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プーチン大統領の東亜歴訪と沖縄サミット

2000年07月21日(金)
中国情報局 文 彬

 「欧州とアジアの両翼を持つバランス外交」を標榜するプーチン大統領は東アジア3ヶ国(中国、北朝鮮、日本)歴訪の最初の日程をクリアするため、17日深夜、北京空港に降り立った。ロシア首脳就任後、ようやく国内問題に一段落をつけたプーチン大統領が、アジア外交を展開しようとしている。その出発点に中国を選んだのはもちろん単なる地理的な理由だけではない。

 翌日午前、釣魚台国賓館に一晩休んだプーチン大統領は、天安門広場で江沢民国家主席主催の15分間の歓迎式典に出席したあと、その足で人民大会堂に入り、友好ムードに包まれた中ロ首脳会談に臨んだ。そして、事前に用意されたシナリオ通り、中ロ間の「戦略的なパートナーシップ」が再確認され、米本土ミサイル防衛計画(NMD)に反対する共同声明など複数の合意書の調印もスムーズに行なわれた。

 NMDは、アメリカが旧ソ連と締結した弾道弾迎撃ミサイル防衛(ABM)制限条約を無視する計画で、ドイツ、イギリスなど西側からも反対の声が高まっている。また、アメリカの主張する「北朝鮮の脅威」も先般の南北首脳会談が象徴するような一連の氷解現象によって一気に説得力が弱くなったため、中ロにとってはアメリカ牽制に好材料が提供されたわけである。(19日に平壌の百花園迎賓館で行なわれたプーチン・金正日会談では金総書記が条件付でミサイル開発を断念することを露大統領に示唆した。)

 冷戦後、進むアメリカの一極支配に対抗しようという中ロの思惑が一致した。背景には世界の多極化を提唱し、国際舞台での発言権を強めたいという両国の打算も入っているが、中ロそれぞれの抱える地域紛争や民族対立の現場からアメリカの介入を排除したいという共通の願いも込められている。プーチン大統領の訪中を前に江沢民国家主席が記者団に、「多くの問題について両国の意見は似通っている」と言ったが、その最大の共通項はアメリカの影響を極力排除したいことであろう。

  現在進行形の朝鮮半島の和平プロセスに対しても同様の理由で両国の意見が全く一致した。中ロ首脳北京会談の翌日、平壌入りしたプーチン大統領は、江沢民国家主席との会談の内容を百花園迎賓館で金書記に伝えた上で、朝鮮半島の和平には「ロシア、北朝鮮、韓国、米国、中国、日本の支援が必要だ」と6ヶ国の交渉の枠組みを再度強調し、アメリカの影を薄くしようとする姿勢は明らかである。

 ともに国連安保理の常任理事国であり、核保有国でもある中ロが「全方位にわたる多層的でハイレベルな両国関係を構築していき」(プーチン)、「戦略的なパートナーシップを確立し、発展させて行くことで世界の多極化プロセスを推進する」(江沢民)ことで合意し、アメリカ対抗の連合戦線の構築を確認したことで、エリツィン前大統領時代に築き上げた中ロ蜜月関係は一層強固なものになったわけである。

 プーチンの東亜歴訪の終点は日本だ。主要国首脳会議(サミット)出席のため、21日にロシア極東のブラゴベシチェンスクから沖縄に乗り込む予定だ。中国、北朝鮮で得た様々な合意はプーチン大統領の何時でも切り出し可能な有力カードになるわけだ。いままでサミットでは経済援助を受けるだけの立場だったが、沖縄サミットではNMD批判、朝鮮半島の和平を中心にオブザーバーのわき役から一転、主役になる可能性も十分ありうる。

 そもそも小渕、森両内閣が最大の外交課題としており、数百億円の巨額の資金を費やすことになる沖縄サミットは日本が期待しているほど大きな意義を持つイベントであろうか。ヒラリー夫人をはじめ、ほとんどのファーストレディーがそれぞれの理由で沖縄に姿を見せないとの報道を聞いたときでも、疑問を抱く人が多くいたはずだが、サミットの主役であるクリントン大統領までも、ワシントンで11日から続くイスラエルとパレスチナの交渉が難航していることを理由に、サミット開会前に東京で予定された森首相との日米首脳会談をキャンセルしたことは、沖縄サミットのプライオリティが大きく後退したことを示す出来事である。だが、日本政府がそれに気付くのにはあまりにも時間がかかりすぎた。

 冷戦時代のように、世界の動向に大きく影響を与え、緊張感溢れるサミットはもう既に存在していないのかも知れない。日本政府の発案で「IT憲章」を打ち出すことがそれなりに大きな意義を持つことは否定しないが、日本政府の期待はもちろんIT分野に限るものではない。沖縄サミットで議長国としての役目を完璧に演出することを通して、世界の政治舞台で発言権を強めていきたいのが本音ではないのだろうか。

 だとすれば、日本政府、というよりも森総理は、「強い新生ロシアの再建」を目指すプーチン大統領のように、対米追随外交を一刻も早くやめて、重大な国際問題に対してはっりきとした独自の見解とソリューションを示すことが出来るように体質を改善しなければならない。

 そして、到来するアジアの時代の中で、日本は今こそ明治以来の「脱亜入欧」から原点に戻り、アジアに目を向けるように心がける必要があるのではないのだろうか。沖縄サミットでの議長国である日本政府としての責務はただイベントが「無事に」行なわれ、万歳三唱で幕を閉じるのではなく、リーダーシップを発揮し、沖縄サミットをアジアと欧米の平和交流の場にしてもらいたいと思う。(2000.07.20)


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