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発展と紛争の可能性を秘めた北東アジア

2000年01月14日(金)
とっとり総研主任研究員 中野 有



年末・年始とヨーロッパで過ごし、久しぶりに世界の中の日本を鳥瞰した。やはり北東アジアの動きが気にかかる。安全保障、経済の両面から展望しても、北東アジアの動向と日本の将来は密接に関連しているように思われてならない。

 冷戦後の地域紛争は、民族・宗教問題や地域間の経済格差に起因しているとすると、日本と目と鼻の先にある朝鮮半島は地域紛争が発生する確率が高い地域である。従って、世界で最も不確実性の高い地域は中近東に並び北東アジアであるとする米国国防総省の分析にはうなずける。

 かといっても、日々生活に追われる市民が、国家や世界観、はたまた安全保障について考える暇はないのが現実である。しかし、朝鮮半島の問題に関しては、歴史的視点と北東アジアを取り巻く国際情勢を展望すれば、市民レベルで、朝鮮半島の紛争を未然に防ぐ方策を考え、北東アジアの開発を推進する必要に迫られているのではないだろうか。

 少なくとも市民が国際舞台で通用する政治家を選び、日本が多国間協力や協調的安全保障を模索しながら北東アジアの信頼醸成構築のため明確なビジョンを提示しなければ日本の発展はない。

 百有余年の歴史をひもといてみても、北東アジア特に、中国・北朝鮮・極東ロシアの国境が接する地域は波風の激しい地域であり、日清・日露戦争、満州事変、大東亜戦争の導火線となった。一方、今世紀初頭のこの地域はシベリア鉄道も通り、インフラ整備も進展し繁栄していたが、これら一連の戦争や冷戦構造がこの地域の発展を遮断してきた。冷たい戦争が終わり10年が経過したが、北朝鮮を中心とするこの地域は依然冷戦構造が残り、38度線は技術的には戦争状態である。

 いわゆるこの地域は存亡の激しい地域である。地政学的、経済学的に見ても、中国・北朝鮮の労働力、極東ロシア・モンゴル・北朝鮮の天然資源、日本・韓国の資金・技術力が、相互補完的に機能することにより自然発生的経済圏が生み出される条件を備えている。

 EUやNAFTAに匹敵するだけの経済圏が生み出されるポテンシャルを秘めている。概すれば、北東アジアは発展のポテンシャルと紛争の要因の両方を兼ね備えた地域である。では、どのようにすれば紛争を未然に防ぎ経済圏を構築することができるか。

 それは歴史から学ぶのが一番であろう。大東亜戦争等の紛争を回避する政策は、存在していたのであろうか。70年以上の歴史を誇る米国の外交雑誌である「フォーリン アフェアーズ」の戦前の北東アジアに関する論文と、満鉄の経済調査局の大川周明の戦後の述懐には共通項がある。

 それは、日米協力による満州の開発、特に多国籍企業を通じたインフラ整備の推進で「開かれた経済圏」を形成することができ、それが地域の信頼醸成に直結し、紛争を未然に防ぐことに役立つとの視点である。例えば、日露戦争後、米国の鉄道王であるハリマンは、世界一周の陸海の交通ネットワークを作るにあたり、日米協力による満州鉄道の整備の推進等を提案してきた。しかし、日本に不利なポースマス条約の影響もあり、日本の世論が日米協調を拒み排他的政策をとった。

 当時の国際情勢の流れの中で米国との協力は至難の業であったが、仮に米国等を含む多国間協力で大東亜経済圏の開発が推進されたなら、日本の孤立化によるエネルギー問題は回避できたであろう。そして、歴史の回転舞台が違った方向に回ったかもしれない。歴史に「もし」は存在しないが、「フォーリン アフェアーズ」の論文に書かれているように戦争回避の分岐点は確かにあった。

 戦後、米国は共産主義封じ込め政策により、日本を安全保障と経済の両輪から支援した。そのきっかけを作ったのは、米国の若手国務省官僚のジョージ・ケナンの「フォーリン アフェアーズ」で発表されたX論文であった。この論文により無名の外交官が一躍、冷戦理論の第一人者になり、世界地図に冷戦の設計図が描かれ日本はその恩恵を受けたのである。このように論文やビジョンにより世界が動くことがある。

 現在、世界のフラッシュポイントである朝鮮半島では、米国の包括的アプローチや韓国の太陽政策、また日中韓による北東アジアの共同研究、そして超党派による平壌訪問も実現され、かってなかった建設的な動きが見え始めてきた。

 そこで、日本の役割であるが、北東アジアの開発を多国間協力で推進していくことではないだろうか。日朝国交正常化は予測より早く実現されるだろう。日本の資金や技術力に加え、リーダーシップが期待される。北朝鮮に対する資金協力は二国間ではなく、多国間の協力が有効であることから、北東アジア開発銀行構想が注目されつつある。

 日本は軍事で北東アジアの勢力を均衡させるのではなく、協調的安全保障に則った予防外交の担い手になることが肝要である。冷戦後直後のサミットの場で東欧やロシアを支援する「ヨーロッパ復興開発銀行」が生まれた。今夏の沖縄サミットでは、北東アジアのインフラ整備を推進する「北東アジア開発銀行構想」が議論されるべき最適の場であるだろう。(なかの・たもつ)


 中野さんへメールはnakanot@tottori-torc.or.jp
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