の犠牲者

 回答期限でもあったのだろうか?

 待ちきれないブッシュ政権は、世界的な英経済紙フィナンシャル・タイムズを使って、日本に対する脅しをかけてきたようだ。6月26日、日本の企業連合 が、長年交渉を進めてきた総額20億ドル(約2400億円)の大型プロジェクトであるイランのアザデガン油田開発計画で、米政府が日本に計画から撤退する よう圧力をかけていると報じた。

 米政府当局者らの話として伝えたもので、記事によれば、ライス大統領補佐官が日本政府高官と接触し、今月中旬にはカンボジアで開かれた東南アジア諸国連 合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の際、パウエル国務長官が川口順子外相と会談し、見直しを持ちかけた。またアーミテージ国務副長官もワシントン の駐米大使に同様のメッセージを届けたようだ。

 同様の記事は、ブッシュ政権のタカ派に近い産経新聞が6月20日付朝刊で報じられているが、米国政府から日本政府に対する「懸念」として扱われている。 また、外務省筋の話として、「米国はこの問題を深刻に受け止めている。日本が米国の懸念表明を押し切って契約に踏み切れば、日米関係にも影響が出るかもし れない」と指摘したと紹介している。やはりすでにこの時点で「懸念」ではなく「圧力」だったようだ。

 フィナンシャル・タイムズによれば、個別取引にまで米国が直接介入するのは初めてと見られている。米国が、核開発やテロ組織アルカイダへの支援が懸念さ れるイランへの圧力を強める中で、最初の犠牲者が、イラク戦を支持した数少ない同盟国日本に向けられたのである。

 ■イランと日本との関係

 イランは、世界第5位の石油埋蔵量と世界第2位の天然ガス埋蔵量を有する資源大国であり、日本は、輸入原油の約12%をイランから購入してきた。またイ ランにとっても日本は最大の原油輸出先でもある。日本は、原油の安定供給及び中東地域の安定確保の観点から、イランとの関係を重視し、特に改革派ハタミ現 政権発足後は、積極的にハタミ大統領の対外融和路線を支援してきた。

 特にイラン南西部にあるアザデガン油田は、イラン最大級の油田であり、確認埋蔵量は約260億バレルとされる。2000年のハタミ大統領訪日時に両国間 で交渉開始に合意し、2001年7月、平沼赳夫経済産業相がテヘランでハタミ統領と会談し、開発の早期契約に向けて努力することで合意した。

 参加する企業連合は、国際石油開発(旧インドネシア石油)、石油資源開発、トーメンの3社で、フィナンシャル・タイムズによれば、この企業連合の関係者 が数日内の契約を結ぶためテヘランで今まさに待機しているようだ。契約近しのニュースは、6月27日付米ブルームバーグでも詳細に報道されている。

 実は、このアザデガン油田には採算を疑問視する声があるのも事実である。地表が石灰岩質で覆われているため、効率的な採掘は困難とする見方や、油質への疑問もある。

 しかし、2000年に失効したアラビア石油のサウジアラビア・カフジ油田をめぐる交渉失敗のばん回を狙う経済産業省、2005年3月に廃止される石油公 団の天下り先確保、再建中のトーメンの生き残り作戦などの思惑が絡む複雑な背景を持つ事業となっている。

 企業連合の国際石油開発(旧インドネシア石油)は、石油公団が50%出資しており、石油資源開発の石油公団の出資比率は66%である。この二社には、すでに多くの石油公団退職者が役員として天下っている。

 そして、残る一社であるトーメンも豊田通商との経営統合を念頭に経営再建中である。しかも、トーメンは、5月30日に約100億円の第三者割当増資の詳 細を発表し、増資引き受けで、豊田通商は出資比率が現在の約11%から19.71%に高まり、新たにトヨタ自動車は10.64%を出資する2位株主とな る。つまり、実質トーメンはトヨタグループ企業となる。

 トヨタ自動車現会長の奥田碩氏は、昨年、日本経営者団体連盟(日経連)と経済団体連合会(経団連)が統合して発足した日本経済団体連合会(日本経団連)の初代会長であり、政府の経済財政諮問会議のメンバーでもある。

 おそらく、政府・財界関係者は、夜を徹して情報収集と関係各国への協力を呼びかけている最中であろう。

 ■イラン・リビア制裁強化法(通称ダマト法)

 イラン・リビア制裁強化法(通称ダマト法)は、イランとリビアの石油・ガス部門に年間2000万ドル(当初は4000万ドル)以上投資する外国企業に制 裁を科す米国の法律であり、1996年8月に成立した。米上下両院は2001年7月、同法を5年間延長する法案を可決し、ブッシュ大統領が8月3日に署名 して成立した。

 このイラン・リビア制裁強化法で動きのとれない米石油メジャーをしり目に、日欧企業がイランに投資攻勢をかけてきた。フランス・ベルギー・ドイツの連合 体である石油メジャー・トタル(旧トタルフィナ・エルフ)は、カスピ海からイランの湾岸に抜けるガス・パイプラインの建設を検討、伊ENIも油田開発に調 印している。中国もイランでの資源開発に意欲的な姿勢を見せており、米メジャーは焦燥感を強めていた。

 イランの核開発への懸念を強めている米政府は6月25日、国際的な圧力を強める一環として、「イラン・リビア制裁強化法」の海外企業に対する適用を強化 する方向で検討を開始した。各国企業をイランとの取引から撤退させることによって、イランへの実質的な制裁を強化、外交攻勢をいっそう活発化させる狙いが ある。

 6月24日付の米紙ワシントン・ポストはABCテレビとの合同世論調査結果を発表したが、イランの核兵器保有阻止のため米軍の軍事行動を支持すると答えた人は56%で、反対は38%にとどまったと報じるなど、不気味な兆候も見え始めている。

 ただし、現時点ではイラク同様の武力行使は考えにくい。対イラク戦を見せしめにチェイニー副大統領、ライス大統領補佐官等が適当に強硬発言を繰り返しな がら、イラン、そして北朝鮮への「封じ込め」政策を強化しつつ、綻び始めたパクス・アメリカーナの再構築を目指すことになるだろう。そのスケープゴートと して日本のアザデガン油田問題が最初のターゲットになったのである。

 従って、圧力をかけたい本命は、フランスを中心とする欧州勢であろう。ここにイラク戦の隠れた米国の意図がある。やがて米国主導の「『古い欧州』封じ込め戦略」の全貌が明らかになるだろう。

 ■燃料電池市場に本格的に動き始めたガリバー

 報道によれば、日本側は米国の圧力に抵抗しているが、イランの核問題をめぐる国際原子力機関(IAEA)での協議で進展が見込まれる9月ごろまで、契約 を先延ばしすることでしのごうとしているようだ。しかし、ブッシュ政権としては、イランそして、北朝鮮問題は2004年の大統領選に向けて、いつでも使え る状態に温存したいカードである。従って、少なくて1年、再選された場合は、5年間の延期も覚悟せねばならない。米国側の真意を確認しつつ、こっそりとイ ラク戦反対組のフランス、ドイツ、ロシア、そしてブッシュ批判の声を上げつつある米国内の国際協調派と連携を取り合うことをお勧めしたい。

 「今日、生まれた子供が最初に運転する車は、汚染のない水素自動車になるだろう。」

 日本では見逃されがちだが、今年1月のブッシュ大統領の一般教書演説の内容である。そして「水素・燃料電池イニシアチブ」という研究開発計画を打ち出し た。今後5年間で12億ドルを投じ、2015年までに水素利用を商業ベースに乗せることを目指している。5月8日には、米エネルギー省が、5年間で1億 5000万ドルを投じて、水素を利用する燃料電池自動車の開発を支援するプログラムを始めると発表した。

 また、6月16日には、エーブラハム米エネルギー長官とEUのビュスカン委員(研究担当)が、ブリュッセルで燃料電池などの関連技術の研究開発を、米国と欧州連合(EU)が協力して進める覚書に調印する。

 燃料電池分野で先行する日本に対して、米欧が追撃姿勢を強化し、技術開発から市場を見据えた各国間の主導権争いへと進みそうだ。今回トヨタグループが狙われたのは、燃料電池を巡る思惑がある。

 トヨタ自動車の直接出資も検討されたが、「イランを『悪の枢軸』の一角とするアメリカを刺激しかねない」との配慮から見送られたトヨタグループ主導のイ ラン国内の天然ガスを利用したGTL(ガス・ツー・リキッド)生産事業が進行中である。GTLは、DME(ジメチルエーテル)と並んで燃料電池用燃料とし て期待されている。

 日本人でありながら、カメレオンのようにだれかれ見境なく米国にすり寄るマザコンに我らの技術が守れるわけがない。今再び彼らは「北朝鮮問題重視のため のイランからの名誉ある撤退」なる不思議なキャッチコピーを登場させるのだろうか。このコピーが許されるとしたら、イランのアザデガン油田に匹敵するイラ クの油田と天然ガス田のおみやげぐらいあってもいい。

 
いつまでも、甘えるな~ マザコン!

 □引用・参考

 共同通信・時事通信・ロイター・日経新聞・讀賣新聞・産経新聞・朝日新聞・毎日新聞他

●US presses Japan over Iran oil deal
http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c
=StoryFT&cid=1054966503951&p=1012571727102


●Iran, Japan Near $2.5 Billion Oil Accord, People Say (Update3)
http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=10000101&sid=aT1i7AhzFJBU&refer=jap
an


●イラン油田開発 米、日本主導に「懸念」 核疑惑絡み、政府に伝達
http://www.sankei.co.jp/news/030620/morning/20pol001.htm

●国際石油開発株式会社(略称:INPEX CORPORATION) 会社概要
http://www.inpex.co.jp/japanese/kaishagaiyouframe.htm

●石油資源開発株式会社 会社概要
JAPAN PETROLEUM EXPLORATION CO.,Ltd.(略称 JAPEX)
http://www.japex.co.jp/infomation/kaisha/k_index1.html

●石油公団出資先会社等における石油公団退職者の役員就任状況の公表について
(平成15年1月1日現在)
http://www.jnoc.go.jp/company/reaoo02.html

●平成14年3月期中間決算説明会資料
イランにおけるトーメンのビジネスについて
http://www.tomen.co.jp/ir/zaimu/14csetsumei/iran.html

●第三者割当による新株式発行に関するお知らせ(トーメン)
(2003年5月30日)
http://www.tomen.co.jp/ir/2003/index530.html

●拙稿「油屋さんの危険なセールス・トーク」
http://www.yorozubp.com/0210/021009.htm
2003年06月26日(木)萬晩報主宰 伴 武澄

 昨年8月、東京都と神奈川県の境を流れる多摩川にアゴヒゲアザラシが現れてからタマちゃんブームが1年も続いている。

 今年2月には東京都で最も水質汚濁が激しいとされた立会川と神田川などにボラの大群が出現、人々を驚かせた。一昔前まで、ボラが遡上するのは当たり前の ことで、ニュースなどにはならなかった。ニュースになるのは「普通」のことではなくなって久しいからである。

 東京周辺の河川にアザラシやボラが生息できるということはいつのまにか、河川がきれいになっている証拠に違いない。その確証はまだつかみ切れていない が、河川の汚濁防止で思い出したのが、1979年の「琵琶湖条例」(滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例)の制定だ。

 記者になって2年目、新人記者として大津に赴任して、全国ニュースは皆無だったからわくわくした。

 日本最大の湖である琵琶湖は関西の水がめといわれ、古くから京都、大阪、神戸の水道水の水源となってきた。1977年5月、その琵琶湖南部の湖面が突 然、真っ赤な帯状の物質に覆われ、生臭いにおいが周辺に漂った。滋賀県はただちにそれを赤潮と断定した。赤潮の帯は日を追って増え、そのぶきみな姿は人々 に衝撃を与えた。

 赤潮は、水中のリンや窒素などの栄養基の濃度が高まり、植物プランクトンが増殖する富栄養化によって起こる現象。それまでは瀬戸内海など内海で多発し、養殖のハマチの大量死を誘引するなどしていたが、住民への直接的影響はなく局地的現象とされていた。

 琵琶湖の赤潮に周辺住民が危機感を持ったのは、水質が比較的きれいとされていた水道の水源で起きた事件だったからである。

 滋賀県の調査で、原因は仮定の雑排水や畜産排水が主な原因とされ、中でも家庭で使われる合成洗剤に含まれるリン酸基への関心が高まった。大津市を中心と した滋賀県南部の住民はただちに合成洗剤の使用をやめて、天然油脂を主原料とした粉石けんの利用をすすめる運動を始め、滋賀県に対しても合成洗剤の使用規 制を強く求めた。

 合成洗剤はいまでも洗濯や食器洗い用として、主婦の毎日の生活にとっては不可欠の存在である。一方の粉石けんは完全に忘れ去られていた存在だった。粉石けんは使用時に水に溶けにくいうえ、汚れも落ちにくい代物で、そもそも店舗でもほとんど販売していなかった。

 それでも「水源の汚染」という緊急時に主婦たちは立ち上がり、粉石けん普及運動に力を入れた。商品が足りない地区では家庭用廃油から粉石けんをつくる教室がいくつも立ち上がり、「自給自足」への努力もなされた。

 そんな住民の努力をにらみながら、滋賀県は当時としては異例のリンを含む合成洗剤追放策を策定していた。県内で合成洗剤の販売を禁止する「琵琶湖条例」 だ。単一の自治体が商品の販売を禁止するような条例は世界のどこにもない。まして相手は花王やライオンといった大手企業である。

 当時の常識では、合成洗剤に含まれるリン酸基こそが洗浄力を高める主成分で、リンを含む合成洗剤の販売を禁止するということは合成洗剤の追放にほかならなかった。「琵琶湖条例」制定の過程はたちどころに全国ニュースとなり、制定の是非をめぐる議論は全国に広がった。

 毎日、琵琶湖の湖面が赤く染まり、生臭いにおいが立ちこめる住民の焦燥感は日ごとに募るが、そうした問題意識はなかなか中央政界には伝わらない。極端に いえば、合成洗剤の使用をめぐって、オールジャパン対滋賀県の対立構造も生まれた。当時の滋賀県武村正義知事の先見性はそうした中央の圧力に屈しなかった ことだろう。武村知事は条例制定を敢行し、滋賀県の住民は水がめ保全のため、あえて溶けにくい粉石けんを使う選択をしたのだった。

 「琵琶湖条例」は前文で「水は大気、土などとともに人間生存の基盤である」とうたい「幾多の困難を克服して、この水と人間の新しい共存関係を確立していかなければならない」と高らかに宣言した。

 技術の進歩はすばらしいもので、この条例の制定と前後して、合成洗剤の助剤に使われていたリン酸塩はゼオライトに置き換えられ、現在では日本の洗濯用の合成洗剤はほぼ100%無リン化が実現した。

 もちろん合成洗剤だけが富栄養化や水質の汚染の原因ではないのだが、利便性を犠牲にした滋賀県の合成洗剤追放運動は、国内だけでなく、全世界の水質保全や環境問題に大きな問題を投げかけたことは確かだろう。

 琵琶湖条例制定から5年後の1984年8月、大津市を会場に「世界湖沼環境会議」が開かれた。「自然と人間の共存のみちを探る」をテーマにしたこの会議 は国連環境計画(UNEP)や経済開発協力機構(OECD)など4つの国際機関をはじめ、28カ国からの71人を含め内外2400人が参加する当時として は最大級の国際会議となった。「琵琶湖宣言」を採択し、水質だけでなく水辺の景観など湖沼の保全が地球にとって不可欠なものであるというアピールを世界に 発信した。

 先進7カ国首脳会議(サミット)で、「環境問題への取り組みが持続的経済成長に不可欠である」という文言がサミット宣言に盛り込まれるようになったのは 「琵琶湖条例」から10年、「琵琶湖宣言」から5年の1989年のことである。環境問題はいまや世界的課題であるが、24年も前にすでに水の問題に正面か ら取り組んでいた滋賀県という自治体を持っていたことを、われわれは少しは誇りにしていいと思う。
2003年06月14日(土)ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口 坦

 最近日本でも出版されたローバート・ケーガン・「ネオコンの論理-アメリカ新保守主義の世界戦略」はヨーロッパで話題になった本である。ケーガンは、 9.11以来すっかり有名になった「ネオコン」(新保守主義)の代表的知識人で、その拠点シンクタンクの一つ「アメリカの新世紀・プロジェクト (PNAC)」の設立者の一人である。
 
 「私たちは、米国人とヨーロッパ人が同一の世界観をもち、同じ世界に住んでいるかのようにふるまうべきではない」という冒頭の文章からわかるように、大 西洋をはさむ両大陸で、「同じ世界」(=西欧)の住人であると思い込んできた人々に対する挑発の本である。

 「ホッブズ的現実」から眼をそむける欧州
 
 著者のケーガンは米国と欧州の相違をどのように説明しているのだろうか。ここで、キーワードとなるのは「ホッブズ的現実」である。これは「万人が万人に 対する戦う」と呼ばれる状態で、17世紀の英国の哲学者ホッブズが「リヴァイアサン」のなかで国家の必要性を説明するためにもち出した考えである。

 人間は欲望と名誉心と自己生存本能をもつ。ほったらかしの自然状態になると、猜疑心とエゴイズムから「万人が万人に対する戦い」になる。誰もが鉄砲や刃 物をふりまわす状態は望ましくない。そのために、この戦う「権利」といういうべきものを誰か(例えば君主)におあずけしたしたほうがよい。このために国家 的秩序が必要になった。簡単にいうと、こんなことで、日本人なら荀子の「性悪説」と太閤さんの「刀狩り」思い出すかもしれない。

 著者のケーガンによると、国際社会を考える上で米国は苛酷な「ホッブズ的現実」を絶えず意識し、政治的秩序の根底にある武力という要因を重視する。米国 が問題の解決にあたり軍事力に訴えるのもそのためで、こうして米国は問題の迅速かつ徹底的な解決をめざす。

 欧州はこれと反対で、国際法や条約順守、国連重視とかを言い出して埒があかない。これは、ヨーロッパが統合をすすめるうちに「ホッブズ的現実」と権力政 治を忘れ、「カント的永遠平和」が支配する世界に暮らしていると錯覚するようになったからだ。この本の英語の原題「楽園と権力」の「楽園」は欧州が苛酷な 現実から眼をそむけることをさしているので、著者はヨーロッパ人がノンキ者の「極楽とんぼ」といいたいのである。

 欧州がイラクを脅威と感じなかったことも、また軍備増強に努力もしないで国民の福祉ばかりにかまけているのも、軍事力弱小の「極楽とんぼ」のメガネで世 の中を見ているからだ。反対に米国は軍事力の向上に努め、「ホッブズ的無政府状態の世界で権力を行使し」、世界秩序を支えている。

 米国がこうして秩序を維持するからこそ、欧州は「カント的永遠平和」を享受できる。それなのに、ヨーロッパは、「極楽とんぼ」らしいことに、それに気が つかない。この状況が続くと、「米国は欧州の批判をまじめにとりあげたり尊重したりしなくなる。米がEUの発言に東南アジア諸国連合(ASEAN)やアン デス共同体と同じ程度の注意しかを払わない日が、まだそうなっていないとすれば、必ずやって来るだろう」と著者のケーガンはすごむ。ネオコンの論理をひと ことでいえば、「力のない奴はつべこべいうな」ということにならないか。

 シュミット元独首相の反応
 
 ヨーロッパでこのような話を聞いてシュンとする人もいないことはないが、でも大多数の人はあきれる。ヘルムート・シュミット元独首相もその一人で、彼 は、「(米外交の伝統である)国際協調主義も、また孤立主義も消えることはないにしても」、このような米国の一極主義が今後米外交を支配すると予想し、欧 州にそれにふさわしい外交政策をとるようにすすめる。また彼は、十八世紀の保守的知識人・エドマンド・バークの次のコトバを挙げて逆に米国を批判する。

 「ある国があまりにも極端に一方的になり、また他国の当然な願望と心配をまったく無視することほど、その当事国にとって不幸な結果をもたらすことはない」

 ちなみに、首相時代のシュミットさんは1970年代末、「鉄のカーテン」の向こう側に配備されたソ連の中距離ミサイルを軍事的脅威とみなし、米国にも中 距離ミサイルの配備を要求した。但しその前に米ソが中距離ミサイルの軍縮交渉をして、それが失敗したときに米国が配備を開始するという条件である。彼はこ の「NATO二重決定」の産みの親であった。

 ということは、当時シュミットさんのほうが、ソ連の軍事力に鈍感な「極楽とんぼ」であった米国に圧力をかけたことになる。その結果、彼は与党の社民党内 部で孤立し、平和主義者から眼の敵にされた。この軍事力を無視しない政治家が「(ネオコンの論理ほど)当事国にとって不幸な結果をもたらすことはない」と 憂慮する。またパックス・アメリカーナに異存のない政治家の多くも、現在の米国に何か不吉なものを感じる。なぜ多くの人々がこう思うのだろうか。
  
 力とか、武力と軍事力とかいったことは、国内でも国際社会でも重要な要因である。この点を肯定しても、この力がどのようにはたらくかというと点で、「ネオコンの論理」の著者は単純な力学的モデルを複雑な国際関係にあてはめようとしていないか。

 また軍事力が経済とか文化といった他の重要な要因とどのように絡み合って、またどのようなプロセスをへて支配・被支配の関係がうまれたり、政治的秩序が 成立するのかといった厄介な問題について、「世界秩序」とか「影響力を行使する」とかいったセンテンスを口にする著者は本当に頭を悩ましたことがあるのだ ろうか。この点に疑問を抱く読者がヨーロッパでは多かったように思われる。
  
 「ホッブズ的現実」をつくる米国

 まず力あるいは軍事力がどのようにはたらくか、どんな条件下で効果を発揮するかという、比較的答えやすい問題について考える。120頁あまりに及ぶ本の 中で、著者がパワーゲームの参加者としてが漠然と想定としているのは国家である。確かに国家対国家の戦争になれば、(著者が自慢する)米国式ハイテク軍事 力が決定的な要因になり、どこの国も米国のお相手など絶対できない。
 
 でも著者は「世界秩序」を論じる以上、地球上のいろいろな地域に眼を配る必要があるのではないのだろうか。ちなみに、昨年アフリカ、南米、アジアに29 の戦争があった。小さな紛争になると18箇所で発生している。その大多数は国家同士の戦争でなく内乱である。米国の核やハイテックの軍事力はこのような内 乱に対して強みを発揮しないのではないのか。

 次に、「極楽とんぼ」扱いにされたヨーロッパ人をはじめ地球上の多くの人々が9.11以来心配するのは「ならず者国家」より国家の体裁をとらない「見え ない敵」・テロリズムとの戦争である。この「見えない敵」に対して、米国の核やハイテクに基づく軍事力またミサイル防衛が効果を発揮するかどうか疑問であ る。

 ところが今までの米国がしたことは国家相手の戦争を展開することであった。その理由は、この国がこのタイプの戦争おいて二十世紀に大成功を納めて一番得 意とするからである。この事情は、昔成功を博した名外科医が何かのショックから判断能力を失い、どんな病人に対しても手術ばかりしたがるのと似ている。米 国がすることは、手術が成功しても患者は死んでしまうようなもので、その成果は相手国家が消滅し、国家に組織されなくなった無数の人々が残されることで あった。彼らの多くは米国に感謝するより反感を抱いているとされる。これは、多数の人が心配するように、潜在的テロリストをうみだすことにならないか。

 テロリズムの「見えない敵」は万人が散在的な敵になることで、これは、ホッブズの「万人が万人に対する戦う」状態に一歩近づくことになる。こうして 「ホッブズ的現実」がうまれることは、米国が「ホッブズ的無政府状態の世界で権力を行使して」は秩序をつくると思い込んでいる「ネオコンの論理」の著者に とってはなはだ皮肉な結果である。

 途中でやめる戦争

 クラウゼヴィッツの「戦争論」のなかにあまりに平凡でろくろく引用されない戦争の定義がある。それは「戦争は、武力を行使して相手を屈服させて抵抗力を 奪い、自分の意志通りに従がわせる」である。私たちは米国がこのような戦争をしている思って、今回のイラク戦争について米国の本当の「意志」についてマジ メに推側し、米国のほうもいろいろもっともらしい発言をした。でも米国の戦争がそんな合理性に基づいたマジメな戦争でなかったらどうなるのであろうか。

 アフガン戦争でも色々な戦争目標が掲げられ、米国の真意が取り沙汰された。例えばパイプライン敷設の経済的野心もその一つである。ところが、「屈服させ て抵抗力を奪い自分の意志通りに従がわせる」つもりの「相手」はいなくなり、具体的目標は到達されなかった。現状はタリバン登場以前の「戦国時代」に戻 り、国際治安支援部隊がカブールをパトロールしているだけで、参加国兵士が頻繁に死ぬだけである。

 イラク戦争でも、米国はイラク民主化の意図を表明し、大量破壊兵器の脅威を訴え、世界中は米に油田確保の戦争動機を推定した。昔ならマジメにこれらの目 標を達成するために、何十万人もの米兵士の長期駐留が必要になると発言した軍事史家が戦争前にいた。米軍全体の兵員総数を考えると、米国にそんな覚悟はな いように思われる。

 米国の戦争は普通の戦争とかなり異なってしまっているのでははないのか。これが私の根本的疑問点である。その変化を見ようとしないで、私たちは昔と同じ ような議論を続ける。私のこの奇妙な疑問を理解してもらうために、クラウゼヴィッツの戦争の定義に戻る。米国は「屈服させて」までのところで止めて、マジ メに「抵抗力を奪い自分の意志通りに従がわせる」ところまで行かない。(だいいち、相手が消えていなくなったらそれも不可能である。)つまり米国の戦争と は途中でやめてしまう戦争ではないのか。
 
 昔は戦争には理由があってしたもので、だからこそ「戦争は別の手段による政治の延長にすぎない」というクラウゼヴィッツの有名なほうの戦争定義があっ た。「屈服させる」だけで、その後政治目標をマジメに追求しない戦争は非政治的な戦争で、どこかで戦争のための戦争なってしまったことにならないか。平和 主義者でもない欧州の政治家までもが、米現政権に不安と苛立ちをおぼえるのもこのような事情からである。

 中断戦争は「戦争ショー」
 
 途中でやめるこの中断戦争は「屈服させる」だけである以上、勝ち負けで終わるスポーツ、見世物に近くなる。まさにこの点にあるのではないのか、世界中で 多くの人々が米国の戦争について奇妙な印象をもつのは。私の知人に米国の政治家が「映画製作者がロケ先をさがすように次の戦争相手を語る」と怒っている人 がいる。この米国の戦争の見世物的性格こそ、今まで多くの人々に指摘された点である。

 多くの先進国で、テレビの画面上の政治が本当の政治の代わりなる傾向がよく指摘される。今回のエビアン・サミットでドイツのテレビの最大関心事はブッ シュ大統領とシュレーダー独首相が握手するかどうかであった。握手という象徴的政治行為は「米・独関係改善の第一歩」というメッセージを伝える特別な現実 となる。この現実は象徴性が高くフィクションであり、同時に事実(ファクト)でもあるので、「ファクション」と呼ばれることがある。メディアの現実、 「ファクション」を重要と思っているうちに、政治そのものが政治家の頭の中で変化しショーに近づく。こうして昔は政治行為であった戦争も中断戦争という 「戦争ショー」になってしまったのではないのか。

 このショーの主演者は米国の政治家と兵士である。共演を強制されるのは「ならず者国家」で、そこの兵士も国民もこのショーを戦争らしくするためのエキストラにすぎない。(彼らが死んだふりをして済ますことができないのが本当に残念である。)

 米国は自国の出演兵士ががあまりに多数死ぬと、本来自国民向けのショーが現実になるので、クラスター爆弾の使用もいとわない。メディアが報道しなくなっ たら、これが「戦争ショー」の終わりで、地面に落ちた爆弾が地雷のようになる現実はショーの中の特別な現実、「ファクション」でない以上、存在しないも同 然である。
 
 資源を確保する一九世紀の「植民地戦争」も、また政治秩序を確立するための二十世紀の「イデオロギー戦争」も、理由がある以上本当の戦争であり、れっき とした政治的行為であった。「ネオコン」とは、このような過去の本当の戦争と関連づけて「戦争ショー」を戦争らしくみせようとしているをしている人々にす ぎないのではないのだろうか。ケーガンの本を読みながら、私にはそう思えてしかたがなかった。

 美濃口さんにメールは mailto:Tan.Minoguchi@munich.netsurf.de
2003年03月11日(水)ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有

 ワシントンの古本市で、ケネディー上院議員が、1960年6月に出版した「平和への戦略」という本を見つけた。その中に、ケネディーの平和戦略12項目 が11ページにわたり記されている。ケネディー暗殺後の本はたくさんあり、また1963年のアメリカン大学におけるケネディーの「平和戦略」のスピーチは 有名であるが、この12項目はあまり知られてないと思う。

 たまたま古書市で見つけたこの1ドルの本は、今まで巡り合った本の中でも1-2の価値有る本となった。ケネディーが43年前に問いかけた平和戦略は現在 でも通用する。平和を達成するための明確なビジョンが、具体的なリーダーシップのもとに描かれている。

 平和を語るためには幻想ではなく現実的に達成されるものでなくてはならない。

 ケネディーの平和戦略の魅力は、世界観から宇宙観まで駆使し、外交、安全保障を地域戦略を通じ具体的に展望し、大統領当選後の、行動指針を述べていると ころにある。これこそ、21世紀の現在が必要とするビジョンであると強烈な印象を受けた。そこで、そのエッセンスを以下まとめてみる。
  1. 核問題 奇襲攻撃を防ぐ核の抑止力
  2. 通常兵器 陸海空の軍事力の強化
  3. NATOの強化 ヨーロッパ諸国との政治、軍事的強化
  4. 開発援助 西ヨーロッパ諸国と日本との協力で途上国支援
  5. 南米の民主化 ドル外交批判と近隣諸国との友好政策
  6. 中東戦略 イスラエル国家の承認と柔軟なアラブへの姿勢 体制より人の交流
  7. アフリカ問題 共産主義排除によるよる民主化と繁栄 多国間経済開発資金
  8. ベルリンの壁とヨーロッパへの対応
  9. 東欧の問題
  10. 中国政策と共産主義封じ込め アジア地域開発機構
  11. 国連の役割強化 国際紛争解決と国際法
  12. 宇宙開発 世界に冠たるアメリカ
 ケネディーは、現実主義と理想主義を組み合わせ、軍事的、経済的に最強のアメリカを最高の教育と科学技術を通じ達成する戦略をわかり易く、国民参加の参加を基本として描いている。

 軍事と開発は、コインの表裏であり、平和のためにはその2つの要素のどちらが欠けてもいけない。米国の1ドル紙幣にはタカが描かれ、左脚には戦争を意味 する矢、右脚には平和の象徴であるオリーブの枝が描かれている。このケネディーの本の表紙にもこのタカのシンボルが描かれており、まさにこのオリーブの木 と矢がアメリカの平和戦略そのものである。

 ケネディーの平和戦略で特筆すべきは、核から経済協力や多国間協力の重要性が描かれているのみならず、真実の平和を追求するために宇宙開発まで視野にい れている。ソ連との核競争も究極的な軍縮のために受け入れると同時に、世界が共有できる宇宙開発まで展望しているところにある。

 6月13日にブルッキングス研究所のセミナーで、北東アジア構想について発表する予定である。今、北朝鮮問題という局地問題でありながら核兵器というへ 戦争に直結する問題への対応で世界に求められているのは、ケネディーの平和戦略の北東アジア版であろう。世界戦略という大きな構想の中での明確な青写真作 成の作業であろう。そこで、ブルッキングス研究所での講演では、「北東アジアの平和戦略 12項目」を発表しようと考えている。
  1. 協調的安全保障 経済協力を主眼
  2. 予防外交 朝鮮半島では戦争というオプションを排除
  3. 北東アジア経済圏と共生圏 資本主義を凌駕する東洋思想による経済圏構築
  4. 柔軟性のある歴史的認識と互恵精神 この百余年の歴史を重宝
  5. 北東アジアの国境を越えた国際公共財の構築 空間開発計画
  6. エネルギー安全保障 北東アジア天然ガスパイプライン構想
  7. 北東アジア国際交通網 ヨーロッパと太平洋を結ぶ
  8. 21世紀の問題に対応する新たな国際機関を設立、東アジア経済社会開発機構
  9. 日米同盟、米韓同盟と北東アジアの多国間協力
  10. 東洋思想と多神教 東洋と西洋の価値観
  11. 対話、建設的関与、協力による地域の安定と発展
  12. 多国間進歩的建設的関与政策 国際社会と北朝鮮の相互依存
  日本発で伝わる北朝鮮政策は、対話と圧力という考えである。しかし、現実には対北朝鮮政策が強硬派と建設的関与派に分離しているように感ぜられる。金体制 の核の瀬戸際外交に対し、国際協調による妥協せぬ姿勢を示すことが重要である。経済制裁は必要であろう。しかし、経済制裁は、短期的なものであり、根本的 には多国間協力による進歩的な政策、すなわち北東アジア平和戦略が平和への布石となろう。アメとムチを適度にミックスさせた平和戦略を考慮し、それを具現 化する作業が求められている。

2003年06月08日(日)萬晩報通信員 園田義明

 ■闇に潜むもう一つのWMD

「捕らわれ人には、出でよ」

「闇に住む者には身を現せ、と命じる」

 上の言葉は、ブッシュ大統領が、5月1日に空母エイブラハム・リンカーン艦上で行った「イラク戦争の戦闘終結演説」の末尾に引用されたイザヤ書49章9 節である。圧制下のイラクに苦しむ人々を「解放」した軍事作戦の成果を強調した発言ではあるが、本来「捕らわれ人」とは、紀元前6世紀にバビロンに捕囚さ れたユダヤ人(ユダの民)を指す。イスラム側から見れば、フセイン政権の脅威にさらされていたイスラエルへの支援とも受け止められかねない表現として、話 題になった。

 戦闘終結宣言から1ヶ月以上が経過した今、「闇に住む者」をめぐって、史上最大級の疑惑が、姿を現し始めた。それは、「大量ペテン兵器」の存在である。

 ■大量破壊兵器から大量ペテン兵器へ

 今アメリカのリベラル系メディアでは、大量破壊兵器(WMD=Weapons ofMass Destruction)に変わって、大量ペテン兵器(WMD=Weapons of Mass Deception)なる言葉が急上昇中である。イラク戦争の大義名分だった大量破壊兵器が発見されず、大量破壊兵器の存在そのものが、でっちあげだった とする見方が、米英議会で取り上げられているのである。

 きっかけとなったのは、5月中旬のストロー英外相の「大量破壊兵器の発見は、決定的に重要だとは言えない」発言である。以後参戦理由をめぐる論戦が始まることとなる。

 英国では戦争の是非をめぐる激しい議論の末、最終的に国連安保理決議を得られないまま、イラクの大量破壊兵器の脅威を根拠として参戦を決める。

 英政府は昨年9月、第1次証拠文書として情報機関が集めた機密データを含む50ページの報告書を発表した。イラクは湾岸戦争後も生物・化学兵器の製造を続け、45分以内に実戦使用できる態勢と指摘した。

 また核兵器について、査察が中断した98年以降、イラクはウラン濃縮用のガス遠心分離器の機材を購入しようとしたり、ニジェールからかなりの量の天然ウランを買おうとしたりしたと指摘し、危険性を強調した。

 そしてさらに今年2月、第2次証拠文書としてイラクが組織的に査察を欺いているという報告書を公表した。証拠が発見されないのは、査察が機能しないためで、大量破壊兵器の武装解除には武力行使しかないと主張する。

 しかし、第1次証拠文書で指摘したウラン入手疑惑は、その後、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が、米英側から裏付けとして渡された公文書を偽造と発表するなど、根拠が立証されていない。

 また、第2次証拠文書において、無断で引用された研究者である米国在住のイブラヒム・アル・マラシ氏は、論文では「イラクの情報当局は敵対国の反体制派 を支援している」としていた個所が、証拠文書では「敵対国のテロ・グループを支援している」に改ざんされ、「イラクがテロ組織アルカイダなどを支援する基 盤を持っているかのような印象を与えた」と、英政府を批判している。

■CIAとDIAの告発

 ブッシュ米政権がイラクの大量破壊兵器の脅威を理由に、イラク攻撃の準備を推進していた昨年9月、米国防総省の情報機関である国防情報局(DIA)の機 密報告書が「イラクの化学兵器保有・製造を示す信頼できる情報はない」などと指摘していたことをCNNやロイター通信などが6月5日に一斉に報じる。

 DIAのジャコビー局長は、全体の情報を基に「(大量破壊兵器製造)計画の存在は疑っていなかった」と述べたものの、共和党のワーナー上院議員らとの会 見では、「02年9月の時点で、イラクの大量破壊兵器製造計画の一部分として操業されている個別の施設を特定することができなかった。計画を進めている人 物、施設の場所や生産物も特定できなかった」などと語っている。

 また、米中央情報局(CIA)のテネット長官は5月30日、高まる批判に対して「われわれの仕事は一貫して誠実に行われた」とする異例の声明を発表す る。一方で、米上院の軍事委員会と情報特別委員会が、CIAなどの情報が正しかったのかどうかの調査を開始することを明らかにし、両委員会は合同公聴会開 催も検討していると発表した。

 焦点となるのは、CIAがまとめた昨年10月の機密情報文書で、イラクが生物・化学兵器を保有し、核開発計画の再開を目指していると結論付けた内容と なっている。この機密文書は、各情報機関の分析官らが特定の問題について見解を述べ、合意できる評価を示す報告書で、大統領ら政策決定者にとって特に重要 とされる。

 ■逃れる者と狙われる者

 ▼逃れる者・・・・

 英ガーディアン、米ニューズウィーク、米タイム、米USニューズ・アンド・ワールド・リポートが、相次いで報道したのは、パウエル米国務長官とストロー英外相の両国情報機関の収集した機密情報への疑念に関わる記事である。

 二人は、パウエル国務長官がイラクの大量破壊兵器保有の証拠として機密情報を開示した2月5日の国連安保理会合の直前、ニューヨーク市内のホテルで会談 し、ストロー外相は席上、イラクの大量破壊兵器保有を裏付ける確証が欠けていると懸念を表明、パウエル長官もこれに同調したとなっている。

 この会談で、ストロー外相は、機密情報の多くは明確な事実や複数の情報源の話に基づかない推測や評価に基づいており、米英両首脳が主張している大量破壊兵器の存在は証明できないと述べた。

これに対し、パウエル長官も懸念を表明し、特にウォルフォウィッツ国防副長官の関係者からの情報に疑念を呈したという。また、この時の会談内容を記録した文書が存在するようだ。

 ▼狙われる者・・・・

 米ワシントン・ポスト紙は6月5日、イラク開戦論の急先鋒だったチェイニー副大統領が昨年、CIAを頻繁に訪れ、イラク問題担当官に、イラクが大量破壊 兵器を隠し持っているとするブッシュ政権の主張に分析結果を合致させるよう無言の圧力をかけていたと伝えた。複数の情報当局高官の話として伝えたもので、 チェイニー副大統領以外にも、ルイス・"スクーター"・リビー副大統領首席補佐官、ポール・"ヴェロキラプトル"・ウルフォウィッツ国防副長官、ファイス 国防次官、テネットCIA長官からも、同様の圧力を感じていた分析官もいるという。

 ここで気になるのは、ネオコンの代表格ウルフォウィッツ国防副長官である。雑誌「バニティ・フェア」7月号で、米国はイラク戦争に際し国際的支持を集めるための官僚的な口実として「大量破壊兵器の脅威」を意図的に強調したと語っている。

 つまり、イラク戦を煽ったネオコンのリーダー本人が、でっち上げだったと認めてしまったのである。国防副長官自身は、単なる言葉尻をとらえた引用と反論 しているが、果たして、口を滑らせたのか、それとも言わざるをえない状況に追い込まれているのだろうか。

 さて、ここで面白い事実に触れておこう。悪役として狙われているウルフォウィッツ国防副長官、リビー副大統領首席補佐官、そして、これから注目の的となるはずのラムズフェルド国防長官の3人に共通するCIAとの繋がりがある。

 70年代後半、CIAがソ連の核戦力を過小評価しているとの疑問が高まり、当時CIA長官だったブッシュ・パパが、民間の専門家を集めて作った再評価グループ「チームB」を発足させる。そしてこの3人は、この「チームB」のメンバーであった。

 チームBには、ハーバード大のリチャード・パイプ教授や安保政策の実力者ポール・H・ニッツェも名を連ね、ソ連の戦力推定を大幅に上方修正し、誇大なソ 連脅威論をでっち上げ、それに連動した「当面の危機に関する委員会」という組織が全米に宣伝戦を展開し、80年代のレーガン政権の第二次冷戦・大軍拡へ進 む仕掛けをつくったという歴史がある。

 つまり、この3人はでっち上げのベテランとして、恐れられてきた要注意人物なのだ。

 ■復活するロックフェラー・リパブリカン
『ワシントンが国際社会に目を向けるのかどうか、私自身は悲観的ですが、いずれにせよ、ユニラテラリズム(単独行動主義)がとるべき道でないことは明らか です。若い世代の政治家や学者たちは、世界に対するアメリカの責任を自覚していますから、長期的には変わっていくかもしれません。
 アメリカの政策が変わるとすれば、皮肉なことに共和党左派が動く時しかない。「ロックフェラー・リパブリカン」と呼ばれる伝統を受け継ぐ人々です。民主 党左派がいくら国際協調を提唱したところで、「愛国心の欠如だ」と一蹴されて終わりですからね。
 では、共和党左派は、国際協調へと動き出すのか?
 何もなければさらに10年くらいかかるかもしれません。しかし、もしも再び国際的な危機に見舞われることがあれば、アメリカの外交政策が転換する可能性 は十分にあるでしょう。危機とは必ずしもテロだけでなく、国際金融危機かもしれない。・・・』(フォーサイト2002年9月号、P15より)
 上は、「大国の興亡」で知られるポール・ケネディ米エール大学歴史学教授の言葉である。911後に発表された数ある論評の中で、強く印象に残ったものだ。

 この文中に出てくる「ロックフェラー・リパブリカン」と呼ばれる伝統を受け継ぐ、数少ない人物こそが、パウエル国務長官である。
 
 また、2004年の大統領選を睨んで、この疑惑を追求する連邦議会での民主党の急先鋒は上院情報委員会に所属するジェイ・ロックフェラー上院議員であ る。国連に提出された「イラクがニジェールからウランを購入しようとしたことを示すニジェール政府公式文書」が偽造と判明した問題を、開戦前から議会で取 り上げていた。

 ロックフェラー家に関わる二人の人物が、動き始めた。ポール・ケネディ教授が予測した国際金融危機が迫っているのである。それは、デリバティブと呼ばれるバベルの塔の崩壊であろう。
『エ ンデは資本主義制度がダーウィニズムからくる弱肉強食を経済生活に適用させ正当化させている点を指摘し、精神性や文化といったものがないがしろにされてい る状況を嘆いていた。そして現在の金融システムをバベルの塔と呼び、いつか崩れる瞬間が来ると警鐘を鳴らしている。そしてなぜか危機的な状況を回避するた めの新たな精神性が日本で生まれる可能性を示唆した。』
(拙稿「ミヒャエル・エンデが日本に問いかけるもの」より)
 残念ながら、この時期に訳もわからずイラク新法の旗を振りかざす、戦後生まれの得体の知れない新種の日本人には、滅び行く恐竜のお叫びは聞こえても、エンデの言葉は届かないようだ。

 新種の戦後転向族は、最近では「日本版ネオコン」と呼ばれることもあるが、その言動から、本家ネオコンに対して失礼であろう。

 単にママに甘える「マザコン」こそが、彼らにはふさわしい。

□引用・参考

共同通信・時事通信・ロイター・日経新聞・讀賣新聞・産経新聞・朝日新聞・毎日新聞他

The Bush Administration's Weapons of Mass Deception
http://www.independent.org/tii/news/030605Eland.html

ROSEN: Weapons of Mass Deception
http://www.alternet.org/story.html?StoryID=16104

Some Iraq Analysts Felt Pressure From Cheney Visits
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A15019-2003Jun4?language=printer

Straw, Powell had serious doubts over their Iraqi weapons claims
http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,967549,00.html

Where are Iraq's WMDs?
http://www.msnbc.com/news/919753.asp

Weapons Of Mass Disappearance
http://www.time.com/time/magazine/printout/0,8816,455828,00.html

Truth and consequences
http://www.usnews.com/usnews/issue/030609/usnews/9intell.htm

Sen. Rockefeller Rips Lack of Iraqi Weapons Finds
http://www.guardian.co.uk/uslatest/story/0,1282,-2732145,00.html

ミヒャエル・エンデが日本に問いかけるもの
http://www.yorozubp.com/0007/000726.htm

 園田さんにメールは mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

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