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リヒテルズ直子さんからのオランダ教育風説書

2004年02月27日(金)
長野県南相木村診療所長 色平哲郎

 ・・・すべての人は異なる存在です。
 言い換えれば、すべての人はユニークであるといえます。
 ユニークというのは、たった一つ、という意味で、
 他とは違う、ということです。
 あなたは他の人とは違う外見を持っているし、
 あなたは他の人とは違うものを美しいと思います。

 自分の兄弟や姉妹でさえも違います。
 すべての人は違う、ということについて
 「個人」という言葉を使うことも出来ます。
 「個人」とは一つのまとまった全体として固有の性質を持った人、
 という意味です。
 そしてすべての人は独自の性質を持っているので、
 自分を大切にするためにそれぞれ違ったものを選ぶのです。
 たとえば、石鹸でも食べ物でも自分で選ぶのです・・・

 以上、Verzorging voor jou より 発行元 Malmberg den Bosch

 オランダ・ハーグ市在住の友人、リヒテルズ直子さんから、娘さんが中学生の時に使っていた教科書を翻訳でご紹介いただきました。オランダの中学1年生が学ぶ「保健・家庭・道徳」の一番初めにこの文章が出てきて、どんなに時間が足りなくても、この部分はすべての中学生が学ぶといいます。

 オランダは中高一貫で、この教科は中等学校の前期段階の必修科目とのこと。教科書は公立・私立の別なく、教員の自由選択によって選ばれるとのことです。

 福岡のご出身で、大学院の研究員として、マレーシアのマラヤ大学に留学し、イスラムの伝統農村で入村調査をしていたリヒテルズ直子さんは、そこで、開発協力の専門家としてきているオランダ人のお連れ合いに出会い、15年ほどアフリカやラテンアメリカの国々に住んだと伺います。

 以下は彼女から届いた「オランダ教育風説書」です。


 ・・・すべての個人が一人一人違う、ユニークな存在であることを認めたら、「移民」などという言葉で人を括ることは出来なくなります。移民でない私たちでさえ、千差万別だからです。

 人を見たら、すぐに、民族・宗教・性差・性傾向・言語集団・階層など何かのカテゴリーで括ってしまおうという傾向が強い人ほど、「個性」がいかに大切で、いかに可能性に満ちたものであるかを知らないのだ、と思います。

 こうしたことを中学校で教える前に、オランダの小学校では、現在、授業としてだけではなく、あらゆる場面を利用して、生徒自身が他の個人とどう関わるべきか、また、集団の中で、さらには、大きな集団としての社会、そして国を超えた世界の中で、どのように行動すべきかについて教えています。

 経験を分かち合う、親切にする、共に遊びともに働く、役割を果たす、自分自身を人に紹介する、一つの選択をする、などです。それは、先生の話、体験の共有、ロールプレイなどを通じて行なわれています。

 そして、最後にとても大切なことが教えられます。
「自分を自分で守る」ということです。

 (1)自分が何かを望まないときには「ノー」という
 (2)約束が守られない時にはもう一度約束をしなおす
 (3)他の人が不親切だったり不公平だったりした時には、
   それをきちんという
 (4)助けを求める
 (5)自分が忘れられていたり無視されていたりしたら
   それをきちんという
 (6)自分自身についての意見をしっかり守り通す

以上、ロッテルダムの民間教材研究所 CED が開発した「社会・情動形成」のための教材で、小学校の中学年(7歳から10歳)を対象にしたものより:CED/ Kwintessens : Kinderen en hun Sociale Talenten


 このような社会情動教育には、専門の教育学者や教育心理学者の手で、実に多様な教
材が用意されています。学校の先生たちは、このように、広く領域を網羅ししかも、例え話や生徒に与える課題などを添付した教材の中から、教室の状況に適したものを選んで使うことが出来ます。

 上述の6項目を見ていると、こうした教育を今一番必要としているのは、ほかでもない日本の子ども達なのではないかと感じます。

 ところが日本では、それに気付いている教師ですらも、取り組むことができません。教師自身の「個人」としてのユニークさが認められていないからです。学校それ自体がユニークな教育をすることを社会が認めていないからです。

 政府もそうですが、社会も大多数においては、「個人」がどんなにユニークで価値ある存在であるのか、ということの認識について、あきらめの感覚をもってしまっているのではないのでしょうか。結局、そういう政府を支えてきたのは、「個人」のユニークさを押さえつけることで生活の糧を得ることを余儀なくさせられてきた日本の国民です・・・


 確かに、オランダの教育環境をそのまま日本に持ち込み得る、とは考えにくいところがあります。しかし、教育についてどういう視点で考えるべきか、という意味で、多くの示唆があると感じました。

 江戸時代、世界情勢を知る術は、入港するオランダ船が長崎奉行に届ける「オランダ風説書(ふうせつがき)」だけでした。ヨーロッパやアジアの最新情勢をまとめたレポートは、鎖国下の貴重な情報源として、幕府が提出を義務づけていたもので、内容は幕府の機密だったのです、、、


 以下は、昨日リヒテルズさんからいただいた最新の「風説書」です

 ・・・昨夜、高校1年生の娘の「公民」の宿題につきあわされました。
 教科書に書いていないことを先生が説明し、
 明日までに次の課題を解いてこい、
 というわけです。

 「福祉国家と民営化」について、というものでした。
 全国紙に掲載された「民営化問題についての論説」、
 福祉社会に関する部分の政治学の論文が資料です。

 そして、オランダ国家、ヨーロッパ連合、
 官立組織の労働者、民間資本家、消費者という
 5つのカテゴリーのそれぞれの立場で、
 「民営化による利点は何か」
 「各カテゴリーの人々の利点は相互にどのように連関しているか」
 「民営化によって有利なのは誰か」
 を記述・説明し、
 そして、最後に、自らの立場を明らかにして、
 「民営化」に賛成か反対かの議論をせよ、というものでした。

 15歳16歳の子供たちが、
 こういう課題をこなすのに、ふうふういいながら、
 しかし何とか答えを出そうとしている・・・
 市民を育てるとはこういうことだ、と感じました・・・


 今年6月に日本国で発行予定の本に、リヒテルズさんはオランダ教育について、まとめて報告する予定と伺いました。
 詳しくは、『オランダ通信』まで
 http://home.planet.nl/~naokonet/index.htm
(いろひらてつろう)

 色平さんにメールは mailto;DZR06160@nifty.ne.jp

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