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太平洋の嵐に巻き込まれるプロ野球

2004年09月23日(木)
萬晩報通信員 園田 義明

 ■20世紀の太平洋は米共和党の海となり、大西洋は米民主党の海となった

「海洋のうちでも、太平洋は常に米国の孤立主義者のお気に入りの海原であった。それは太平洋が大西洋ではないという単純な理由によるものであった。孤立主義者は紛争にまみれた欧州思想の導入に反対し、欧州に対する憎悪さえ見出せる。これらの感情は政党政治にも表れ、20世紀の太平洋は米共和党の海となり、大西洋は米民主党の海となった。共和党の外交政策は、概して日本と中国に関するものとなる。」

 これは、ウィリアム・マンチェスターが書いた『ダグラス・マッカーサー』(河出書房新社)で見つけた一節である。リチャード・H・ロヴィーアとアーサー・M・シュレシンジャー・ジュニアの1951年に書かれた共著『The general and the President, and the future of American foreign policy By: Richard Halworth Rovere;Arthur Meier Schlesinger 』からの引用として紹介されており、原著を取り寄せて補足したものである。

 リチャード・H・ロヴィーアは進歩的な米週刊誌「ネーション」の副編集長などを経て、東部リベラル系の「ニューヨーカー」の花形記者として活躍した米国有数のジャーナリストであり、特に人物素描に優れ、米国のエスタブリッシュメントを題材にした著作も多く残されている。日本では彼の代表作である『マッカーシズム』(岩波新書)が翻訳されている。

 「ニューヨーカー」と言えば、最近ではアブグレイブ虐待事件を告発したセイモア・ハーシュ記者が一躍有名となったが、昨年3月に同じく「ニューヨーカー」でネオコンのリチャード・パールとサウジアラビアの武器商人との不透明な関係をスクープした(拙著『最新アメリカの政治地図』P242参照)のもハーシュである。

 また、アーサー・M・シュレシンジャー・ジュニアは、拙著でも取り上げたように、今や日本メディアがこぞって取り上げるようになった米国の分裂をいち早く取り上げた米国を代表する歴史家である。

 このふたりがマッカーサー解任問題を取り上げた著作の中で記したこの一節は、米国の地政学と地経学に基づく壮大な戦略を読み解く上でも極めて重要な意味合いを持っている。

 ■その後の民主党と共和党、そしてイラク戦争

 この一節を現在に置き換えればこうなる。

「その後、民主党は日本を加えた日米欧三極主義を旗印に、共和党の牙城である日本、そして中国へと触手を伸ばし始めた。しかし、EUの拡大によって米国の存在感は急速に弱まりつつある。一方で共和党は、孤立主義が故に、新たな勢力拡大を怠った。しかし、レーガン時代を契機に民主党からの転向組であるネオコンと協調しながら介入主義に転じ、その戦略は中東へと向けられる。そして、強引に中東を奪い取るための戦争が開始される。それがイラク戦争であった。しかし、孤立主義者が本来得意とするのは日本、中国であり、大方の予測通り大きな犠牲をともなう結果となった。」

 孤立主義者の焦りを生んだ要因には、彼らにとってのエンジン役を担った日本経済の低迷もあげられる。従って彼らにとって新たなエンジン役が必要であった。そして、都合良く2001年の米同時多発テロが勃発、これを巧みに利用しながら、新たなエンジン役を求めてイラクへと邁進する。しかし、かつての日本における占領実績に裏打ちされた彼らの自信は、もろくも崩れ始めている。

 そもそも国際協調的な志向を持たない孤立主義者は、狙い通りに民主党と欧州との関係に亀裂を生じさせた。その修復を目指すための大統領選の行方は2008年へと持ち越される公算が大きい。しかし、今年の大統領選で唯一注目されるのは、プロテスタント大国である米国にあって、民主党がケリーを立て、ケネディ以来となるカトリック大統領を目指したことだ。

 日米欧三極主義の拠点であるトライラテラル・コミッション(三極委員会、旧日米欧委員会)はカトリックと密接な関係を持っている。このことは、トライラテラル・コミッションの設立に深く関わった米国を代表する地政戦略家ズビグニュー・ブレジンスキーがカトリックであり、連載中の最新日本政財界地図(4)で指摘したように、トライラテラル・コミッションの日本側主要メンバーである小林陽太郎、緒方貞子、山本正もカトリックであることからもより明確になっている。

 歴史を紐解けば、プロテスタントもカトリックも反共という面では結びつきもあった。しかし東西冷戦の崩壊は両者を再び切り離し、これが米欧の分断に火をつけ、米国大統領選自体も踏み絵を迫る構図となっている。

 ■太平洋の嵐に巻き込まれる日本のプロ野球

 今まさに太平洋に歴史的な嵐が吹き荒れている。日本のプロ野球もその嵐に巻き込まれたようだ。パシフィック・リーグ(旧太平洋野球連盟)の近鉄とオリックスの合併をめぐって混乱し、選手会は9月18、19日の公式戦のスト突入を決める。プロ野球でストが行われるのは70年の歴史で初めてとなった。

 この日本のプロ野球界が一丸となって金メダルを目指したアテネオリンピックの予選リーグに出場した8カ国は、日本、キューバ、カナダ、オーストラリア、台湾、オランダ、ギリシャ、イタリアである。また、現在プロ野球がある国は、米国、カナダ、オーストラリア、メキシコ、オランダ、イタリア、日本、韓国、台湾、中国などがあげられるが、この中の日本、オーストラリア、オランダ、イタリア、韓国はイラクへの主要派兵国となっている。

 米国発祥のベースボールが共和党の海に浮かぶ国々、もしくはオランダのようにプロテスタントとの関係が深い国々と結び付いていることがわかる。つまり、ブッシュ共和党政権が主導したイラク戦争における有志連合とベースボールは切っても切れない関係にある。そして、植民地時代の名残からカトリックの影響が強く残るサッカーと比べて、ベースボール圏がいかに狭いものかが理解できる。

 しかし、皮肉にも派兵連合国を破って金メダルを獲得したのは、米国との緊張が続くアマチュア野球大国のキューバ共和国であった。

 2008年の北京オリンピックを目指して中国も2002年3月にプロ野球リーグとして中国棒球リーグ(CBL)を発足させているが、CBLの運営には日米韓の合弁会社であるダイナスティ・スポーツ・マーケティング(DSM、本社・東京)がコンサルティング契約を結んでいる。将来の中国市場の開拓に向けて、ミズノとキャノンと日本航空がCBLのスポンサー、そして各球団スポンサーには、カルビー(広東レパーズ)、全日空(北京タイガース)、日立建機(天津ライオンズ)、サントリー(上海イーグルス))などが就き、10社あるスポンサーのうち日本企業が7社、米国が2社の布陣でCBLを支えている。

 ソフト・パワーの権威であるジョセフ・S・ナイ教授(ハーバード大学ケネディスクール院長、クリントン政権国防次官補)を民主党からトレードすれば、共和党も本腰を入れてワールドカップ・ベースボールの実現に取り組むかもしれない。しかし、孤立主義者はたとえ得意の中国であっても、瞬時に大金が動く戦争ビジネスの方がお好みのようだ。

 盟主たる巨人の視聴率は最低記録を更新し続けている。人気回復こそがプロ野球界全体が一丸となって取り組むべき問題であるはずが、どうやら孤立主義の権化達は既得権益にこだわり続けている。グローバルな日本企業がそんな日本の野球界を見捨てて、CBLに巨額な投資をするのもやむを得ないのかものかもしれない。たかだか70年の歴史に守られた世界にふんずりかえっている日本のプロ野球界と日本の政界は双子の兄弟のように見えてしまう。

 ■共和党と共和党に従順な人達の未来

 日本は太平洋の覇権をめぐる米国との戦争に敗れ、以後主に共和党にとってエンジン役となった。その役割は経済、つまり一種の共和党名義の金庫のような存在である。都合のいい時に大量のマネーが勝手に引き出されていく。時には企業丸ごと引き出されることもあるが、貢ぎ物としてよろこんで差し出すのが、戦後の習わしと考える人もいるようだ。

 郵政という名の巨大な金庫もなにやら怪しい動きが水面下で進められている。小泉首相は今月末の内閣改造に向けて「改革の本丸である郵政民営化への協力は当然だ。妨害する人を起用する考えはまったくない」として、郵政民営化を踏み絵に宿敵である橋本派を追い込み、政権運営の主導権を握ろうとしている。得体の知れない小泉原理主義が一層顕著になってきた。

 また先月8月には竹中平蔵金融・経財相が訪米し、ニューヨーク市内で8月12日に行われた講演では、先の参院選で小泉政権による構造改革は国民から支持されたと強調し、今後は郵政事業の民営化に全力を挙げる考えを示した。郵政改革を妨げる最大のリスクは「与野党の政治勢力」と指摘するなど、わざわざ米国まで出掛けて国内の与野党を批判し、郵政民営化全力宣言を発するという前代未聞の演説をやってのけたのである。

 政治家達、読売グループ、そしてその御用聞き評論家達、つまり共和党に従順な人達は、万が一ジョン・ケリー大統領が誕生した場合、またしてもジャパン・パッシング(日本素通り)の嵐が吹き荒れるのではとの不安で夜も眠れぬ日々を過ごしている。

 彼らはブッシュ共和党政権誕生に絶大な拍手を送り、イスラエルのために活動するネオコンが共和党にとって異質な存在であるにも関わらず、その分析を怠り、言われるがままに米国に追従しようとした。すでに共和党が本来の姿を見失っていることに気付かずに、共和党が見守る太平洋の海で安らかに漂うことを今なお夢見ているのである。

 確かにこの現在の日本の風土を現実として受け入れれば、共和党追従路線は間違えてはいない。しかし、新たなエンジン役としてのイラクが軌道に乗りはじめ、共和党内部のチャイナ・クラウド(中国派)が勢力を巻き返せば、日本への見方に変化が生じる可能性もある。

 今年の日米野球は「イオン オールスターシリーズ2004 日米野球」となっている。その名の通り岡田克也民主党代表の一族のイオンが特別協賛(冠協賛)しているのである。そろそろイオンには米中野球が行われるより先に、日中野球の準備をお勧めしたい。

 もはや手遅れかもしれないが、ここで『最新アメリカの政治地図』でも取り上げた2000年大統領選の共和党指名候補でブッシュと戦ったジョン・マケインの発言を愛すべき共和党に従順な人達や小泉原理主義を責めきれない日本の民主党に捧げたい。キリスト教右派を創価学会や大リーグ、あるいは共和党や米国に置き換えれば、成すべき改革が見えてくるはずだ。

「共和党再建のためには、キリスト教右派と明確に一線を画して、中間層に新たな支持層を構築しない限り共和党に未来はない」

 園田さんにメール mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

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