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アメリカ地球温暖化戦略−広がる波紋
2001年05月18日(金)
萬晩報通信員 園田 義明

 ■米京都議定書離脱の波紋=米国連人権委員会落選

 5月3日、国連経済社会理事会(54理事国)による国連人権委員会のメンバー国改選が行われ、アメリカは1947年の同委員会創設以来初めて落選し、少なくとも来年はメンバー国としての資格を失うことが確定した。また7日には、国際麻薬統制委員会(INCB)の委員改選でもアメリカは、落選しており、国連内のアメリカの不人気ぶりが際立ってきたようだ。

 ブッシュ米政権による温暖化防止のための京都議定書からの離脱表明や、ミサイル防衛システムの早期配備構想などの政策が、EU諸国や途上国などの反発を呼んだ結果と見られており、ブッシュ政権に厳しい洗礼を浴びせかける内容となった。

 これに対してアメリカは、国連アナン事務総長の再三にわたる自制呼びかけにもかかわらず、5月10日、下院にて2億4400万ドルにのぼる国連分担金の滞納分を支払わないようとする予算関連法案の修正案を可決した。

 国連人権委員会の米国落選について、世界各紙が大きく取り上げるが、とりわけ中国側の反応が興味深い。中国メディアは、一斉に各国世論を紹介したうえで、中国人権研究会の朱穆之名誉会長のコメントを掲載する。アメリカが長期にわたり人権を掲げて覇権主義的行為を行っていることについて、朱名誉会長は、「正義感を持つ人々は早くから不満や反対を表明してきた」と指摘し、アメリカが落選したことにより、「人権の名を借りて覇権を推進する米国のやり方を支持する人はいないことが十分に証明された」と述べた。天安門事件以後の鬱積した反米感情が一気に爆発したようだ。

 ■結束強めるEU−エシュロンとアンブレラグループ

 アメリカの衛星通信傍受システム「エシュロン」による情報傍受・分析で民間企業の動きなども対象としているとの疑惑を調査するため訪米していた欧州議会の「エシュロン問題特別委員会」は、5月10日、予定を早めて急遽帰国することになる。

 当初予定していた米国務、商務両省関係者との会談が直前になってキャンセルされ、中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)との会談も拒否されたためだ。

 EU側は、ブッシュ政権が、ミサイル防衛構想推進の一環としてエシュロンの強化を図っているとみており、今回のアメリカ側の「門前払い」がEU独自の対エシュロンシステム構築の動きを加速させることになろう。

 EU側は、エシュロンの実際の能力は限定されているとしつつも、国益が絡む分野では、政府の情報機関が意識的に高度な経済関連情報を提供しているとし、産業目的に使われていることがあるとの認識を示している。

 エシュロンは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で編成されている。

 京都議定書問題における、非EUグループ=アンブレラグループの構成は、日本、アイスランド、アメリカ、ウクライナ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、ロシアの9カ国(オブザーバーとしてカザフスタンが参加)で形成されていることに注目すべきであろう。

 さてこのアンブレラグループに参加する日本は、エシュロンについては極めて不透明な存在になっている。EUからは、日本政府が何らかの形でエシュロンに関与している疑いを持たれており、一方では青森県の米軍三沢基地内に1980年代以降に相次いで建設された衛星通信傍受用施設により、日本の外交関連や企業の通信が傍受・分析対象となっているともみられている。

 5月7日から欧州各国の社会民主主義政党首脳らが出席する第5回欧州社会党大会がベルリンで開幕し、シュレーダー独首相、ジョスパン仏首相、ペーション・スウェーデン首相ら20政党の幹部約300人が参加したが、イギリスのブレア英首相は総選挙の準備を優先し大会を欠席した。この欠席は、EUの限界をみせつけるものかもしれない。

 ■動き始めたEU外交

 EU議長国であるスウェーデンのペーション首相らEU首脳代表団は5月2、3の両日、北朝鮮を訪問し金正日総書記と会談を行う。日米欧の西側首脳としては初の訪問となる。帰国後にスウェーデンで開いた非公式外相会議で、北朝鮮へ技術支援を実施することを確認した。

 その第一弾として国際通貨基金(IMF)・世界銀行への加盟手続きなど金融経済分野の助言とエネルギー復興への技術支援の2分野を対象に月内にも専門家を派遣する。

 また3月にストックホルムで行われたEU首脳会議でも、ロシアに対して環境プロジェクトの資金として最大1億ユーロを融資することで原則合意している。

 地球温暖化防止会議のプロンク議長(オランダ環境相)は京都議定書の運用ルール作りを急ぐため、主要各国との個別会談に乗り出すことを表明しているが、特に対象は、欧州連合(EU)、日本、アメリカ、ロシア、オーストラリア、中国、イラン(途上国グループ代表)などとみられており、特にアンブレラグループへの対応が焦点となりそうだ。

 特に日本に対する交渉を強化しており、金総書記がEU代表団に表明した2003年までのミサイル発射凍結方針は、日本に対する駆け引きに使われそうだ。

 ■火花散るグリーンピースと米オイルカンパニー

 4月5日、環境保護団体グリーンピースが最新の米企業ランキング「フォーチュン500」の上位100社に対し、1週間以内に米政府の方針に反対する意思表示をしない限り、企業名を公表して消費者に不買運動を呼び掛けると通告したが、4月26日に「GREENPEACE TO TARGET US OIL COMPANIES(グリーンピースは米オイルカンパニーをターゲットに)」を掲載し、100社の実名と回答内容を公表する。

 このリストには、米国最大のロビー団体であるUSCIB(The US Council for International Business)との関係も明記されているが、なかなか鋭いところをついているようだ。

 事実USCIBは、4月11日にブッシュ支持を表明しておりグリーンピースのターゲットがここに絞られたようである。このブッシュ大統領に宛てた親書の中では、アンブレラグループとの密接に協調していくことが明記されており、日本企業に対しても相当な圧力がかかっているようだ。

 さて回答した企業の中にも態度を明確にしていない企業も存在する。特に注目されるのは、USCIBの主力メンバーでもあるフォードとデュポンの動向であろう。

 フォードは、5月3日、ウィリアム・クレイ・フォード・ジュニア会長自らが、地球温暖化に対して積極的に取り組む姿勢を示した。ブッシュ政権へのコメントは避けたが、米産業界すべてがブッシュ政権を支持しているわけではない。またデュポンもグリーンピースに対してこれまでの温暖化問題への取り組みと実績を回答している。

 このデュポンのチャールズ・ホリデイCEOが会長を務める国際的な評議会がある。ここに環境分野に積極的に挑みながら、21世紀の主役を担う企業が集結している。(つづく)

参考・引用
ガーディアン、BBC、英エコノミスト、ロイター他海外メディア、
日本経済新聞、時事通信、共同通信、産経新聞、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、NHK他日本メディア

GREENPEACE TO TARGET US OIL COMPANIES
http://www.greenpeace.org/pressreleases/climate/2001apr26.html
Climate Change and the US Corporate 100
http://cybercentre.greenpeace.org/climate/summarizeCorporate100

United States Council for International Business
http://www.uscib.org/index.html

 園田 義明さんにメールはyoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

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