発泡酒増税でなくなりかけたビールという酒類

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2000年12月07日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄


 来年度の税制改正で発泡酒への増税がかろうじて回避されることになった。「ビールと同じような酒だから」ということで発泡酒の酒税をビールと同じにしようと考えたのは大蔵省である。だが発泡酒が生まれた経緯を考えるとなんともやりきれない気分でいた。

 ●贅沢品課税から始まったビール税

「発泡酒」が日本で生まれたのは1994年末である。サントリーが「ホップス」という名前の「ビール」を発売した。希望小売価格は350ミリリットル缶で 普通のビールの225円に対して180円だった。主原料の麦芽の割合を65%に押さえたため、ビール税の適用を外れ、大幅値下げが可能になった。サッポロ ビールはさらに麦芽の比率を25%まで下げて150円という価格を実現した。

 われわれはホップスが世に出なければ、酒税法上のビールの定義が「原料全体に占める麦芽使用料が3分の2以上」だったことなど知らなかったはずだ。これ は品質維持のための条文で、いかがわしい酒造りが横行していた時代の残滓でしかない。しかも当時のビールは日本酒や焼酎などと違って「贅沢品」と位置づけ られ、アルコール濃度に対して法外な税率がかかっていた。問題は明治時代につくられた税率がそのまま20世紀の終わりまで続いていることである。

 ホップスが生まれた背景は、当時のお酒の価格破壊抜きには語れない。お酒の販売は1990年代初頭まで厳しく制限されていたため、ほとんど「定価」販売 だった。だが、90年代に進んだ円高により、海外の安いビールが日本市場になだれ込み、スーパーのダイエーまでがベルギーのビール会社と提携して小売価格 128円などという缶ビールが市場に出回った。一方で、規制緩和のおかげでお酒のディスカウント販売が各地で盛んとなり、長年の業界の慣行だったお酒の 「定価販売」は根底から崩れ去った。そしてどの店でも安売りの目玉商品がビールだった。

 当時この業界を担当していて缶ビール24本入りケース1箱の輸入価格が「6ドル」とか「7ドル」といっていた。業界大手のビール会社の首脳は「輸入ビールのシェアは市場のたった4%でしかない」と強弁していたが、輸入ビールの価格圧力は相当なものだったに違いない。

 ホップスはそんなビールの対抗商品として生まれたのである。当時、お酒の業界を担当していた記者は発泡酒などとはいわずに「ホップス」と呼んでいた。

 ●成分分析できないビールと発泡酒の違い

 そのころEU市場統合でビール論争が起こり、麦芽100%しかビールを名乗らせなかったドイツがオランダやベルギーなととの論争に折れて、副原料を使用 してもビールを呼べるように国内法を改正していた。ビールが国民的文化となっているドイツにとって「麦芽100%」はあまりにも当然のことだったのであ る。

 半面、興味深かったのは、世界最大のビール会社アンハイザー・ブッシュが醸造するアメリカののバドワイザーは麦芽の比率が60%以下と噂されていたことだった。そして、そのバドワイザーを日本でライセンス生産していたのがサントリーだったのである。

 いまでも世界には麦芽以外の副原料が3分の1以上の「ビール」は少なくない。世紀末の日本のビール課税のいかがわしさは品質保証でもなんでもないところにある。ビールとして申告すれば、たとえ副原料が3分の1以上でもビールなのである。

 5年前、日本バドワイザーは「日本向け商品は特別に副原料を3分の1以下に押さえてある」と説明していた。大蔵省が成分分析をした形跡はないから、ビー ルと申告すればビール課税をしただけのことだろうと想像した。そもそも液体のビールから麦芽と副原料の比率を割り出すことなど不可能だから大蔵省がやろう としても無駄な努力だったに違いない。

 また関税上の分類と酒税上の分類が違っていたから、ビールとして関税を掛けられたお酒が「発泡酒」として売られるという奇妙なことが日本という国で起き ていたのである。もともとアルコール度数の濃いビールを醸造してあとで水で薄めてボトリングするビールは少なくない。日本における「ビール」と「発泡酒」 の問題は極めて日本的問題を引きずっているにすぎない。

 ●税率が低ければホップスは生まれなかった

 大蔵省にいうように「発泡酒」も「ビール」も同じなのである。世界での希有な「発泡酒」などという概念が日本に存在するのは、単にビールに対する課税が 異常に高いためでしかない。アメリカやドイツのように安い税率だったならば、サントリーだって「ホップス」などというお酒を売り出す必要もなかったはず だ。

 アルコール1度当たりで1キロリットルの税金はビールが44,400円。発泡酒(麦芽25%未満)は21,000円。ワインは4,708円だから発泡酒でさえ、ワインの4倍以上の税金を払わされているのだ。

 たった5%前後しかないアルコール濃度の飲料に工場出荷価格の1.5倍もの課税をされているのだから「すきま産業」が生まれてもおかしくない。

 大蔵省の今回の改革案はビールと「発泡酒」の課税を統一して「麦芽酒」という税項目を新設するというものだった。堂々と「発泡酒」すべてにビールと同じ 税率をかぶせればすむことをわざわざ遠回りするところが姑息だ。もう少しでお酒の分類から「ビール」の名が消えるところだったのだ。

「当時おもしろかったのはある商社がBEERという名のビールを輸入して発泡酒として売り出したんだ」
「それってやばかったんじゃないの」
「いいや。ビーイーイーアールって読むからいいんだって」
「ほとんどパロディの世界だね」

「ところで英語で発泡酒ってなんていうんだろうね」
「sparkling liqueur・・・・」
「そんなのあるわけないだろう」
「じゃぁ、麦芽酒は」
「malt liqueur・・てのも変だな。とにかく麦芽酒では国際的に説明不能だ」


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