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プロ野球再編は『終わりの始まり』なのか

2004年06月29日(火)
萬晩報通信員 成田 好三

 プロ野球は来シーズン、1リーグになる。ほとんど確実にそうなる。理由は簡単である。6球団によるリーグ戦でも経営が困難なパ・リーグが、5球団による変則リーグ戦で経営が成り立つ訳がない。来シーズン、変則リーグ戦を行うことはリーグの自殺行為になる。パ・リーグと各球団の経営は確実に破綻する。もっと正確にいえば、各球団の親会社が、球団の赤字補填に耐えられなくなる。

1リーグ化には大きな痛みが伴う。球団数を2つ減らして、12球団が10球団になれば、およそ17パーセントに当たる選手がリストラ対象になる。リストラ対象選手は、合併する球団の選手には限らない。いわゆる「ところてん方式」で、すべての球団の選手が対象になる。選手には特別な救済措置が取られる。しかし、他球団も余分に選手を抱え込む余裕はない。リストラの対象は選手だけではない。監督、コーチから球団職員まで、野球界を構成するすべての人員が対象になる。選手以外は、救済措置は講じられない。

 1リーグ化すれば、プロ野球は正常な経営が成り立つのか。これも、ほとんど確実にそうはならない。読売巨人軍中心の『一極集中』が、さらに加速するからである。プロ野球がもつ歪(いびつ)な構造の改革に手をつけないまま1リーグ化しても、問題を解決したことにはならない。

 近鉄とオリックスの合併問題に端を発した球界再編、1リーグ化への動きは、プロ野球の『終わりの始まり』になる可能性を強くはらんでいる。

 プロ野球は不思議な世界である。この国最大の人気スポーツでありながらも、その組織形態は極めて脆弱である。戦後一貫して自立した、自己完結した、つまり循環型の組織にはならなかった。

 プロ野球はいつも、誰かのための『道具』であった。常に他の目的のための道具でしかなかった。一部の例外を除いて、各球団は自立した経営体としては成立していない。球団は、赤字経営が当然視されていた。その赤字は親会社が広告費名目で補填してきた。

 戦後の高度成長期からバブル期まではそれでよかった。球団の赤字体質をとがめる者など誰もいなかった。球団の赤字など、親会社の利益で十二分に補填できたからである。国民的人気スポーツであるプロ野球の球団を保有することは、親会社、とくにそのオーナーにとっては、何ものにも代え難い特権であり、球団の億単位の赤字など大きな問題ではなかった。

 バブル崩壊後は、そうした社会状況ではなくなった。親会社が球団の赤字補填に耐えられなくなってきた。近鉄が今年1月末に発表した球団命名権売却(球界の猛反発でその後撤回)と、今回のオリックスとの合併問題は、球団の赤字を親会社が補填するという、戦後長く続けてきたシステムがもはや限界に達したことを示すものである。

 プロ野球の憲法とされる野球協約は、欠陥だらけ、矛盾だらけのものである。しかも、プロ野球機構は、野球協約を一般に公開していない。野球協約はプロ野球機構、パ・リーグ、セ・リーグ両連盟の公式ホームページにも載っていない。唯一、プロ野球選手会公式ホームページだけに掲載されている。プロ野球選手会は「野球協約等の掲載について」と題したページで、掲載理由などについてこう述べている。

「(前略)現在、コミッショナー事務局は、野球協約等を外部には公開していないようで、選手会に問い合わせが来るようです。(中略) 日本のプロ野球の野球協約は非常に厳しい保留制度をはじめ、法律的にも制度的にも多くの問題を含んだ内容となっています。しかも球団側は、野球協約について、野球協約上定められている手続きすら経ないで変更してしまいます。(後略)」

 プロ野球の憲法と称しながらも当事者自身は野球協約を公開せず、交渉団体(労働組合)である選手会だけが公開している。その一点だけみても、野球協約のいかがわしさがわかるというものである。読者も一度、野球協約を読んでいただきたい。きちんと読んだとしても、内容が頭に入るような代物ではない。

近鉄が球団売却ではなく、合併を選択したのは、この協約があるためである。協約では、球団購入者は参加料30億円を、プロ野球機構と他球団に支払うと定めている(第6章36条の6)。新規に球団を設立した場合は加盟料60億円をやはり同じ相手に支払うという規定もある(第6章36条の4)。

 近鉄本社が合併発表に際して、この不況時に売却相手がいないと説明していたが、売却できないのは不況のためだけではない。赤字球団を買収した上で、さらに理屈に合わない30億円の参加料を支払う人物や組織がどこにいるだろうか。

 参加料、加盟料の条文は、バブル期に、社会的に認知されていない人物や組織の球団買収を阻むために設けられた。しかし、この条文は結果としては、球団保有者の流動化を阻止するものになった。球団は、売りたくても売れない、買いたくても買えないものになってしまった。

 この条文は、現在の球団保有者を固定化する結果を生んだ。退場すべき保有者の退場を阻み、参入すべき新たな保有者の参入を阻むことになった。プロ野球はこの条文によって、最悪の意味での『中世ギルド社会』と同様の組織になったといえる。(2004年6月27日)

 【注】野球協約は改正前の過去の条文も含めて日本プロ野球選手会公式ホームページに掲載されています。

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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