HAB Research & Brothers

 

CAD/CAMソフトが支配する世界的自動車再編

2000年11月06日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄

 経営不振の日産自動車がフランスルノーの傘下に入り、三菱自動車はダイムラークライスラーが40%近くの株式を取得して経営の主導権を握ることになった。マツダは従来からフォードの世界戦略に組み込まれていたから、民族系の大手自動車メーカーはトヨタ自動車と本田技研工業の2社だけとなった。

 自動車アナリストたちはフォードによるスウェーデンのボルボ買収や独ダイムラーと米クライスラーの経営統合などを目にして「年産500万台規模以下の自動車メーカーは生き残れない」と言い出した。500万台という数字に大した根拠があるわけでないのに、ある日突然、マスコミを含めて自動車産業に携わる人たちが「500万台」を口にし始めた。だが「500万台」という数字以上に業界の連携を強めている要素がコンピューターソフトであるというのだ。

 ●日本の金型が世界に誇れるのはあと10年

 三次元CAD/CAM(コンピューターによる設計・製造)向け開発ソフトをつくっている日本ユニシスの話を聞く機会があった。少々専門的でややこしいがお付き合い願いたい。

 現在、世界の金型生産の4割は日本で、アメリカは1割程度でしかない。実質的にアメリカの自動車産業を支えているのは現地進出した日本企業で、日本ユニシスの加藤氏によると「フォードでは自動車ボディーをほとんど自前でプレスできずに、オギワラという日本の金型メーカーに外注している」ということである。ここだけを聞くと日本も捨てたものではないという話で終わるが、加藤氏のこの後の話を聞くと、いまの日本産業が抱える深刻な悩みに突き当たる。

 1980年代の金型産業にはコンピューターですらかなわない「指先でミクロンの差を感じる職人」が多くいて日本の製造業の底辺を支えていたとされる。しかし日本の金型が世界に誇れるのは10年しかないそうだ。円高によるコスト増だけでない。3Kとされる職場の平均年齢は51歳。金型生産は次々と台湾、タイ、中国などに移転し、日本としてもアジアに依存せざるをえない状況が生まれているのだ。

 しかも、長く職人の領域とされてきた金型の世界にコンピューターが相当程度、浸食しつつあるという。二次元のCAD/CAMの世界では日本勢のソフトが世界的に比較優位にあったが、三次元に入ったとたんに日本勢が影を潜めたというのもまぎれもない事実であるらしい。

 開発コストが二次元の場合の10倍もかかり、国内市場だけでは開発コストの回収が困難になっていることと、日本の企業が海外に展開するには言語のハンディが大きすぎるというのが、日本勢が相次いで撤退したおおまかな経緯のようである。

 ●ものづくりを支配しかねない開発ソフト

 この結果、世界を支配する三次元CAD/CAM用開発ソフトは、GM系EDS開発の「Unigraphics」とフォード系の「IDEAS」とヨーロッパの「CATIA」、そして日本ユニシスの「CADCEUS」という4方式に収斂されてしまった。三次元のCAD/CAM用ソフトの需要は微妙な曲線の車体設計を求められる自動車産業がほとんどで、主にボディーのプレス成形に用いられる金型製作に使われる。

 混乱がないように説明すれば、日本ユニシスはアメリカのユニシスと三井物産が28.36%ずつの株式を所有する東京証券取引所の上場企業。アメリカのユニシスの子会社のように考えられがちだが、そうではない。三次元CAD/CAM用開発ソフトも日本独自の開発である。

 さて三次元のCAD/CAM用開発ソフトといっても全世界でワークステーションが数千台規模しかない。しかし、コンピューターソフトという「ものづくりの遺伝子」を支配しかねない領域だけにソフト開発は国家戦略的な意味合いを持つことになるという。ヨーロッパの「CATIA」はもともとミラージュ戦闘機のための開発ソフト。EUによって「CATIA」に統一された後、各国のノウハウを加味したシステムがフランス、ドイツ、イギリスにある。

 「CATIA」はダイムラー社が最大の顧客だったが、実は事業統合したクライスラーもこの「CATIA」のユーザーだった。面白いことに三菱自動車もまた「CATIA」のユーザーで、ダイムラー・クライスラーそして三菱自動車を結びつけたのは、結果論かもしれないが「CATIA」という開発ソフトだったのかもしれないというのだ。

 一方、フォードとマツダは「IDEAS」陣営で、日産自動車とルノーも「IDEAS」の仲間だった。ルノーは後にフランス政府の強い圧力でヨーロッパ規格の「CATIA」に乗り換えているが、ここでも開発ソフトが提携関係を結びつけた可能性がないわけではない。

 残るトヨタは日本ユニシスの「CADCEUS」の変形である「TOGO」を使い、ホンダは「CATIA」なのである。コンピューターソフトを中心に俯瞰すれば、トヨタの結婚相手は世界にはなく、ホンダはダイムラー・クライスラーの血縁ということになる。

 重要なことは、世界最大の自動車メーカーであるGMが納入業者に系列企業であるEDSが開発した「Unigraphics」というソフトの採用を納入の条件として納入業者を自分たちの遺伝子にフォーマットさせようとしていることである。世界の自動車産業はコンピューターソフトの共通化という企業戦略を核に据え、ものづくりの主導権を握るべく動き出しているのだ。


 【読者の声】

 ●Fw:CAD/CAMソフトが支配する世界的自動車再編 November 06, 2000

前略。知人が標記の記事を送ってくれました。大変興味深く拝見しました。若干のコメントをお送りします。

>  ●日本の金型が世界に誇れるのはあと10年
>  しかも、長く職人の領域とされてきた金型の世界にコンピューターが相当程
> 度、浸食しつつあるという。二次元のCAD/CAMの世界では日本勢のソフトが世界
> 的に比較優位にあったが、三次元に入ったとたんに日本勢が影を潜めたという
> のもまぎれもない事実であるらしい。
 私はかねて見方が悲観的なこともあるのですが、直感的に同意します。
>  この結果、世界を支配する三次元CAD/CAM用開発ソフトは、GM系EDS開発
> の「Unigraphics」とフォード系の「IDEAS」とヨーロッパの「CATIA」、そして
> 日本ユニシスの「CADCEUS」という4方式に収斂されてしまった。
 通常ハイエンドの3次元CADというと、「Unigraphics」、「IDEAS」、「CATIA」に加え、「ProEngineer」を4大CADと言いますが、自動車業界では違うということでしょうか。「CADCEUS」は、世界的にはごく最近のニューフェースと思います。

 それから、こういう表現だと、UnigaraphicsはGM系が開発、IDEASはフォード系が開発などと誤解されかねません。何れも自動車メーカーとは独立にCAMが開発されたと認識しています。CATIAは、仏のDassault社の開発ですが、近年IBMが全面的にバックアップしています。

 自動車メーカーとCADベンダーの関係についての私の理解は、トヨタはケーラムを自社開発してきたのですが、今ではその負担の大きさに困っているとの噂です。米国のビッグスリーもかってはCADを自社開発していたのですが、相当前に(多分3次元CADが商品化された頃)、ベンダーのCAD製品の活用に切り替え、その結果、開発コストの負担減と先端CADの即時活用というメリットを享受できるようになったとの説があります。

>  日本ユニシスは、アメリカのユニ
> シスの子会社のように考えられがちだが、そうではない。三次元CAD/CAM用開発
> ソフトも日本独自の開発である。
 そうなのです。日本ユニシスだけが3次元CADに熱心で、かつ最近猛烈に国際展開をかけているのです。親会社のユニシスはCADはやっていないとのことです。

>  「CATIA」はダイムラー社が最大の顧客だったが、実は事業統合したクライス
> ラーもこの「CATIA」のユーザーだった。面白いことに三菱自動車もまた「CAT
> IA」のユーザーで、ダイムラー・クライスラーそして三菱自動車を結びつけた
> のは、結果論かもしれないが「CATIA」という開発ソフトだったのかもしれない
> というのだ。
これは結果論ではないでしょうか。検討要因の1つには挙がっていたにしても、決 定要因だったとは思いません。

>  一方、フォードとマツダは「IDEAS」陣営で、日産自動車とルノーも「IDEAS」
> の仲間だった。ルノーは後にフランス政府の強い圧力でヨーロッパ規格の「CAT
> IA」に乗り換えているが、ここでも開発ソフトが提携関係を結びつけた可能性
> がないわけではない。
 その可能性は本当にあるのでしょうか。
> 世界の自動車産業はコンピューターソフトの共通化という企業戦略を核に据え、
> ものづくりの主導権を握るべく動き出しているのだ。
 うーん。共通化という戦略も重要ですが、変換ツールも発展しています。またポイントは、自動車メーカーがCADソフトの開発を自社では行っていないことであり、他のソフトが優れていると思えば、乗換える可能性というのはあると思います。CADベンダーの方も、自動車業界は大きいのですが、ベンダーの個別の事情によっては自動車向けをバックアップしなくなる可能性もあるでしょう。以上僭越なコメントで失礼しました。よろしく。(I・S)

 ●3次元化も時代の流れでは? November 06, 2000

 いつも楽しみに拝見しております。今回の「CAD/CAMソフトが支配する世界的自動車再編」を読んで思った事を書きたいと思います。私は派遣ですが、電器メーカーで機械設計を行っており2次元CADを使用しています。今は業務の傍ら3次元CAD(I-DEAS)を操作できる様、訓練しています。

 まずは3次元化のメリットについての説明があっても良かったかなと思いました。3次元化によって製品の開発期間が短くなっているのは事実です。私の勤務先でも3次元CADを導入している部門では、3次元データでの設計によって、試作品を製作せずに3次元データを使用してデジタル上で製品評価を行い、3次元データをNC工作機の加工データに使用する事で金型製作の期間を短縮するといった使い方をしています。こうした方法によって開発期間が確実に短くなっています。自動車メーカーではマツダが新車開発に28ヶ月かかっていたのが3次元CAD/CAMの活用で14ヶ月になったのは有名な話です。

 開発期間の短縮を要求されている現在において、3次元化は時代の流れとも言えます。しかし、3次元CADでもそれぞれのCADではデータの互換性が無いという問題もあります(IGESというデータ変換の規格がありますが、これを使用すると100パーセントの状態でデータが変換されない事もあり、後でデータ修正が必要になったりします)。

 個人的には海外の3次元CADが市場の殆どを占有している事は寂しく感じますが、CATIA、I-DEASなどは私が社会人なった10年前から存在していました。当時は3次元CADは見向きもされませんでしたが、度重なる改良によって今の地位を確立したといえます。10年前に国産の3次元CADは無かったのではないかと記憶しています(間違っていたらすみません)。この業界でもうまく構造転換出来なかったのではと感じています。

 今回の話で、かつて日本海軍が敵艦探索にレーダーを使用せず、視力の良い兵士を使用しレーダーの実用化に遅れ、アメリカ海軍が序盤は苦労しながらレーダーを使用し続け性能を向上させ、戦局後半には日本海軍を圧倒した事を思い出します。

 今後も製造業では3次元化は続いていくと思います。また対応できないと取り残される事になりそうです。もうご存知の事柄もあると思いますが、その時はご容赦ください。また私よりも詳しい方からのご意見もあるかと思います。今回の話は私にとって身近な話でしたので嬉しかったです。それと同時に、伴さんはこの業界にも関わりがあるのは驚きました。これからも色々な業界の話も読めると勉強になります。お体には気を付けて、配信をお願いします。(N・S)


 Date: 07 Nov 2000

 いつもお世話になります。「CAD/CAMソフトが支配する世界的自動車再編」面白かったです。私も実はまさにこの現場に携わっています。自動車本体のの開発ではなく、その純正用品の開発ですが。通常新型車両の発表発売の約1年前からその開発はスタートします。特に現在は軽自動車のマイナーチェンジが重なっており超多忙な日々が続いています。

 しかしあまりに身近なため気がつかなかったですね。確かにいわれてみるとそんな棲み分けがあるように思います。ただホンダがCATIAに統一し始めたのは比較的最近のことだと思います。

 ところで某T社とD社グループはデータでの車両開発を徹底してきています。最近発表された新型車両も最後まで試作車両を見ることがなかったですよ。

 また特に樹脂(インジェクション、真空成形)についてはアルミ型や樹脂型の技術が向上してきています。ショット数に限りがあるためライン部品には不適ですが小ロットではよく使っています。工期が短く金型費も安いからです。これも3次元データから金型移行に入れます。(Y・S)


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