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アテネの空を覆うテロの脅威

2004年05月12日(水)
萬晩報通信員  成田 好三

 2004年8月13日。この日は、アテネ五輪の開幕予定日である。「開幕日」ではなく、「開幕予定日」と書いたのには訳がある。これまでの五輪とは違って、アテネ五輪は、アプリオリ的に、あるいは絶対的根拠をもつて、この日に開幕できるとは断言できない五輪だからである。

 その理由は2つある。1つは大会開催準備の大幅な遅れである。もう1つはもっと大きな、深刻な問題である。五輪をターゲットにしたテロの脅威が日増しに強まってきたことである。

 アテネ五輪開幕予定日の100日前に当たる5月5日、日本の新聞各紙はそろって五輪特集を組んだ。朝日、読売、毎日、日経をチェックしたが、4紙とも見開き2ページの特集だった。いずれもメダル獲得が期待される日本の有力選手紹介が中心で、開催準備の遅れを指摘する記事もあったが、4紙とも似かよった内容だった。

 そして、4紙の特集ともある共通のテーマを「無視」していた。テロの脅威を取り上げた紙面はどこにもなかった。国際的なテロの脅威にどう対応するかということこそ、アテネ五輪に突きつけられた最大の課題である。しかし、4紙ともこの日の紙面では、1面などの生ニュースも含め、テロの脅威に関するテーマは一切取り上げなかった。

 アテネ五輪は、ソフト・ハード両面での開催準備の遅れから、通常本大会の1年前に行われる「プレ大会」は開催されなかった。開催準備は、今年3月のギリシャの政権交代によってさらに遅れることになった。政権移行期に準備作業が滞ったからである。

 既に、競泳会場の屋根は断念された。マラソンコースもまだ整備中である。メーン会場となる五輪スタジアムの屋根も完成していない。施設整備の遅れに関して、ギリシャのカラマンリス首相はこう語っている。「私たちギリシャ人が一致協力して仕事をすれば、奇跡を成し遂げることができる」(4月8日、毎日電子版)。記事はこのコメントに「楽観的」という見出しをつけているが、はたしてそうだろうか。施設整備の遅れは、もはや『奇跡』を期待しなければならないところまできている。

 しかし、施設整備の遅れは、五輪の開催自体を危惧するほどの重大問題ではない。施設が完全に整備されなくても五輪は開催できる。競泳会場には、屋根などなくてもいい。五輪スタジアムを覆う巨大なガラスの屋根などなくても、競技運営に支障は起こらない。マラソンも、古代ギリシャの史跡や現代ギリシャの観光名所をたどるコースではない、別のコースを設定すればいいだけのことである。

 競泳や陸上競技は本来、青空と太陽の下で行われるべきものである。会場に屋根などない方が古代オリンピックを生んだ地で開催される、アテネ五輪にふさわしい大会になる。巨大化、肥大化した現在の五輪を見直す絶好の機会にもなる。

 テロの脅威が日増しに高まってきたことは、施設整備の遅れなどよりはるかに大きく、深刻な問題である。アテネ五輪はテロから守られるのか、あるいはテロに蹂躙されるのか。そのことによって、五輪、サッカーW杯も含めた国際スポーツイベントの将来が左右されるからである。

日本の新聞各紙が、アテネ五輪は予定通りに開催できるという、アプリオリ的な判断のもとで特集紙面を掲載した、開幕100日前に当たる5月5日には、アテネ中心部にある警察の建物付近で時限爆弾3個が爆発し、警察官1人が軽症を負った。アテネでは昨年9月と今年3月にも時限爆弾が仕掛けられた。

 ギリシャ政府は、国際テログループの関与を躍起になって否定している。五輪開催の成功が至上命題であるこの国の政府にとって、爆弾事件の影響をできるだけ小さなものとして封じ込めたいからである。スペインの列車同時爆破事件でも、当時の政権は犯人グループを国内過激派によるものと決めつけていた。その過ちが総選挙による政権交代につながった。ギリシャの爆発事件も、真相が明らかになるには、ずっと先のことになるだろう。

 ギリシャ政府は、五輪警備に北大西洋条約機構(NATO)の協力を要請している。3月13日・日経電子版によれば、スペインの列車同時爆破事件により、五輪開催期間中のテロの懸念が強まっており、特に空海域などでの警戒に協力を求める。今後国会手続きを経てNATO軍駐留を受け入れる方針だという。NATO軍の駐留が実現すれば、アテネ五輪は、当事国の警察や軍隊だけでなく、外国の軍隊によって警備される初めての五輪になる。

 五輪の主催者である国際オリンピック委員会(IOC)は、アテネ五輪で初めて保険に入った。4月28日・日経電子版によれば、テロや戦争などによって五輪が中止に追い込まれた場合に保険金が下りる。保険金総額は1億7000万ドル(約180億円)。IOCと各国のオリンピック委員会などが受取人になる。

 アテネ五輪は、4年前に開催されたシドニー五輪とはまったく違った状況下で開催される。『9・11』以降、アフガン戦争からイラク戦争へと続く新たな形態の『世界戦争』の状況下での五輪になる。国家体制自体を否定する方向に走り出した国際テログループにとっては、世界中の国家(地域)が国家の名の下に参加する五輪ほど効果的なテロのターゲットはない。

 アテネ五輪は、開催国のギリシャがNATO軍に警備を依頼し、五輪主催者であるIOCが『戦争保険』に入らなければならない状況下で開催が準備されている。しかし、日本のメディアは、そうした状況に背を向けて能天気な五輪特集を組んでいる。

 日本のメディアは、新聞、TVともビジネス面であまりにも深く五輪と関わりすぎている。ビジネス面で彼らに都合の悪いニュースである、テロの脅威やテロに対応するためのNATO軍への警備依頼やIOCの『戦争保険』加入の事実は、ニュース価値とは正反対に極めて小さく、できるだけ控えめに報道してきた。メディアが既に本来の役割である「観察者」ではなく「当事者」の立場にあることを理解したとしても、能天気にも程があると考えるのは筆者一人だけだろうか。(2004年5月12日記) 

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/


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