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米国の外交・安保の動き

2006年03月31日(金)
Nakano Associates 中野 有
 米国の外交・安全保障戦略の動向をイラク戦争の教訓と中東情勢、インド政策、対ロシアエネルギー安保の視点から考察したく思う。キャピタルヒルの上下院の公聴会、ブルッキングス研究所、ヘリテージ財団、アメリカンエンタープライズ研究所、ウィルソンセンター、外交評議会等のシンポジウムやセミナーに出席しまとめたものである。

 日米関係は良好であるが、日本の周辺諸国との関係は悪化している。ブッシュ政権の2期目の政策は、単独行動を控え、同盟国や多国間協調を重視する方向にある。日本が外交・安保の分野で国際貢献を行いやすくするのが米国の政策である。その意味でも日本の対中政策を考察する上で、米国の中東、インド、ロシアの政策を参考にする必要がある。

 【安全保障戦略】

 米国防総省と国務省がそれぞれ4年毎の国防計画見直しと安全保障戦略を発表した。両者に共通するのは、軍事と外交を包括した統合戦略を強調したこと、そして国際テロ等の脅威は、米国一国の脅威でなく世界全体の脅威であるから米国の覇権主義のトーンを下げ、多国間主義への重要性を強調したことにある。

 その背景には、3年を経過したイラク戦争の反省、とりわけ米国民の財政負担への懐疑と米国が孤立主義に向かう懸念がある。それを回避する最善の方法として、多国間主義への回帰であるように考えられる。(伝統的には米国は孤立主義・モンロー主義である)。

 クリントン政権の中枢で構成されるブルッキングス研究所が開催した安全保障戦略の分析のシンポジウムにおいて、クリントン政権の安全保障戦略でも先制攻撃を取り入れており、2002年のブッシュ政権が前面に出した先制攻撃との違いは、単独主義と多国間主義であったことから、2006年の安全保障戦略は、イラク戦争の失敗の教訓を経てクリントン政権の戦略に回帰しただけだと皮肉を述べていた。

 【イラク戦争の教訓と中東情勢】

 ブッシュ大統領がイラク戦争を楽観論を用い説明してもブッシュ批判に歯止めがかからない状況にある。オルブライト元国務省長官は、3月24日のファイナンシャルタイムズのコラムで、ブッシュ政権が世界の専制政治の政権の転覆を試みることはファンタジーに過ぎず、希望的な政策を主張するのでなく現実的に中東で行われているポーカーに如何に勝利する戦略を練ることが重要であるかを述べていた。

 イラク、イラン、北朝鮮の「悪の枢軸」が核を含む大量破壊兵器を保有しているかどうかのポーカーフェイスにより冷徹な国際情勢が回転し、回転している。フセイン大統領が大量破壊兵器をポーカーフェースを行った理由は、イスラエルの攻撃を警戒したからとの見方がある。

 イラクは1981年の夏にイスラエル空軍によるイラクの核疑惑施設の先制攻撃を受けている。10年後の湾岸戦争の多国籍軍の勝利はイスラエルの先制攻撃に起因するとの見方もあり、実際、ブッシュ大統領の3年前のバクダッドへの先制攻撃は、イスラエルの成功例を考慮したと考えられている。イラン・イラク戦争時のサダムフセインは、親米であった。にも拘らずイスラエルはイラクを攻撃したと考えると、現在のイランはホメイイニ師以上に反米であり反イスラエルであり、加えて核問題で世界の反感を浴びている。イスラエルのイランへの先制攻撃の可能性はゼロではなく、それを回避するための外交が進められているとの考えもある。

 米国が民主化を全面的に出しイラクで3回の選挙が実施された結果、イランに近く反米的な政権が誕生した。また、パレスチナでテロ組織であるハマスが選挙で勝ち、レバノンではヒズボラ、エジプトのイスラムブラザーズ等のイスラム原理主義は、イランが資金源となっている。イスラム原理主義とテロ組織が石油価格の上昇という恩恵を受けている状況下で、米国が唱える民主主義が実施されても結果は逆効果になるケースが連続している。

 イラク戦争が3年を経過し、内乱の様相が濃くなってきた。イランとイラクが結びつくことによりシーア派の勢力が増し、スンニ派が大勢を占めるアラブ諸国の勢力図が変わりつつある。非常に大胆に中東をアラブとイスラエルの対立構造で洞察した場合、イラク戦争の混沌、イランの台頭等は、中東を分断するとの趣旨では、イスラエルの戦略思考が生かされていると考えられないだろうか。

 【対インド政策】

 中国の富国強兵政策を建設的関与政策で封じ込めるために米・日・豪の3カ国の連携強化が確認された。中ロが接近する中、とりわけ米国がインドへの異常なロマンスを求める理由が見えてくる。
  1. インド市場。中国を抜き人口世界1となる。潜在的な経済発展の可能性は世界一。
  2. 世界最大の民主国家インドと世界で最もリッチで古い民主国家米国との調和。
  3. 中国への抑止力として活用、米印の協力は、中露印の関係に米国が優位。
  4. 英語圏であり科学技術のレベルが高い、米国のインド人は金持ちが多く、インドコミュニティーが米印の経済的深化を推進。
  5. 世界2番目のイスラム国家。ガンジーのノンバイオレンスをインドは貫いており、イスラム教の鏡でもある、国際テロや中東諸国との調整にインドは役に立つ。
  6. インドはNPTに入ってないが、NPTがスタートする以前から核の技術力があった。そこで例外が認められ、米国はインドに核技術を提供することになった。
 【対ロシアエネルギー戦略】

 米国は、ソビエト解体後のロシアと15年間良好な関係を維持してきた。とりわけ、9・11以降は、国際テロへの協力を通じ戦略的パートナーとして関係が更に緊密となった。

 しかし、プーチン政権の2期目からロシアの中央集権的なナショナリズムの高揚が多くの分野で問題を引き起こしつつある。現在のロシアはかつてのロシアではない。ロシアは間違った方向に動いている。米国は、特定分野に限定した明確な対ロシア戦略を描く必要がある。

 ロシアが強くなった背景

 経済 7%の経済成長、石油輸出は、5年間で50%の上昇、鉱物資源輸出は2年間で60%の上昇、天然ガスの輸出は世界1、石油の輸出は世界第2、エネルギー輸出を武器に経済成長を達成、90年代全体のロシアへの直接投資が200億ドルだったのが、昨年1年間で160億ドル。昨年のロシアの株式市場は世界1−2の成長を記録した。中産階級の生活水準の伸びが著しい。

 政治 ソビエト崩壊後のショック療法をはじめとする米国の自由民主化、市場経済導入に対し、ロシア経済の安定と発展に伴い、外国からの干渉に対する修正が急速に起きている。プーチン大統領の経済政策の成功への評価が高く、ロシアが推進する中央集権的な権威構造の確立を通じた強いロシアを望む層が強い。

 ロシアの歴史を観れば権力集中型で発展してきた社会であり、米国の民主主義、市場化を通じた政治、経済への介入は、ポスト冷戦の短期間に過ぎず、その修正が発生することは当然の動きだとの見方も可能である。

 外交・安全保障 資源外交や世界的なエネルギーの安全保障の観点から、OPECに準ずるロシア主導のエネルギーカルテルを構築。
 セント・ピーターズブルクで開催されるG8サミットの議長国としてエネルギー安保を優位に進める。
 エネルギー輸出を国家戦略の位置付けにあり、ロシアのエネルギー関連の企業は市場メカニズムでなく政府主導でコントロールされている。
 エネルギー価格が上昇することにより利益につながるロシア外交を行っている。
 中央アジアにおける利益は中国と結びつき、米国との摩擦が懸念される。
 中ロの軍事的協力、ロシアから中国への武器輸出、ハマスへの支援、イランの核問題、北など中東への介入は、米国の戦略と隔たりがある。
 北東アジアにおける地政学的構成が、米中中心の均衡型からロシアの経済・政治的な安定からロシアのエネルギー外交による影響力の強化で、中ロの強化が増している。

 米ロの共通利益の合致点

 ・対テロ戦略
 ・大量破壊兵器
 ・核非拡散
 ・環境分野の協力 72年のニクソン政権、94年のクリントン政権の
  時に話し合われた環境分野の協力を確認
 ・米ロの不必要な競合を避ける
 ・ロシアのWTOの加盟などロシアの多国間協調を支援
 ・エネルギーの効率化、中東依存を避ける

 具体的に米国は何をすべきか

  1. ロシアのイランへの核支援、IAEA、国連等のイランへの経済制裁を通じたロシアの外交、パレスチナ問題等をリトマス試験紙にかける。米国の利益に適わぬ場合は、ロシアへの封じ込めを考慮する。
  2. ロシアは民主化の動きに逆行しており、G8としてのロシアを疑問視し、G7はロシアの民主化、ヨーロッパの分断を引き起こすロシアの周辺諸国へのエネルギー外交を通じた戦略を封じ込める必要がある。ロシア民主化への圧力が必要。
  3. 石油が需給のバランスで機能するような市場経済の健全化に向けたエネルギー戦略をロシアに示す。エネルギーの供給の中東偏重から分散化させる意味でロシアのエネルギー戦略と利益が合致する。ロシアに埋蔵されている天然ガスの効率化により地球環境問題の解決につながる。
  4. ロシアのナショナリズムが強くなる情勢において、ロシアの利益につながるWTO加盟など、多国間のフレームワークの中にロシアを導く戦略を練る必要がある。
  5. 中国との関係においてもロシア、インドと協調する必要があり、不必要な競合を避けながらも、米ロの共通利益における集中的な戦略的な行動をエンルギー安保の中から生み出す。

     中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp
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