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民間人が郵便配達する伊勢湾の神島

2005年08月05日(金)
萬晩報主宰 伴 武澄
 ある日曜日に伊勢湾に浮かぶ神島に行こうと決めて、土曜日の午後、近くの書店で三島由紀夫の『潮騒』(新潮文庫)を買った。夜、その本を読みながらインターネットで鳥羽から神島への船便を検索した。

 一周しても一時間足らずの小さな島であるが、午前の便で着いたら、午後3時半にしか帰りの便がないことを知った。どうやって時間も過ごすのだろうと考えたが、行ってみると時間はそう余らなかった。

『潮騒』は一夜では読み切れなかったから、鳥羽からの船で続きを読み始めた。連絡船はポンポン蒸気に毛の生えた51トンの小さな船だった。224人乗りの船に客は十数人だった。途中菅島に寄ったら、乗船客は名古屋からのアベックと筆者だけになった。

 荷物はけっこうあって、クロネコヤマトの宅急便と郵便マークの入ったずた袋が一緒に運ばれている光景を目にして、ほほえましかった。連絡船は鳥羽市が経営しているものの、小さな島への荷物では官も民もないのは当然のことと理解しなければならない。

 ロマンチックになるはずの旅は船内にあった郵便マークの入ったずた袋で一転、郵政民営化を考える旅になった。なんとはない。公務員が配達するはずの郵便マーク入りの袋はただ一人海を渡ってきたのだ。津に帰ってから数日後、鳥羽郵便局に電話を入れた。

「神島には郵便局がありますが、集配局ではありませんよね。神島では誰が郵便を配るのですか」
「鳥羽郵便局員です」
「でも船には郵便物だけあって配達員はいなかったです。島のおばさんが郵便袋を持っていったようです」
「あー、それは受託員です」
「受託員ってのは公務員ですか」
「いえ、契約しているのです」
「となると神島では民間人が配達をしていると。答志島や菅島でも同じなのでしょ」
「そういうことです」
「集配局のない瀬戸内海の小島でもそうなのでしょうか」
「管外のことは分かりませんが、たぶん同じだと思います」

 思った通りである。神島では民間人が郵便を配達しているのである。ここで見た風景はすでに「民」に多くを依存している郵便事業の一端を示している。

 全国2万5000の郵便局には普通郵便局と特定郵便局、それに簡易郵便局の3種類ある。一番多いのが特定局で1万9000局、次は簡易局の4500局。普通局は1300局しかない。その二番目に多い簡易局の職員は公務員ではない。特定局だってもともとは名主や庄屋に公務員の身分を与えて取り立てたもの。世襲が認められているぐらいだから人事権すら及ばない。辞令は出ているが、民間の発想では「契約」に等しい。そうなるとほとんどの郵便局は「民間委託」で成り立っているといっても間違いないのだ。

 参院郵政特別委員会できょう、郵政民営化法案が採決された。週明け8日は参院本会議での採決がある。筆者は郵政民営化論者で小泉首相の立場を支持しているが、「官から民へ」ということを強調しすぎだ。小泉さんは郵便事業がすでに多くの「民」でなりたっている状況をもっと強調すべきだったのだと思っている。

 きょうは126年前、郵便貯金事業の規則が公布された日である。

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