2002年9月アーカイブ

2002年09月24日(火)安積ライスファーマーユニオン代表 安藤嘉雄


  田植え後平年並みに育っていたイネも、7月20日頃に平年並みに梅雨が明けると、猛暑というより酷暑といっていいほどの天気で一気に開花・受粉が進みまし た。しかし、旧盆近くになると今度は一気に9月下旬並みの気温まで落ち込んでしまい、太陽も顔を出さなくなってしまいました。まだ、コシヒカリの一部に開 花していないところがあったので大変心配していましたが、10日ほどでまた残暑が戻ってきました。毎年、毎月のことではありますが、天候に一喜一憂、収穫 するまで安心できない日々が続きます。

 さて、昨年夏に国内初の狂牛病が発生してから、雪印食品の牛肉偽装問題の発覚を皮切りに、次々と食品表示の偽装問題が大きな社会問題となっています。こ の「安積野」でも何回も取り上げてきましたが、最近では食肉業界最大手の日本ハムがやり玉にあげられ大騒ぎをしています。

 そんな中、お米の偽装問題もついに取り上げられるようになってきました。人気の高い魚沼産のお米が、生産量の10倍も販売されているということなどは以 前からも指摘されていて、お米の偽装は消費者も含めて半ば公然の秘密のようなものだからなのか、あまり大騒ぎはされていないようですが、産直だより「安積 野」としては取り上げないわけにはいきません。

 今回は大変恥ずかしいことに私たちの地元、郡山市の業者が摘発されました。お米の検査は2001年からの5年をかけて国から民間へ移行されることになっ ています。初年度の2001年産米における検査の信頼性について、疑問を持った仕入れ業者が、経費のかかるDNA検査をして摘発したというのが今回の事件 です。「カネクチ山口」は、産地農協と同じお米の集荷業者です。社長が民間検査官の資格を取り、自社で混米したお米を生産者から集荷したようにして検査印 を押したようです。

 お米の品質(乳白米、着色米、屑米などの比率)の検査は容易ですが、品種の検査は大変難しく、生産者からの申し出により、種子の購入状況を調査したり、 田んぼでの生育状況を見ないと分かりません。米粒の微妙な形状の違いで疑問がもたれることはありますが、混米されるとDNA検査でもしなければ判明できま せん。

 農家段階では、混米する設備がない為、手作業で混米するほどのメリットがないので行われませんが、一部の集荷業者や卸業者などでの混米は、業界では常識 に近いものがあります。厳密に取り締まれば、大手の精米業者など(ハム肉業界と同じく)、偽装していない会社などないといっても過言ではないのです。

 私は、行政改革の面からも検査責任の上からも民間検査には大賛成です。記事の中で、「民間に検査が移行しても公的検査と同じ水準でなければ行けない・・・」とありますが、民間検査に移行すれば、公的監査より厳密になるのが当然の成り行きではないかと思います。

 今までは食糧庁の検査官が検査印を押してくれさえすれば堂々と販売できましたが、これからは、自分たちのお米に自分たちが検査印を押すようなものですか ら、販売したあとまで責任がついて回ります。今回のように、偽った商品など販売してしまえば、会社(農協)存亡の危機に立たされますし、偽らないまでも、 品質の悪いものに「一等級」などの保証(検査印)を押して流通させたら、たちまち信用をなくしてしまいます。

 最近では内部告発によって大会社の不正が暴かれ、優良企業といわれているところが倒産するということが起こっています。期限切れの食品をゴミにしてし まって良いのかとか、消費者や小売業者が欠品を我慢してくれられるかなどという、簡単には解決できない問題もあります。企業内部だけで議論するのではな く、消費者や生産者までを含めた食糧問題として議論を深められないものかと思います。

 8月30日の新聞には、東京電力による原子力発電所の検査記録改ざんの記事が出ていました。アメリカの巨大企業の不正経理事件をはじめ、企業のモラルが 信じられなくなってしまいました。首相の北朝鮮訪問など大きな記事もあり、食糧問題などどこかに吹き飛ばされそうですが、身近な問題ですので今後も注目し て見て行きたいものです。(8月31日産直だより「安積野」より)

 安藤さんにメールは mailto:aru@oregano.ocn.ne.jp

2002年09月22日(日)萬晩報主宰 伴 武澄

 皮相的なマスコミに危惧
 小泉首相訪朝についてのマスコミの論調は、その大半を拉致事件の焦点を置いております。
 その中で貴殿のような意見がもっと広く国民に広がることを祈ってやみません。
あろう事か自民党の一部や民主党の党首候補立ちは、ほぼ口をそろえて小泉訪朝を非難しております。
 北朝鮮に係わる諸案件などは、我が国が長きに渡って、国家国民のあるべき姿を蔑ろにしてきた、与野党を問わない政治家や官僚の咎の一つであり、大衆に迎合することから脱却できないマスコミの怠惰だと断言せざるをえません。
 そしてそのような状況を良いことに、教育者達に目をそらされ、物事の本質を考えさせられることもないままに、過ごしてきた大半の国民に大きな責任があると思います。
 そして今又、問題の本質に触れることなく、皮相的な話題に明け暮れているマスコミに、恐らく同調しているのではと思われる国民のあり方に、危惧を抱いているものの一人でございます。(沢井宏)

 出来れば北朝鮮国交は反対

 私個人としては、出来れば北朝鮮国交は反対です。しかし、拉致被害者8人死亡という痛ましい事実をふまえ、又、横田めぐみさんのお母さんの言われたように、亡くなられた方の死を無駄にしない為には、戦後日本の方向性を決めてしまった東京裁判史観をするべきだと思います。

 何故、歴代政治家は弱腰だったか?
 本当に日本の植民地支配は、半島に対して不利益な事ばかりだったのか?
 或は益するところはなかったのか?
 その時の世界の動向や外国の謀略はなかったのか?
 朝鮮は、戦後日本人に対しどのような事をしたのか犯したのか?
 その他に旧社会党をはじめとして現社民党は、拉致被害者に対して
  どのような対処をしたのか?
 このことを踏まえて日本の防衛は、核保有に関しては、憲法九条は?
 外務省の巣くう外務省チャイナスクールの猛害とは?

 今まで、平和に浮れ、経済に浮れた日本国民全員が21世紀にかけて、日本の姿を真剣に一人一人が考える事だと思います。8人いやそれ以上の方が拉致され 殺されて尊い命を無駄にしない為にも。彼らを無駄死にという事にしては生ある私たちは決してなりません。(田代雅子)

 やっと素直な感想を読んだ気

 萬さん。やっと素直な、感想を読んだ気がします。今まで見聞きした情報は、全てYES・BUTのようで、また、何人かの野党指導者はぶつぶつ小言を言って、改めて税金を返せと叫びたくなりました。
 なんで素直に、今まで不透明にしてきた事実を明らかにした今回を、評価しないのでしょうか?
 議員拉致連盟が、文句を言うのはまだ足りないと言う立場ですので、理解も出来ますが、もし、自分が政権を替わるつもりがあるのなら、過去の区切りを付け た行為に対し、賛同出来無いのでしょうか。今回のイラクの国連査察受け入れ表明にしても、一連の首相の動きとは無縁では無いと思います。武器を使わないで 世界平和の為に行動をすると言うのが、日本国民の願いであり彼らの主張では無かったのでしょうか。出来無いと思われる時は声高に叫び、やればいちゃもんを 付ける。全くもって、戦後、我国の民主主義は、こんな議員を養う55年だったのでしょうか。
 もっと声高に言って、検証しなければならないのは、彼らの過去の行動です。
政治家も役人も、行動に時効は無いと考えなければ、戦争で亡くなった多くの屍の魂は何時まで経っても浮かばれないのでは、無いでしょうか?
 横田さんや有本さんのご両親の心中を思うと、パスポートに書かれている文面がシラジらしく感じられます。北朝鮮はやっと同じ土俵に上がったのですから。関係近隣諸国も含め、日本のお金を当てにしたとしてもです。(村井)

 今後北朝鮮はどうでるのか

 伴様、松島です。『歴史的ターニングポイントにしたい小泉訪朝』読みました。
  『自ら過去における数々のテロの存在を認め、
    さらに謝罪したということは大変な覚悟であった』
という点は私も思ってました。
 また、こうせざるを得なくなるまでに、北朝鮮は貧しくなってしまったのだなあ、と思いました。背にハラはかえられない北朝鮮の今後は、どういう態度に出てくるのでしょうね。(松島弘)

 ターニングポイントにしなければならない今回の訪朝

 いつも「萬晩報」を届けていただきありがとうございます。
 「歴史的ターニングポイントにしたい小泉訪朝」を読ませていただきました。
 これからも紆余曲折はあるとは思いますが、今回の訪朝を、「歴史的ターニングポイントにし」なければならないと思います。
 「各国・地域、住民の対等・平等」を基礎にした北東アジアの地域安全保障体制の構築という、日本で生活する我々にとって不可欠の課題を達成する上で、 「9・17平壌宣言」は大きな手がかりを与えています。明治以降の近代日本の発展過程において生じたさまざまな悲劇や、国家と個人の犯罪、加害と被害の全 てを心に刻みながら、しかし、恐らく17世紀以来の課題である北東アジア地域における平和で平等な国家および個人の関係構築に向けて、それぞれの持ち場で 努力しなければなりません。
 この8月、ごく短期間ですが、中国遼寧省丹東を訪問しました。
 丹東はご存じの通り、北朝鮮の新義州と鉄橋(道路・鉄道兼用:といっても、元々複線の鉄道の片方をふさいで車が通行できるようにしたもの)でつながって います。道路通行量が限界に達しているとのことで、以前からの計画である、鴨緑江新橋を建設する動きがかなり具体化しつつあるように思いました。
 北東アジアにおける平和構築に向けて、日本はさまざまな面で役割を果たすことができるように思いますが、とくに経済協力について、最も有意義な形で展開するように研究しなければなりません。(立命館大学 松野周治)

 もっと交渉にしようがあったはず

  いつも拝読しておりました。 しかし今回の評は甘すぎるのではないでしょうか。 良く4人も生きていた、とおっしゃりますが2組の夫婦です。 人質をとれば言動をコントロールできる立場の人間が生かされたとも考えられます。 また小泉首相への評価ですが、首相御自身もおっしゃっているようにあの場で、なんら合意を示さないという訳にはいかないのは分りますが、それならなぜもっ と事前の根回し、もっといえば圧力をかけて首相が行かれるまえに拉致について白状させなかったのか。 そのあと首相が行かれれば、もっと交渉のしようが有ったはず。 実行犯についての情報提供とか、亡くなった方々の詳細情報などを高尚によっては引き出せたのではないでしょうか。 首相個人の立ち居振舞いはTVで見た限り毅然とした物でご立派だったとは思いますが、あまりにも稚拙、拙速でした。 以上、感想を述べさせて頂きました。(selor)

 米韓にそそのかされたのか

 いつも、立体的な視点から楽しく読ませていただいております。
 しかしながら、「020920版」の配信記事について、理論的に概ね合意できますが、先の報道にもあります通り、官邸サイドあるいは外務省の対応には、首を傾げざるを得ません。
 強いて言うならば、先の電撃訪朝の決断は、小泉総理自らが下したけれども、それ以外の実務レベルでの協議等は、全て外務省のシナリオ通りに進めただけで はないのか!?という疑念さえ湧いて参ります。相変らず、官邸はあらゆる国政を諸大臣や官僚達に丸投げしている様子が窺い知れるというものです。
 国家の元首として、国益=国民の財産・権利その他諸々のものを身を挺してでも守るんだという強い気概は感じられませんでした。
 穿った見方をすれば「アメリカのブッシュ大統領や韓国の金大統領にそそのかれたか、仕組まれて動いたのでは!?」とさえ思います。
 拉致事件と不審船事件は全く別物なのに、(むしろ、日本国の安全を脅かしたという点では、根は同じ問題なんですが...)拉致疑惑の解明だけをクローズアップさせてしまった、マスコミの報道にも責任はあると思いますが。
 日本って、国際法に則って、「構造的に」物事を考えられないのでしょうか!?相変らずの島国根性を見せ付けられて、幻滅した想いで一杯です。国家に一体感がなくなって来ている昨今、萬晩報の使命は増すばかりです。(竹内一根)

 多くの論調は「情」が主眼

 個人的な「情」に主眼を置いた(それは「気持ち」としては正であるが・・・)関連情報が主流を占める多くの論調の中で、大局的・国家的見地から論じられた貴論文を貴重な思いで拝読。
 家族の記者会見での支援議員団の言動画面が、立場が立場だけに、余計お寒く映りました。
 今後のご健筆をお祈りしております。(三上義一)

 加害者としての日本は?

  ニュースで生存・死亡が報道され、賠償問題も話題になっておりますが、一方で日本人・日本政府は戦前・戦中に朝鮮半島から拉致し強制労働させた朝鮮の人た ちについて、どれほど事実の解明と賠償は行ったのであろうか? 慰安婦問題についても、そんな事実はないと言い張るばかりである。少し角度は違うが、森永砒素ミルク事件において被害者に森永と国がその事実を否定したこ とと同じ姿勢である。裁判で覆されなければ永遠に被害者は黙殺されてしまったであろう。それと同じことを 今回の「日朝間拉致事件」に感じる。
 自身を被害者として訴えることは多いけれど、加害者である側面は「もう昔のことだから」「済んだことは水に流して」と 勝手に忘却の彼方へ追いやる我々日本人は果たしてフェアなのだろうか?
 拉致問題は究明することを希望するが、同時に日本政府も朝鮮の人たちを拉致し強制労働させた事実を自ら解明し、謝罪すべきではないだろうか。ドイツに5 年間住んでいたが、ドイツは「自らの過ち」を戦後数十年にわたり何度も何度も繰り返し表明してきた。
 自らの罪を償わず(中国や東南アジアに対しても)相手の非を攻めるばかりでは 再び戦争への道を歩むことにはならないか。
 加害者は自分がしたことを忘れやすく(忘れたがる・・・と言った方がいいかもしれない)、被害者は決して忘れないことを真理として国は受け止めるべきであるとおもう。(鈍気呆亭 - 川崎市)

 キチガイ相手に正常化もない

 伴様;仰せの通り、歴史的なターニングポイントではあります。
 が。日本テレビの世論調査(拉致問題が解決したとは思わない=91・8%)などを見ると、すっかり沸騰してしまったかな、と思います。NHKの小泉首相 の記者会見と拉致家族の表情を2重写しにした中継が大きすぎた。多分、国交回復を唱える事は暫く無理でしょう。
 伴さんのように、中央におられる人間との目線とは違い、地方から見るとそんな感じです。ちなみに、在日の友人がおりますが、「弁解の余地が無い」と言うてますよ。
 それと、帰宅途中の電車で皆が共通して言うのは、「キチガイ相手に、正常化もクソも無いやろが」に尽きます。実にプリミティブで、かつ説得力ある問題提 起です。これを説得するに当たって国益だの、北東アジアの安全保障だのと並べられても、余りに抽象過ぎるんでは。第一、安全保障なんて言葉、朝日が今まで 忌み嫌ってきたんでは無いのと思うんですけど。嫌味抜きで。
 朝日の昨日の朝刊の社説もひどかった。1面に政治部長の署名記事で「痛ましい歴史越えて」やてー。
 いかなる意味でも拉致は正当化できないが、そもそも日朝の不正常な関係は、北朝鮮ができる前、戦前、戦中の35年間にわたる朝鮮半島の植民地支配に始ま る。冷戦もあった。北朝鮮との間に残された戦後処理問題を解決し、大局的見地に立って関係を正常化することが、日本の国益にも北東アジアの安定にも資す る。
 どの国も「負の歴史」をおっている。過去の日本がそうなら北朝鮮もそうである。
 つらいことだが、歴史を乗り越えるにはそれを直視するしかない。
 んだそうだ。
 おー、いきなり纏めに入りましたね。あの、あくまで今回は、政府が認定する拉致事件の被害者に言及したのであって、巷間で囁かれている「総数50ー 100人」では無いんですけど(この数字は、他ならぬアエラの間抜けな増刊号の引用)。それに、金が処罰をしたというなら、具体的にどんな風に、誰を処罰 したというのかを追及せんと。日本ハムの名誉会長や、みずほの減給等、腐った組織が眠たい収拾を計るのは、ここ数年見て来た筈ですがな。
 事件の概要が全然分かってへん内に、ようこんな書き方するわ、余りに酷い、被害者家族の心情を慮らんかい、と、職場でも皆言うとりました。「我が社の社 論が完全に正しく見えたのは初めてです」とは、シニカルで鳴る若い同僚。あれは社説ではなく、取り繕いですよ。完全に。
 それと、もひとつ。戦後民主主義の枠組みというか、大きな建て前が崩れてしまったのが、今回の事件という位置づけを何でせんのでしょうね
>各メディア。
 日本国憲法の前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とありますが、その平和を愛してもおらん、公正でもなし、まして信義も無い国が、よりによって隣にあるという事実が、今回突きつけられた。さあ、どうするんでしょう。
 私自身は改憲論者ですが、でも、今回の事件で国民の世論が右の極限に振れるのを何よりも恐れる。怒れば手がつけられないのが日本人だから。一気に突っ走らねばエエねんけど・・・。
 外務省が点数稼ぎに走っての訪朝なら、完全に裏目ですよね。庁舎に火でもつけられなければ良いのですが。乱文乱筆、失礼いたしました。(Minami Shigeki)
2002年09月20日(金)ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有



  中近東と北朝鮮は世界の火薬庫であると考えられてきた。その世界の二大不安定地域で「戦争と平和」という対極的な動きが生じようとしている。イラク問題に 関しブッシュ大統領は、化学、生物、核兵器を使用する可能性のあるイラクに対し先制攻撃も辞さぬ姿勢を示すと同時に、イラクが再三にわたる国連の査察を受 け入れない場合、国連による多国間連合によるイラクへの攻撃を強く求めた。

 一方、北東アジアのブラックホールと言われてきた北朝鮮は、小泉総理の訪朝により悲願の朝鮮半島の安定と発展に向けた大きな歴史的分水嶺を迎えようとし ている。イラクも北朝鮮もブッシュ大統領の言う「悪の枢軸」である。では、どうしてイラクと北朝鮮でこのような大きな格差が生じたのであろうか。

 金正日総書記が具体的な平和と安定の模索を始めた背景には、概して3つの要因があると考えられる。

 第一は、経済的要因。すなわち共産主義を固守しながらも配給制などを徐々に廃止し、中国式市場経済を導入しなければ国が維持できなくなってきたこと。

 第二は安全保障の側面。テロ国家や核疑惑のレッテルを貼られた国に対し、米国単独でも妥協のない先制攻撃をしかける可能性がブッシュ政権により示された ことにより、北朝鮮は従来の「瀬戸際外交」による国際社会に脅しをかけ妥協を引き出すというオプションが狭められたこと。

 第三は、ブッシュ政権が「アメとムチ」を唱え北朝鮮が「アメの効用」を模索し始めると同時に、韓国、中国、ロシアが朝鮮半島の南北を結ぶ鉄道の修復など 具体的な「国際公共財」としての経済支援プロジェクトが進展してきたことにより軍事的なオプションが減少しつつあることにある。

 このような、朝鮮半島の平和と安定に寄与する国際環境が整いつつある時に、小泉総理の決断によりピョンヤン訪問が実現された。これは「紛争と発展の可能性を秘めた北東アジア」に発展のモメンタムの形成と「歴史の清算」の絶好のタイミングである。

 しかし、国際情勢は急変する可能性もある。最悪のシナリオは中東と朝鮮半島の火薬庫が同時に爆発することである。最良のシナリオは、イラクが国連の査察 を無条件で受け入れ、戦争が回避され、さらに日朝国交正常化交渉が進展し、中近東と朝鮮半島の和平が同時に進展することにある。

 北朝鮮はイラクの状況を見て、戦争というリスクの回避の道を選んだとすると、イラクは北朝鮮から「平和の一歩」を学ぶべきではないだろうか。冷徹な国際 情勢はどのように変化するか分からない。こんな時こそ冷静に、仮にイラクで戦争が勃発した場合、どのような戦後復興計画が考えられるか、また戦争により世 界経済、日本経済がどのような影響を被るか。さらに朝鮮半島において、「対立から協調」に変化した場合、いかなる安全保障と経済的、社会的メリットを共有 できるか考察することが重要である。

 イラクと北朝鮮の問題を見る限り、両者の問題には多かれ少なかれ関係があり、また戦争と平和は紙一重である。従って、国際社会は戦争回避の努力を最大限 にすべきである。ワシントンで感じるのは、米国は単独でもイラクに対し先制攻撃をしかける可能性もあるということである。日本は、戦争回避に向けた一層の 外交努力とをすべきである。また、北朝鮮に関しては、拉致問題を含む日本の主張を貫き、北東アジアの平和と安定のためのグランドデザインを描くことが重要 である。国民は戦争回避によるメリットを真剣に考え、その実現のための努力をなすべきである。

 中野さんにメールは TNAKANO@brookings.edu
2002年09月19日(木)萬晩報主宰 伴 武澄


 2002年9月17日は戦後のもっとも長い一日だった。小泉純一郎首相は、戦後50数年の日本外交の中で最も苦渋に満ちた選択を果たしたのだが、小泉首相の訪朝は1972年の電撃的ニクソン訪中に匹敵する歴史的ターニングポイントになぞらえてもいいと思う。

 北朝鮮は国交がなかった国というだけではない。ラングーンでの韓国の全斗煥大統領暗殺未遂事件、中東での大韓航空機爆破事件などテロによって国際社会を 震え上がらせてきた国である。日本にとってはハイジャックしたよど号犯人を受け入れ、数え切れない拉致問題を起こしてきた不気味な存在だった。金正日総書 記は社会主義を標榜する国ながら異例ともいえる世襲によって国家の指導者の地位を得た人物で、こうした過去のテロを指導してきた張本人であることは間違い ない。アメリカのブッシュ大統領は、イラク、イランとともに「悪の枢軸」と呼び、危険視した対象でもある。

 小泉首相は、その北朝鮮に出向き、その金正日総書記と会談して、国交交渉再開の道を切り開いてきたのだ。会談では政府が認定した8件11人の拉致被害者 の生存を確認し、総書記の謝罪を引き出した。また北朝鮮がこれまで約束してきた国際的合意の順守とミサイル発射の無期限凍結も確認した。

 首脳会談の成果は、日本や国際社会が求めてきた北朝鮮に対する要求はほぼ網羅されたおり、外交という意味合いでは120点を付けてもいいほどの内容だっ た。問題は北朝鮮が今後この日朝合意を誠実に順守するかどうかだが、小泉訪朝が北朝鮮の孤立政策に風穴をあけたことは間違いない。テロ国家としての北朝鮮 が、自ら過去における数々のテロの存在を認め、さらに謝罪したということは大変な覚悟であったということだけは強調しておきたい。

 それにもかかわらず、小泉首相に笑顔はなかった。平壌に降り立った瞬間から眉間にしわをよせた硬い表情は帰国後も変わらなかった。会談が外交的に大成功 だったとしても、拉致被害者のうち8人がすでに死亡していることを知らされて喜べるはずもない。

 しかし、4人もよく生きていたというのが筆者の正直な感想である。亡くなった方々には言葉もないが、北朝鮮からすれば、拉致被害者が生きている限り、過 去の悪行の数々がこれから白日の下にさらされるということであり、テロの鉄則からすれば抹殺の対象であるはずだからである。

 国際政治の非情さは、こんな国家といえども北東アジアの安全保障のためには、対等に交渉相手としなければならないということだ。韓国の金大中大統領もま た同じ思いで2年前の南北首脳会談に踏み切ったのだと思う。ある意味では対立そのものがテロを生んだ土壌であったという考えである。

 ソ連の崩壊に続く東欧の自由化はゴルバチョフという体制を内部から崩壊させた人物が生まれたことによって達成したが、北朝鮮にはまだそのような人物が台 頭する気配はない。「待つ」という選択しもあったはずだが、放置しておけば今後、危険が増大するだろうという国際的認識は高まるばかり。まさにブッシュ米 大統領は昨年来、北風の役割を演じる覚悟を繰り返してきた。そんな中で自ら拉致され死刑宣告も受けたことのある金大中は太陽の役割を演じてきた。小泉首相 の心境も太陽だったのだろうと思う。

 この20年、多くのアジア諸国はようやく経済を成長路線に乗せることに成功した。韓国、台湾、香港、シンガポールのNIESにASEAN諸国が続き、さ らには中国やベトナムにも豊かさをもたらしつつある。そんなアジア経済で唯一残されたのが北東アジアであった。そしてその北東アジアの発展の足を引っ張っ てきたのが北朝鮮だった。硬直的な計画経済を堅持し、周辺諸国が相次いで市場経済を導入しても頑として受け入れなかった。

 今回の日朝首脳会談で、国交が樹立した後に日本から経済協力による資金供与が始まることを約束した。北朝鮮が直ちに市場経済を受け入れるとは考えられないが、経済交流が進めば北東アジア経済にも灯火がみえることになるだろう。

 ちょうど10年前、北朝鮮の豆満江を訪れた時、北東アジアフォーラムの趙利済事務局長(当時)が「日本海を対立の海から協調の海に変えなければならな い」と強調したことを思い出している。まさかその10年後に日本のリーダーが北朝鮮に体制に風穴をあけるとは考えられなかった。8人の犠牲者の調査は今後 も続けなければならないが、その一方で、2002年9月17日が北東アジアに平和をもたらした日として歴史に名を残ってほしいという思いが募る。

2002年09月12日(木)ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有


 ワシントンでは国家安全保障とイラク問題で持ちきりである。「ホームランド」という南アフリカのアパルトヘイト時代によく使われた用語が飛び交ってい る。アメリカでもこの用語はごく最近頻繁に使われだしたという。テロ対策として米国本土の守備を固めることが最重要課題であることから、ホームランドとい う用語が強調されている。世界貿易センタービルやペンタゴンといった国家の中枢が攻撃されたのだから、守備の甘さを補うための政策がホームランドの安全保 障として強化されてあたりまえである。

 ブッシュ政権の特徴は、ダブルスタンダードで形成されていることである。守備の甘さを補うための政策が強化されたかと思うと、「攻撃は最大の防御なり」 との考えで先制攻撃にも力点がおかれつつある。イラク問題が話題になる背景には、フセインが化学、生物そして核兵器を保有し使用した場合、アメリカ本土が 被害を受けるから、アメリカ単独でもフセインを退治してしまえという考えがある。

 ブッシュ政権のタカ派の考えは、信長の「鳴かぬなら殺してしまえ不如帰」である。とにかくブッシュ政権の武闘派とフセインが戦争することで失うものがないという考えや両者の利益が一致したときに21世紀の悲劇が生まれるのである。

 明らかにフセインは戦争好きである。80年初頭はイラーイラ戦争、90年は湾岸戦争、そして21世紀の初頭は化学、生物、核戦争を企てようとしている。 ブッシュ政権の先制攻撃に対し否定的な論調が多いが、一貫して経済協力や対話による協調的安全保障の重要性を唱えている筆者であるが、ことフセインに関し ては信長の考え方も重要であると思えてならない。

 筆者は、イラーイラ戦争の最中、久保田鉄工の鉄管輸出の仕事でバグダッドに駐在した。1981年にイラクの核疑惑の施設にイスラエルが攻撃した後、その 現場を訪れた。世界の世論はイスラエルを非難したが、考えてみれば、もしイスラエルの疑惑に対する先制攻撃がなければ、イラクは核開発を進め、その後の湾 岸戦争でフセインが核を使用する可能性が高かったと考えられる。

 ブッシュ大統領は、国連総会で核戦争から米国や世界を守るためにフセインを追放することが不可欠だと訴えるだろう。ビンラディンでさえ抹殺できない現在 の安全保障の脆弱さから判断すると、ブッシュ政権のタカ派の論調も真っ向から否定できない。米英を除くイラク問題に対するスタンスは、国連の決議に従い時 間をかけながらイラクと平和裏に交渉する展開である。「鳴くまで待とう不如帰」の家康式である。

 これからは「鳴かせてしまえ不如帰」の秀吉式の考えに切り替えなければ、911に並ぶ惨事が発生する可能性がある。フセインの生物、化学兵器を使用した 戦歴から考慮すると想像を絶する戦いを仕掛けることが予想できる。ことフセインに関しては「アメとムチ」でもムチの強化が不可欠だと考えられる。筆者はイ ラクへの先制攻撃は慎重であるべきだとのスタンスを取りながらも、フセインが国連の再三にわたる申し出に応じなければ先制攻撃も正当だと考える。

 このように表現すると「和の精神の重要性」を唱える筆者の一貫したスタンスに反すると思われる読者もおられると思うが、あくまで先制攻撃についても国連 である程度の協議を進めてから行うべきであると思う。タイトルで示したとおり「秀吉―鳴かせてみせようイラク問題」これこそテロ撲滅のための外交政策とし て有効に機能するのではないだろうか。このようにアメリカのシンクタンクに勤務したばかりの筆者が中江兆民のいう「洋行帰りの紳士」から「豪傑君」に変身 したかと思われるかもしれないが、ミサイル防衛等については一貫して反対の意見を唱えるが、テロに関してはもっと強気の政策をとらなければ取り返しのつか ないことになると思われてならない。読者のアドバイスをいただきたいと思う。

 中野さんにメールは TNAKANO@brookings.edu
2002年09月01日(日)システム・コンサルタント 大塚寿昭


 萬晩報の常任執筆者である中野有君の壮行会に出席した。彼はワシントンのブルッキングス研究所へ9月から客員研究員として赴任するという。世界のフリー ターを名乗る彼が、また一つ職歴を増やすことになる。北東アジアを学び、和を唱える彼が何を吸収し、何を置き土産にしてくるか、それが楽しみである。

 ただのTexan boy(テキサス小僧)だった「若」がブッシュ組2代目の跡目を継いだが、その内部では武闘派と穏健派の対立が鮮明になりつつある。ブルッキングス研究所 は、その外交政策に大きな影響力を持つ米国有数のシンクタンクである。米国の外交政策の決定過程で何がどう議論され、そして表の政策として発表・運営され ていくか、体感できる距離に居て知ることができるのは幸せなことだと思う。

 中野君の出発直前になって小泉訪朝決定が発表された。発表直前に来日したアーミテージ国務副長官の慌てぶりから見ても(小泉首相との会談は極秘にされ た)、この小泉・金正日会談は日朝双方のイニシアチブで始まったもので、決して米国主導ではなかったのだろう。中野君は着任早々に研究所内外からの質問攻 め、議論責めに遭うのではないだろうか。

 萬晩報2002年7月12日号で中野君は「アメリカのシンクタンクが万能薬を持っているとは考えられないが、日本の優れた分野と欧米や世界各国の優れた 分野を融合させるという発想も重要だ。日韓共催のワールドカップで、日本のサポーターのおおらかな態度が世界に高く評価された。恐らく世界で稀なる日本の 優れたところは、闘争心より「柔能く剛を制す」というおおらかさである」と語っている。

 この精神を植え付けるチャンスが着任早々にやってきたとは大変幸運なことだと思う。まず最初に相手に強い楔を打ち込むことができれば、その後の研究活動も余程違ったものになり、今までの日本からの研究者を大きく凌ぐ成果を得られるのではないだろうか。

 日本の官僚機構は「政策立案」機能を果たしているという点で、シンクタンクの役割を果たしている部分もあるが、政策執行機関(行政)としての強力な機能を持っており、そこに利害関係が生まれる以上、本来的なシンクタンクたりえないものである。

 中野君の言う「日本に世界に通用するシンクタンクを創る」という夢が、今回の彼の米国での研究活動で、実現に向けた具体的な歩みを始めるこ仄聞するに、 ホワイトハウス内での会話は相当に品性下劣なもののようである。まさにテキサス小僧の面目躍如といったところだが、そんなところにワラジを脱ぐ中野君の身 柄を心配しながら、より逞しくなって戻ってきてほしいと思っている。

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