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自民党でまた動き出した規制緩和反対論

2000年04月06日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄



 小渕前首相の急病による政権交代で森内閣が生まれていたころ、規制緩和に逆行する政府の会議が開かれていた。お酒の販売免許の許認可が今年9月に一部撤廃されるのを前に、未成年の飲酒防止策などを図る総務庁、公正取引委員会など関係省庁連絡会議の初会合があったのである。

 ●言い出しっぺは武藤元総務庁長官

 未成年の飲酒防止などという誰もが反対できないスローガンを挙げているが、実は酒販業界が新規参入を阻止し、お酒の安売りをやめさせようと謀っているにすぎない。

 具体的にいえば、新たに酒屋を店開きするときに既存の酒屋と一定の距離が必要とされる基準の廃止を3年間延期させようとしているのだ。

 言い出しっぺは武藤嘉文元総務庁長官である。自民党の一部が「規制緩和が行き過ぎだ」と「種類販売の不当廉売防止策」を求めた。自民党にとっても選挙を控えて支持基盤の酒屋のおっさんどもの協力を得る強力な武器となる。

 問題はこの有志の会の「日本経済を活性化し中小企業を育てる会」という名称である。一見変哲もない名称であるが、会に主旨からすれば、守ろうとしているのは中小業者だけであって「日本経済の活性化」は付録のようなものである。

 武藤氏は「弱肉強食の行き過ぎを是正したい」と主張しておられるようだが、果たして日本で規制緩和は進んだのだろうか。萬晩報から見れば、規制緩和は中途半端どころか、目標だけが掲げられて実際には多くの規制がそのまま生き残っているところに日本経済の隘路があると言わざるを得ない。

 日本という国の問題点は景気が回復基調に入ると自分の病状をすっかり忘れて、暴飲暴食に走るところにある。これまで何回規制緩和がさけばれて、何回緩和を先延ばししてきたかしれない。平成の大不況と経てようやく日本も自らの患部にメスをいれるのかと思っていたら、この体たらくである。

 もう一つ問題があるのは、自民党の単なる有志の会の提言を政府が総がかりで対処し始めたことである。そもそも武藤氏は規制緩和を押し進める元締めの元総務庁長官であると同時に自民党の行政改革推進本部庁である。これまで行革で培った人脈を使って、自ら判断して決めたはずの総務庁行政を逆行させようというのだから度し難い。

 ●タクシーの規制緩和にも魔の手

 この育てる会は、タクシー業界の規制緩和についても近くもの申す方針だ。まがりなりにも同一地域複数料金が実現し、今年から新規参入や増車を自由化する段取りになっている。京都では路線タクシーなどという新しいアイディアまで出ている。多くの市民は競争が激化して業界のアンシャンレジームが淘汰されることを望んでいる。

 実は守っても欲しいと考えているのは業界団体だけで、票が取れると誤解しているのは自民党議員だけである。

 意欲ある企業はそれぞれに規制緩和に対処した経営方針を考えていたはずだし、心ある自民党議員はもはや旧来の支援団体は頼りにならないことを知っているはずだ。

 いずれにせよ、タクシー業界の規制緩和の実施延期が運輸省中心に語られる日が間近に迫っていることだけは確かだ。


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