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TVニュースキャスターの常套句

2004年05月22日(土)
萬晩報通信員  成田 好三

 自らの年金未納が確認されたとして、民主党の小沢一郎氏が代表就任を直前になって辞退した5月17日の夜、帰宅後につけたNHKのニュース解説「あすを読む」で、解説員の神志名泰裕氏が、国会議員の年金未納問題と政局に関する話をしていた。

 神志名氏、いやほとんどすべてのNHK解説員の、経過説明だけは明確だが、主張と結論のはっきりしない解説は、好きではない。それでも、代表就任直前での小沢氏辞退のニュースを聞いた後だけに、しばらく神志名氏の解説に付き合った。

 小沢氏辞退を受けて急遽原稿を差し替えたこの夜の解説も、何一つとして主張もなく、結論もない、ありきたりのもので、聞くだけ時間の無駄と言っていい類のものだった。しかし、神志名氏が10分程度の番組の中で、何度も繰り返した、ある言葉にひっかかった。「私たち国民の立場では―」「私たち国民の側から見れば―」という言葉である。

 この言葉は、神志名氏や他のNHK解説員ばかりではなく、民放キー局のキャスターが愛用する常套句である。彼らは、「私たち国民の立場ー」を前提にして閣僚や国会議員、民間(企業)の権力者に質問する。

テレビ朝日「サンデープロジェクト」の田原総一郎氏の場合は、質問ではなく攻め立てると言っていいだろう。TBS「ニュース23」の筑紫哲也氏ならば、少し斜に構えたもの言いで、この言葉を使う。テレビ朝日「ニュース・ステーション」を降りた久米宏氏は、皮肉と嫌味をこの言葉の裏に塗りつけて質問を投げかけていた。

 NHKの解説員や、民放キー局のニュース番組(あるいはニュースショウー)を采配する著名なキャスターたちは、「私たち国民の国民の側から―」と言える立場だろうか。

 閣僚や国会議員である権力者、民間の権力者も国民であるから、彼らが言う「国民」には、一般国民、庶民、市井の人の意味が込められている。しかし、TVのニュースキャスターは一般国民であるだろうか。断じて「否」である。

 彼らは、ニュースの取捨選択権をもっている。彼らが選んだニュースの切り口、扱い方を選択する権利ももっている。彼らの情報量は圧倒的である。彼らの情報源へのアクセス権は、彼らが自らを形容する「私たち国民―」とは、まったく違ったものである。彼らが番組中に語る短いコメントは、いや言葉以外の表情やしぐさでさえ、世論形成に大きな影響を与える。

 閣僚や国会議員の年金未納を攻め立てた、田原氏や筑紫氏ら多くの民放キー局のキャスターたちも未納経験者だった。しかし、彼らが未納経験者だったことは、大きな問題ではない。問題にするならば、相手を攻め立てる前に、自らの年金問題を確認しなかった、彼らのお粗末さである。彼らは、菅氏と同様の過ちを犯したにすぎない。

 それにしても、菅氏の対応は政治家としてお粗末だった。相手を挑発する刺激的発言・質問で「喧嘩屋」として名をはせた菅氏は、小さな喧嘩には強いが、大きな喧嘩にはからきし弱い男であった。あるいは、政局観も大局観をもたない男であった。

 年金法改正案成立の見通しが立つまで自らの未納問題を隠し(嘘をついて)、その責任を取るとして官房長官を辞任した福田康夫氏や、未納(未加入)問題の発表を秘書にやらせ、しかも発表日を北朝鮮訪問の発表と、小沢氏の党首就任受諾(翌日に辞退)にぶつけた小泉純一郎首相のやり方は、姑息そのものである。

 しかし、政治家の喧嘩、つまり勝負のやり方としては、小泉首相、福田氏と、菅氏では、大人と子どもほどの違いがある。大型連休後の週末、代表辞任論の嵐の中で外遊日程を切り上げて帰国した菅氏は、民放各局を行脚して弁明を繰り返した。しかし、この行為は逆効果になった。各局のキャスターやアナウンサーは、菅氏から「辞任」の言質を取ろうと、てぐすねひいて待ち構えていたからである。菅氏から言質を取れば、そのTV局、その番組の「特ダネ」になるからである。

 メディアは、ある意味で「浮き草」のような存在である。そのことを菅氏は認識できなかった。メディアはその時々の風向きで、その「ベクトル」をいくらでも変えることができる存在である。

 大きな問題は、ニュースキャスターたちが、ほとんど無意識に使う、「私たち国民の立場から―」という言葉である。彼らは本来、こう言うべきである。「世論調査やアンケートなど、ある一定のデータに基づいた国民の意向によれば―」。あるいは、「メディア側の『権力者』である私(キャスター)から見れば―」と前置きして質問すべきである。

 TVを見る大多数の視聴者、つまり一般国民は、キャスターを自分たちと同じ立場にいる人たちと認識しているはずはない。逆に、そう認識しているとすれば、この国の社会が異常なのである。

 TVのニュースキャスターたちは、一般国民の代表者でも代弁者でもない。キャスターたちは、彼らがもつ情報量や情報の質、専門性、見識を前提にして権力者と対峙すべきである。キャスターたちが一般国民の中に身を隠してしまうことは、卑怯な行為である。社会にとっては危険な行為ですらある。彼らがそうした行為を続けていけば、権力者同士の「言葉遊び」を、本物の一般国民は、冷ややかに見るだけになる。(2004年5月21日記)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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