ユシームはインナー・サークルの形成時期を1970年代前半から1980年代初頭としている。企業収益率の急激な低下や環境政策をめぐる政府規制の強化などが財界にとってかってない危機意識を呼び起こし、財界結集の形で形成された。
●従来型とは異なる日本の経済人脈
見事に復活を遂げたアメリカの姿とは対照的に日本は1990年のバブル崩壊以来出口の見えない平成不況が続いている。今の日本のおかれた状況がアメリカインナー・サークルの形成時期と非常に重なって見える。
コーポレイト・ガバナンス改革論のなかで日本でも確実に取締役兼任制によるネットワークが形成されつつある。
『財界』1999年8月24日号にて上場企業を対象に社外取締役採用状況の調査を行っている。その結果採用している会社はわずか35社のみである。ただしこの中には明らかに従来の財閥型、金融グループ型とは異なるインナー・サークル型結合関係が見られる。
採用企業
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社外取締役
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富士ゼロックス |
宮内義彦オリックス社長 |
経済戦略会議 |
三和銀行 |
鈴木哲夫HOYA会長 |
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NTT |
今井敬新日本製鉄会長
小林陽太郎富士ゼロックス会長 |
経団連会長
経済同友会
経済戦略会議
21世紀日本 |
オリックス |
宮原明富士ゼロックス副会長
田村達也A・T・カーニー会長 |
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ソフトバンク |
藤田田日本マクドナルド社長
宮内義彦オリックス社長
重田康光光通信社長
村井純慶大教授
大前研一 |
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ソニー |
ピーター・G・ピーターソン
末松謙一さくら銀行常任顧問
中谷巌一橋大非常勤講師 |
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アサヒビール |
竹中平蔵慶大教授
岡本行夫岡本アソシエイツ代表 |
経済戦略会議
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(21世紀日本は「21世紀日本の構想」懇談会の略)
アサヒビールについては2月19日日本経済新聞の朝刊会社人事掲載内容をもとに追加した。アサヒビールでは役員改革の一環として取締役の数を現在の四十人から社外取締役を含めて十人にする方針でそれに伴う人事としている。
アサヒビールの社長、会長を十三年間務め、同社の躍進の立役者となった樋口広太郎氏が同社取締役を三月末で退くことになる。アサヒビールには名誉会長・相談役としては残るが、樋口氏は今後、「経済戦略会議」議長など産業界の代表としての活動に専念する意向とのことである。樋口氏は孫正義氏の「ナスダック・ジャパン」及「新生長銀」の経営にも参加する予定である。
新生長銀の経営陣には、日米の著名な経済人がずらりと並んだ。CEOには八城政基氏元エッソ石油社長、前シティバンク在日代表が就任する。八城氏を社外取締役としてサポートするのは今井敬経団連会長(新日本製鉄会長)、樋口広太郎アサヒビール名誉会長、P・ボルカー前米連邦準備理事会(FRB)議長、クリストファー・フラワーズ、ティモシー・コリンズの面々である。
新生長銀がエスタブリッシュメント的人事が強く出ているが、孫正義を中心とする新興経済人の活躍にも注目が集まる。
●小林陽太郎・孫正義・宮内義彦
『財界』では日本国内での調査しか行われていない。この点を補足しながら今一番の注目である「富士ゼロックス」と「ソフトバンク」と「オリックス」のネットワークを分析したい。
富士ゼロックスの小林陽太郎会長はアメリカゼロックス本社取締役でもあり他にアセア・ブラウン・ボベリ、エアー・プロダクツ等の取締役も兼任している。日米欧三極委員会日本会長。経済同友会会長。外交問題評議会(CFR)国際諮問委員会メンバー。スタンフォード大学、ペンシルバニア大学、慶応大学、日本国際大学理事。そして今は亡き盛田昭夫氏(ソニー会長)の後任としてジョージ・シュルツ元国務長官が会長を勤めるJ・P・モルガン・インターナショナル・カウンシルのメンバーにも選ばれている。
この小林陽太郎氏は2000年1月1日付け日経新聞の「新経営創造」にて非常に興味深い発言をしている。
「宮内(義彦・オリックス社長)さんらに入ってもらって役立っている。宮内さんにネットビジネス拡大やプリンター参入などの話をしても『コア(核)に近いところからきちんきちんとやっていくべきだ』とアドバイスを受けている。地道な人だと思う」
「産業界全体が一度、大きく米国流に振れるべきだ。ゼネラル・エレクトリック(GE)やIBMなど勢いのよい企業に共通しているのは、異質な目を絶えず意図的に取り入れていること。優秀なトップを外部から招いたり、競争力のある他社を買収することによって強い刺激を受け、組織がいつも変質している。組織は『化学反応』しなくてはいけない」
ソフトバンクの孫正義社長はナスダック・ジャパン設立合意から国際派の仲間入りを果たせたようだ。
フランク・G・ザーブ(Frank G.Zarb)は、1997年にNASDの会長兼最高経営責任(CEO)に就任した。NASDは、証券業界最大の自主規制機関であり、The Nasdaq-Amex MarketGroup, Inc.と NASD Regulation, Inc.の親会社である。
1994年6月から1997年1月まで、Alexander & Alexander Services, Inc.の会長、最高経営責任者(CEO)、社長を務めており以前には、The Travelers, Inc.の副会長兼グループ最高責任者を務め、1988年にはTravelers子会社のSmith Barney
で会長兼最高経営責任者(CEO)に就任していた。また現在、Credit Suisse First Bostonの取締役会のメンバーでもある。
1974年から1977年には、米国政府のエネルギー関連事業すべてに携わる高官を務めた。大統領の諮問機関に匹敵するエネルギー資源審議会の最高責任者、連邦エネルギー局局長、エネルギー問題の大統領補佐("エネルギー問題担当長官")を務めた。1973年から1974年に連邦政府行政管理予算局の副局長、そして1971年から1972年には副労働長官の職責にあった。こうした役職を歴任する間に、ニクソン、フォード、レーガン、ブッシュ、そしてクリントン政権に仕えている。
オリックスの宮内義彦社長は二人と比べると一見地味にみえるが打ち出す内容は豪快である。電力卸売りでアメリカ最大手であるエンロン社と提携し日本での電力自由化に向けた準備を着々と始めている。既得勢力による独占市場に果敢に挑む姿勢は見事である。まだこの先どうなるかわからないIT分野に参入するよりビジネス上の確実性を重視したしたたかさを感じる。
◆最近のニュース
2月14日 日債銀の譲渡先としてソフトバンク、オリックス、東京海上火災保険などの企業連合に内定。
2月14日 「世銀のジェームス・ウォルフェンゾーン会長」と「ソフトバンク孫正義社長」は発展途上国でのインターネット普及に向けた合弁会社「ソフトバンク・エマージング・マーケット(SBEM)」の設立を発表した。
初めての株主総会の時に、二人の創業者の写真をポケットにしのばせて臨んだ出井伸之ソニー社長もゼネラル・モーターズの社外取締役に就任している。将来の日本の為にもう一歩踏み込んだ活躍に期待したい。
●「21世紀日本の構想報告書」より
『日本人が「日本のよさ」を誇るにしろ、それは特異に閉じこもることではなく、普遍へと開かれたものでなくてはならない。そのためには、立ち止まって日本のよさをあげつらうよりは、世界の未来に向かって、全身をあげて参加することがまず大切ではないか。それによってこそ、時には矛盾に苦しむことはあっても、日本人のよさ――われわれでさえ未知の潜在力も含めて――が普遍性をもつものとして磨かれるのではなかろうか。こういう態度で生きていけば、日本の「(ニュー・)フロンティア」は日本の中にあることが見えてくる。』
内閣法では首相を除く閣僚の数は20人以内とし、憲法はその内過半数が国会議員でなければならないと定めている。つまり現在の法律のもとでも半数近くの民間人の起用は可能である。
筆者の手元のリストには世界で注目を集める日本人政治家の名前は存在しない。
「ニュー・フロンティア」はこのページの中にある。
経済戦略会議
メンバー
|
井手 正敬
伊藤 元重
奥田 碩
鈴木 敏文
竹内 佐和子
竹中 平蔵
寺田 千代乃
中谷 巌
樋口 廣太郎
森 稔 |
JR西日本会長
東京大学教授
トヨタ自動車会長
イトーヨーカ堂会長
東京大学助教授
慶大教授
アートコーポレーション社長
一橋大学教授
アサヒビール
森ビル社長 |
協力者 |
出井 伸之
奥谷 禮子
小林 陽太郎
新宮 康男
立川 敬二
根本 二郎
宮内 義彦 |
ソニー社長
ザ・アール社長
富士Xerox会長
関経連会長
NTTドコモ社長
日経連会長
オリックス社長 |
「21世紀日本の構想」懇談会
懇談会メンバー
幹事 |
浅海 保
天野 曄
五百旗頭真
翁 百合
川勝 平太
小島 明
小林陽太郎
佐々木 毅
中村 桂子
船橋 洋一
星野 昌子
三善 晃
向井 千秋
山崎 正和
山本 正 |
中央公論新社編集局次長
日本小児科医会会長
神戸大学法学部教授
日本総合研究所主任研究員
国際日本文化研究センター教授
日本経済新聞社論説主幹
富士ゼロックス会長
東大法学部教授
JT生命誌研究館副館長
朝日新聞社編集委員
日本NPOセンター代表理事
作曲家・東京文化会館長
宇宙飛行士
劇作家・評論家・阪大名誉教授
日本国際交流センター理事長 |
国内ヒアリング先 |
飯村 豊
大城 常夫
榊原 英資
笹森 清
孫 正義
野上 義一
比嘉 良彦
山代 元圀 |
外務省経済協力局長
琉球大教授
慶大教授・前財務官
連合事務局長
ソフトバンク社長
外務省外務審議官
沖縄県政策参与
UNI-ASIA会長兼CEO |
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