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秀吉式―鳴かせてみせようイラク問題

2002年09月12日(木)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有


 ワシントンでは国家安全保障とイラク問題で持ちきりである。「ホームランド」という南アフリカのアパルトヘイト時代によく使われた用語が飛び交っている。アメリカでもこの用語はごく最近頻繁に使われだしたという。テロ対策として米国本土の守備を固めることが最重要課題であることから、ホームランドという用語が強調されている。世界貿易センタービルやペンタゴンといった国家の中枢が攻撃されたのだから、守備の甘さを補うための政策がホームランドの安全保障として強化されてあたりまえである。

 ブッシュ政権の特徴は、ダブルスタンダードで形成されていることである。守備の甘さを補うための政策が強化されたかと思うと、「攻撃は最大の防御なり」との考えで先制攻撃にも力点がおかれつつある。イラク問題が話題になる背景には、フセインが化学、生物そして核兵器を保有し使用した場合、アメリカ本土が被害を受けるから、アメリカ単独でもフセインを退治してしまえという考えがある。

 ブッシュ政権のタカ派の考えは、信長の「鳴かぬなら殺してしまえ不如帰」である。とにかくブッシュ政権の武闘派とフセインが戦争することで失うものがないという考えや両者の利益が一致したときに21世紀の悲劇が生まれるのである。

 明らかにフセインは戦争好きである。80年初頭はイラーイラ戦争、90年は湾岸戦争、そして21世紀の初頭は化学、生物、核戦争を企てようとしている。ブッシュ政権の先制攻撃に対し否定的な論調が多いが、一貫して経済協力や対話による協調的安全保障の重要性を唱えている筆者であるが、ことフセインに関しては信長の考え方も重要であると思えてならない。

 筆者は、イラーイラ戦争の最中、久保田鉄工の鉄管輸出の仕事でバグダッドに駐在した。1981年にイラクの核疑惑の施設にイスラエルが攻撃した後、その現場を訪れた。世界の世論はイスラエルを非難したが、考えてみれば、もしイスラエルの疑惑に対する先制攻撃がなければ、イラクは核開発を進め、その後の湾岸戦争でフセインが核を使用する可能性が高かったと考えられる。

 ブッシュ大統領は、国連総会で核戦争から米国や世界を守るためにフセインを追放することが不可欠だと訴えるだろう。ビンラディンでさえ抹殺できない現在の安全保障の脆弱さから判断すると、ブッシュ政権のタカ派の論調も真っ向から否定できない。米英を除くイラク問題に対するスタンスは、国連の決議に従い時間をかけながらイラクと平和裏に交渉する展開である。「鳴くまで待とう不如帰」の家康式である。

 これからは「鳴かせてしまえ不如帰」の秀吉式の考えに切り替えなければ、911に並ぶ惨事が発生する可能性がある。フセインの生物、化学兵器を使用した戦歴から考慮すると想像を絶する戦いを仕掛けることが予想できる。ことフセインに関しては「アメとムチ」でもムチの強化が不可欠だと考えられる。筆者はイラクへの先制攻撃は慎重であるべきだとのスタンスを取りながらも、フセインが国連の再三にわたる申し出に応じなければ先制攻撃も正当だと考える。

 このように表現すると「和の精神の重要性」を唱える筆者の一貫したスタンスに反すると思われる読者もおられると思うが、あくまで先制攻撃についても国連である程度の協議を進めてから行うべきであると思う。タイトルで示したとおり「秀吉―鳴かせてみせようイラク問題」これこそテロ撲滅のための外交政策として有効に機能するのではないだろうか。このようにアメリカのシンクタンクに勤務したばかりの筆者が中江兆民のいう「洋行帰りの紳士」から「豪傑君」に変身したかと思われるかもしれないが、ミサイル防衛等については一貫して反対の意見を唱えるが、テロに関してはもっと強気の政策をとらなければ取り返しのつかないことになると思われてならない。読者のアドバイスをいただきたいと思う。

 中野さんにメールは TNAKANO@brookings.edu

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