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遷宮の本義−再生の遺伝子

2006年02月18日(土)
神宮司庁 石垣仁久
 皇室第一の重事

 南北朝時代、北朝年号の貞治2年(1363)という年に皇大神宮権禰宜の興兼(おきかね)が編纂した『遷宮例文』は、平安末期の長暦2年(1038)から嘉元2年(1304)まで266年の間に5回行われた式年遷宮の貴重な記録を集めています。

 この書は「夫れ伊勢二所太神宮は、20年に一度の造替遷宮は、皇家第一の重事、神宮無双の大営なり」という一文が記載されることでも知られています。皇家とはすなわち皇室のことで、20年に一度の神宮式年遷宮は皇室の数ある祭政の中でも重事の筆頭とされ、神宮最大の営みであると、短文ながら遷宮の本質をみごとに言い当てています。

 式年遷宮は、皇祖神をおまつりする神宮の社殿や神宝を天皇の御発意によって20年に一度一新することが本質であり、天皇のなされる大神事であるからこそ、そこから国全体が若返るなどの考えも発生してくるのです。

 繰り返す再生

 式年遷宮を繰り返すことの主なメリットは建築様式と技術の伝承、神宝新調による工芸技術の伝承です。それらは確かに事実ですが、あくまで結果であって、最初から遷宮の第一の目的であったとは思えません。

 式年遷宮は「つくり替える」ことの繰り返しです。それは「再生」を繰り返すことで原点を永遠に保存するシステムであるといえます。まるで遺伝子に書き込まれているかのように、20年という年月をかけて日本という生命体が再生するためのプログラムなのです。

 再生を永遠に繰り返すという発想はおそらく、稲作から感得される日本人の時の観念に起因するものと思われます。田起こし、田植え、稲刈りを毎年繰り返し、水田は何度でも再生して日本人の生活を支えてきました。長い間稲作を繰り返してきた日本人には、自然は循環し、時は再生するものと肌で感じたに違いありません。水田が毎年繰り返し再生することと、遷宮で神宮が再生することには、ことばで説明しきれない深い繋がりがあるに違いありません。

 過去・現在・未来

 古くから伊勢神宮が多くの人々の崇敬を集めてきたのは、時代を貫いてそのスタイルを保ち続けているからではないでしょうか。変わらぬものへの憧憬、また変わらないという安心感や将来も変わらないであろうという期待感が、人々の心を伊勢へ伊勢へとひきつけて止まないのでしょう。

 しかし、時に変わらないことが変わることより難しいこともあります、神宮が独自のスタイルを保ち続けたのは遷宮の制度があったからですが、遷宮という大事業を繰り返す努力がいつの時代にもあったということが更に重要なのです。

 この半世紀、生活の身近なところから水田が消え、多くの日本人が農業から他の職に転じ生活様式も一変しました、確かに生活は豊かになりましたが、日本人が日本人らしさを捨て去ることがその代償であったような気がしてなりません。日本人らしさとは、稲作に見られるような繰り返すことの価値を識っていることであると思います。

 過去からの延長線上に現在があり、またそれは未来へと続くという時間軸の中で、過去と未来の中程に現在があるとすれば、私たちには「伝える」という重要な使命があるはずです。私たちは先祖から何を託され、子孫に何を伝えていくのかを見失ってはいないでしょうか。時代に左右されない連続、すなわち「永遠」を現代人は現代人なりに考えておく必要があると思います。

 大和の薬師寺元管主の高田好胤師は「永遠なるものを求めて永遠に努力する人を菩薩という」と繰り返し説かれたそうです。高田師のことばを借りれば、式年遷宮を繰り返していくことは、永遠を求めて日本人が永遠に努力すべき最も尊い営みであるといえるのではないでしょうか。

 伊勢人 No.149 早春号 <発売中>から転載

 石垣さんにメール jingushicho@titan.ocn.ne.jp

 【編集者注】伊勢神宮の次の式年遷宮は2013年です。遷宮に向けた取り組みは昨年から本格化しています。昨年4月から6月にかけて、御神体を納める器をつくる御樋代木を木曽山中から切り出し、伊勢まで運ぶ一連の神事が終わり、今年4月から5月にかけて遷宮の御用材を曳く「御木曳き」(おきびき)の行事が伊勢市内で行われます。市内各町の奉曳団が中心となりますが、伊勢市民は自ら「神領民」と名乗り、古来遷宮に参加することを誇りとして来ました。この神領民以外でも「一日神領民」として御木曳きに参加することもできます。
詳しくは御遷宮対策事務局 0596-25-5215

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