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プロ野球再編『終わりの始まり』にしないために

2004年07月01日(木)
萬晩報通信員 成田 好三

 地方でイベント業をしている知人がこんなことを言っていた。
「芸能人は2種類いる。テレビに出る芸能人とテレビに出ない芸能人だ。芸の質やレベルは関係ない。テレビに出る芸能人をイベントに呼べば客が集まる。テレビに出ない芸能人を呼んでも客は来ない。だから、イベントにはテレビに出る、しかもギャラの安い芸能人を呼ぶ。地方じゃそんなに金はかけられないからね」

 いまの日本は、テレビ全盛の時代、いやテレビ万能の時代である。社会事象も、テレビに映るか映らないかによって分別される。極端に言えば、テレビに映らない事象は社会的に無視された存在になる。

 スポーツも例外ではない。前述した知人の言う芸能人のように、スポーツも2つに分別される。テレビで中継(とくに生中継)されるスポーツと、そうではないスポーツに、である。テレビで中継されるスポーツはメジャーであり、そうでないスポーツはマイナー扱いされる。

マイナースポーツは、五輪でメダル獲得の可能性がある場合にだけテレビ中継される。つまり、テレビに映るときだけメジャーに昇格する。女子ソフトボールや女子レスリングがその典型的例である。それが、良し悪しはともかく、現在のスポーツが置かれている状況である。

 プロ野球も同様に分別されている。全国ネットで生中継されるセ・リーグと、生中継されてもせいぜいローカル圏域でしか放送されないパ・リーグとに、である。セ・リーグの試合が全国ネットで生中継されるといっても、それは読売巨人軍との試合だけである。セ・リーグの各球団は、読売巨人軍との試合だけは、球場が満員になり、巨額な放映権料が入る。球団の知名度が全国規模に拡大することにより、関連グッズなどの収入も大きくなる。

 セ・リーグが、パ・リーグが求め、多くの野球ファンが熱望するインターリーグ(公式戦でのリーグ間の交流試合)を拒否してきたのは、読売巨人軍との試合で得られる利益をセ・リーグで独占するためである。パ・リーグは、セ・リーグ球団が享受する圧倒的な『読売巨人軍効果』を、ただ指をくわえて眺めるしかない。セ・リーグとパ・リーグの球団に大きな収入差があるのは、当然の結果である。

 現在の球団数を2つ減らして10球団による1リーグ制にすればどうなるか。読売巨人軍中心の『一極集中』がさらに加速する。セ・パ2リーグ制では、巨人軍と対戦することで得られる利益をセ・リーグの5球団で分配してきた。1リーグ制になれば、この利益を全球団が等しく分配することになる。しかし、そうなれば、読売巨人軍の球界への支配力は倍加する。読売巨人軍の直接的支配力が、全球団に及ぶことになる。

 読売巨人軍に有力選手が集中する要因になったFA制度も、ドラフト制度の改悪(ドラフト制度の本来の趣旨であるウエーバー方式からかけ離れた逆指名、自由獲得枠)も、読売巨人軍主導で進められてきた。読売巨人軍の直接的な支配力がセ・リーグだけに限定されていても、これだけの力があった。それが、1リーグ制で全球団に及べば、どれだけの支配力を行使できるか、論証するまでもないことである。

 1リーグ制は避けられないとしても、読売巨人軍の圧倒的支配力を封じるためにはどうすればいいか。それには、プロ野球の制度、組織を抜本的に見直すしかない。親会社の『道具』でしかなかった目的と経営形態を改める必要がある。リーグと球団とを自立した経営体にしなければならない。そのためには、プロ野球機構を、個別の球団や親会社のためではなくプロ野球全体の発展を目的とした組織に、野球協約をそのための条文に改めなければならない。

 野球協約を改正して、コミッショナーの権限を強化し、テレビ放映権の一括管理や球団ごとに選手の年棒総額を制限するサラリーキャップ制の創設、FA制度・ドラフト制度の改正、選手保有制度の改正(移籍の自由化)を行うことは、当然である。プロ野球は、球団を保有する親会社の利益のために運営されるのではなく、プロ野球自体の利益のために運営されなければならない。それを前提に、各球団が利益を生み出し、自立した、持続可能な経営形態に変えなければならない。

 そして、もうひとつ重要なのは東アジアの野球界との連携である。韓国リーグ、台湾リーグ、そして勃興したばかりの中国リーグとの連携である。プロ野球界が球界再編で揺れるさ中、MLB(メジャーリーグベースボール機構)が来年春の野球のW杯開催を提案した。プロ野球界は消極的な対応だとメディアは伝えている。「消極的」ではなく、「それどころではない」が本音だろう。しかし、東アジアとの連携によって日本野球の市場と経営規模を拡大し、東アジアの野球と一体的に動くことなしには、MLBの攻勢には対応できない。

 最後に、プロ野球再編は、優れて経済問題であることを指摘したい。近鉄とオリックスとの合併問題は、関西経済界の雄であった近鉄本体の再建策の一部である。そして、今後必ず浮上するダイエーの合併問題は、ダイエー本体の再建のためには避けては通れない課題である。巨額な有利子債務を抱え、公的資金を投入された大手銀行に債務免除を含めた支援策を求めているダイエー本体が、球団を保有していること自体が異常なことである。間接的ではあるが、国民の税金が球団経営に使われることになるからである。

 近鉄がオリックスとの合併構想を発表した翌日である6月14日、日本経団連の奥田碩会長が記者会見で、「1リーグ制で球団の数を減らすのが一番合理的」「12球団は多い。8球団程度なら内容もしっかりして観客の入りもよく、変化も出て面白いのではないか」と語ったことは、偶然ではない。8球団による1リーグ制は、プロ野球再編を進める渡辺恒雄・読売巨人軍オーナーが、前々から主張していたことである。奥田氏は、プロ野球再編にエールを送る一方で、再編を機会に日本経済界の『患部』を手術すべきであると語ったのである。(2004年6月29日記)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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